社会人大会の良さを語ろう
昨夜、佐藤三兄弟(綾人さん、颯人さん、嘉人さん)、安藤梨友さん、堀孝輔さん、満仲進哉さんが10/1の社会人選手権(岐阜・で愛ドーム)に出場すると発表があった。「黄金世代」と呼ばれる学年の、同期スターが集結したドリームチーム。ファンの間に激震が走る。
あらためて、彼らが大学3年時の映像を見返してみた。個人選手トップ8の競演、全日本インカレ種目別決勝。まずはスティックに出場した選手について語っていきたい。
堀孝輔さん(同志社大学)
言わずと知れた、ジャパン2連覇中の社会人チャンピオンである。東勢が上位を占める中、同志社大学の看板を背負って奮闘する堀選手の演技を見つめる同期の西原昌希さんと後輩の藤綱峻也さん。そのチームワークに見ている方も心が和む。黄金世代を代表する名選手であり、すでに男子新体操界のレジェンドである。今年の社会人大会では団体も個人も、ということかと思うが、このスリムな体のどこにそんな体力があるのだろう。高校生の頃から「凡人ではない」とは思っていたが、いやはや凄い人がいたものだ。そして、今年も彼の演技を見られることを幸せに思う。きっと後年「私は堀孝輔の演技を見たことがある」と自慢できる存在になるだろう。
吉村龍二さん(国士舘大学)
試合は真剣勝負の場だ。勝者が生まれ、敗者が生まれる。黄金世代は、優秀な同期たちとずっと競い続けてきた世代でもある。卒業後、吉村選手が社会人大会に出場してくれた時は、ことのほか嬉しかった。
さて次は名作揃いのリング。
安藤梨友さん(青森大学)
この大会で個人総合優勝したのが、ジュニア時代から全国大会のタイトルを総ナメにしてきた安藤さんである。彼のリング「愛の賛歌」を初めて見た時以来、この演技の大ファンだ。見ているだけでなんだか涙が出てくるのはなぜだろう。先日、長年男子新体操界に貢献してくださった杉江先生の訃報に接したが、この作品は杉江先生が残された作品群の中でも、ひときわ光り輝く大傑作だと思っている。またつい先日、ご本人が演技のラストで左腕のスパンコールを反転させて色を変えていた、という種明かしをしてくださった。いや〜気づけなかったなぁ。この演技を見るときは、いつもラストあたり目が涙で曇っていたから、ということにしておきたい。梨友さんについては、また後ほど。
川東拓斗さん(国士舘大)
青大が安藤・城市のワンツーフィニッシュを決める中、国士舘大学の主将である川東拓斗さんは、無念の3位。種目別は前半のスティック・リングのみ出場という、苦しい大会となった。この鬼気迫る種目別リングの演技の後、ロープとクラブを棄権。山田監督の前で悔し涙を流した。山田監督によると、「情けないです」と泣いていたという。
その後、彼はジャパンで見事優勝。この年のインカレは、彼の最も苦しかった思い出の一つであろうと思う。その川東さんも、卒業後に社会人大会に出場され、演技後には和やかな笑顔を見せてくれた。
小川恭平さん(花園大学)
井原高校時代はキャプテンとしてインターハイ団体優勝。オーラのある、眩しい選手だった。小川さんが3年生の時、花園大学の発表会で4年生を中心にカメラで追いかけながらも、「来年は黄金世代をたくさん撮るんだ!」と心が高鳴っていたことを思い出す。でも結局、コロナのせいでそれは叶わなかった。この大会のリングでは、視野外のキャッチで惜しいミスが出てしまったけれども、彼独特のキレのある伸びやかな動きを堪能できる。小川さんについて書いたノート記事は、最もよく読まれている記事の一つ。
そして次は、選手たちが「難しい」と口々に言うロープ。ロープがたるむだけでも減点という、厳しい種目。
佐藤嘉人さん(青森大学)
モノトーンで襟元が個性的な衣装。男子新体操の衣装は「体に密着していなければならない」というルールがある。クルーネックなのにVネックっぽくて、しかも襟付きのような装飾。左肩と左足には同じモチーフがあしらわれている。さすがはオシャレな佐藤三兄弟。これだけの実力ある選手が高校時代は個人で一度もインターハイに出られなかったというのだから、勝負の世界は厳しい。現在はタレントとして活躍する三つ子君たち、ロープを使ったパフォーマンスも行っているようだが、三つ子君ファンの方々には、新体操用のマットの上で行う彼らの本気の演技も是非見てほしい。
石川裕平さん(国士舘大学)
種目別の常連である彼も黄金世代の1人。高校生の頃から、試合での堂々とした強心臓っぷりが魅力的だった選手。キッと正面を見据える見得の切り方は、この人の右に出る人はいないのでは。肩が常に外側を向いていて、基本姿勢が綺麗。現在はNHKテレビ体操のアシスタントとして活躍中だが、その素質があったんですねぇ。彼は根っからのエンターテイナーで、試合会場を「石川劇場」に変える力を持った人だった。いつかまた、試合のマットの上で「おりゃあ!」とやってほしい。
向山蒼斗さん(国士舘大学)
インターハイを制し、高校生の頂点に上り詰めたルーキーのインカレデビュー。驚異的なスピード感ある演技で、黄金世代がひしめく上位陣に食い込んだ。常にストイックに世代の先頭を走り続けた向山さんも、もう卒業してOBに。コロナの影響をもろに受けた世代。もっと観たかった。彼の演技の中で私がとても好きなのは、このリング。曲のイントロから引きつけられて、90秒があっという間に過ぎる。
田中啓介さん(国士舘大学)
Twitterでは #あのたなけい というタグでお馴染みの、卒業後も多くのファンに愛されている人である。下の動画を見ていただければ、その理由がわかるかと思う。卒業後も様々なイベントで演技を披露してくれていたが、今年はいよいよ社会人団体に出場予定。是非 #あのたなけい で盛り上がりたい。そしていつか個人での出場も期待したい。
再び安藤梨友さん
強力なタンブリングはもちろんのこと 、このテンポの早い曲に合わせてくるくると動き回る機敏性、いや〜すごいものを見ていたんだな、と改めて思う。当時は「そりゃあ梨友君だもの!」と思って見ていたフシもあるが、どんな天才にも努力はつきもの。
ちなみにこの年の全カレは2名のカメラマンさんに撮影に入っていただいたのだが、種目別クラブを撮影しているのは、安藤選手がジュニアの頃からずっと新体操を追っている同郷の大ベテランさん。梨友君のこの動きを追えるそのテクニックがさすがすぎる。
新体操の個人種目は、「スティック」「リング」「ロープ」「クラブ」の順番で進んでいく。いよいよ最後のクラブ。
栗山巧さん(福岡大学)
この大会が終わった直後にシルクドソレイユへと旅立った栗山選手。クラブの演技前、開始ポーズで何か呟く様子がうかがえるが、最後に「ありがとうございます」と言っているように見える。ロープの演技後、奥の通路に並んで見守る仲間たちに向けたガッツポーズには万感の思いが込められているようだった。
城市拓人さん(青森大学)
この大会で個人総合準優勝。同期の安藤梨友さんとの鮮烈な青大ワンツーフィニッシュ。大学に入ってグングン強くなった選手である。クラブの安藤選手の演技をアップゾーンで見守り、演技後に拍手を送っている様子はまさに男子新体操の象徴。ライバルにも拍手。お互いに対するリスペクト。薄汚れた大人の自分には、眩しすぎる…。
城市さんも卒業後に社会人大会に出場されている。その大会で私は初めてカメラを手に取材したのだが、ビギナーズラックで撮れてしまった一枚の写真がこちら。この転がしの動作の一瞬がこれだけ美しくなり得る、まさにその事実が彼の強さを物語る。(個人の演技では「転がし」という、手具をマットや体の上で転がす要素を必ず入れることになっている)
森多悠愛さん(花園大学)
恵庭南高校(北海道)出身。ロシア遠征でご一緒したが、めちゃくちゃ性格の良い好青年。この年は、青大・国士舘の個人が強く、西日本の選手たちは苦戦していたとも言えるが、その中で健闘したのが個人総合12位の森多選手。この選手もやはり黄金世代の1人である。スタイルが良い上に、爪先がいつも外を綺麗に向いており、独創的な手具操作が非常に魅力的。いわゆる玄人受けするタイプかもしれない。最近の大会では、ラストでロープを足に巻きつけて終わる終わり方が多いが、私はそれを「森多君フィニッシュ」と呼んでいる。
佐藤綾人さん(青森大学)
この試合で個人総合8位に入賞し、リング6位、ロープ6位、クラブ4位に入賞している佐藤綾人さんは、なぜこの映像の中にいないのか。実は種目別決勝には、「同大学からは3人までしか出場できない」というルールがある。そのため、高得点を出して優勝・準優勝した安藤・城市選手に加えて青大から出場できるのは、わずか1名のみ。そのたった1つの枠をめぐって、三つ子君たちや満仲選手ら実力のある選手がしのぎを削るという、凄まじく過酷な状況だったのだ。
満仲進哉さん(青森大学)
堀選手と同郷(Leo RG)である満仲さんは、青森山田高校から青森大学へと進学。柔軟性が高く、美しい跳躍が鮮やかな4つの演技はどれも観客の心に深い印象を残した。大学4年でジャパン(全日本選手権)個人総合3位。新体操史に見事に名を残す。彼の現役時代の苦しい戦いを見つめてきた一人として、同郷の堀選手や青大の仲間たちと団体を組むという今回のニュースには感慨深いものがある。マットの上で輝く姿を楽しみにしたい。
特別出演 伊東研さん
伊東研究所の所長として、解説動画の発信でファンを楽しませてくれている「けんぱち君」こと伊東研さん。
たてやまふうやさんのチャンネルでは、なんとマットの左端の画像だけを見てその年のインターハイ優勝校を当てまくるという、驚異のオタクっぷりを披露してくれた。
インカレの動画を見返していたら、こんなシーンが。
所長、研究してる!
さりげなく佇みながらも実は選手を研究し尽くそうとしている目ですね、これは!
佐藤三兄弟がきっかけで男子新体操の試合を見ようかなと思っている方々が、試合観戦を通して少しでもこの競技の世界に魅力を感じていただけたら、こんな嬉しいことはありません。何かわからないことがあれば、なんでも遠慮なく質問してください。
では「で愛ドーム」でお会いしましょう!