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吉留大雅(よしどめ たいが) 国士舘大学4年

最高峰の試合であるジャパン(全日本新体操選手権)に出場するためには、全日本インカレで18位以内に入る必要がある。男子新体操にプロはない。大学4年生が、実質的には「ラストイヤー」なのである。

吉留大雅選手は4年生の今年、全カレで19位だった。
悔しかった。
初めて、親の前で泣いた。
「母にも悔しい思いをさせてしまったことが、申し訳なくて涙が止まりませんでした」

涙する息子に対し、母は「まだクラ選があるから、あなたがやりたいことをやりなさい」と励ましたという。

忘れられない一本

その2022年全日本インカレを、最初から振り返ってみよう。
ジャパン(全日本選手権)出場がかかる、大事な一戦である。

前半の2種目で痛いミスが出た。およそ彼の実力とは程遠い点数。後半のロープ、クラブで挽回するしかない苦しい状況に追い込まれた。弟の吉留大夢選手がサポートを買って出てくれた。(国士舘では「お付き」と呼ぶのだそう)

ロープは落下こそなかったものの、体はガチガチで、ただ通っただけ、という演技だった。しかしそれなりの点数が出れば、余裕を持ってクラブに臨めるはずだった。だが、まさかの15.775。「ノーミスでも15点台…」と頭が真っ白になった。

残す1種目はクラブ。演技前に「どうせもうジャパンにも行けないし、大場外してもいいから、思い切りやるだけだ」という心境になった。

結果、「めちゃくちゃ通ったんです」という一本が出た。
最後のポーズを決めた瞬間、マットの上で涙が溢れた。
会場も大いに沸いた。

「大雅兄ちゃんがいるから」と国士舘に入ってくれた弟や、これまで支えてくれた人に「ありがとう」と伝えられる一本が、やっと出せた。

弟の大夢選手と。

最後のジャパン

19位に終わった全カレの後、迎えたクラブ選手権。この時、母、兄、弟、そして単身赴任中の父の日程が奇跡的に揃い、家族全員が岐阜の会場に駆けつけた。本人曰く、「吉留家パワー」によって見事ジャパンへの切符を勝ち取ることができた。

その時の演技がこちらの動画。最初はリングの落下部分をのぞいて編集し、本人に確認してもらった。すると「おそらく、自分の4種目の演技がYouTubeに載るのはこれが最後。だから、ありのままの自分を見てもらいたいと思います。」という返事だった。失敗も含めて「これが自分」と思える境地に彼は到達したのだな、と思った。

そして迎えたジャパン。

「4年生のジャパンは緊張するんだろうなと思っていましたが、とても楽しかったです。ロープ、リングは結構やっちゃったんですけど(笑)、でも今ここにいられることが幸せだな、という思いが強く、結果は気になりませんでした。」

「お付き」には同期の前田幸大選手がついてくれた。そのおかげもあり、終始リラックスして楽しく終えることができた。

結果は16位。ちなみに、鹿実で同期の石牟禮華月選手(青森大学)が15位。さらに14位が森園颯大選手(青森大学)なのだが、彼はジュニアの頃タートルスポーツクラブで一緒に練習していた仲間だ。鹿児島出身の選手3名が仲良く並び、「俺ら仲良すぎ」と試合後に大いに盛り上がったそうだ。

ジュニア時代。手足の長さはこの頃から。

第二の母

吉留選手は、"The Force"のメンバーとしても活躍してくれた。その活動を通してファンになってくれたある熱心なファンがいる。試合やイベントに駆けつけ、熱く応援し、結果が出ない時には泣いてくれる。そんなファンの存在を、彼は「第二の母、って感じです」と言う。

いわゆる「推し活」と呼ばれるようにもなった、アスリートに対する応援。男子新体操の世界でも、選手を「カッコいい」と気軽に応援できるような時代に、やっとなった。同時に、選手側からの発信も劇的に増えた。時代の流れ、コロナ禍でのネットの活用などが、追い風になった。

「応援してくれる人が多ければ多いほど、励みになります」という彼は、この時代の申し子なのかもしれない。

おちゃめな人柄も魅力。

夢の国士舘

高校生の頃から選抜3位と活躍していた吉留選手ではあるが、国士舘大学に入学した時には「YouTubeで見たことのあるすごい選手たちがいっぱいだった」ことがとても嬉しかったのだという。

鹿児島実業高校の頃

「川東先輩、石川先輩、水戸先輩、田中先輩らは、同じ場所にいられるだけで嬉しくなるような憧れの選手でしたし、同期ですら『あの蒼斗君、織田君が!』と思いましたから」と笑う。入学後しばらくして山田監督に「どうだ、もう慣れたか?」と聞かれた時、「この体育館の光景が、今でも信じられないです」と答えたというから、本当に嬉しかったのだろう。

そんな彼も、国士舘に入学してきた後輩たちを「吉留さんだ!」とドキドキさせていたに違いない。

憧れの先輩、そして同期。

新潟演技会

吉留選手が高校3年生の時、ゲストとして国士舘の「新潟演技会」に出演している。演技後に「来年、国士舘大学に進学が決まっている選手です」と紹介された。

鹿児島実業時代には、様々なメディアに取り上げられた。

「来年は国士舘大学のメンバーとして新潟で演技しているでしょう、と紹介されたのですが、その後コロナで一度も新潟に行けていません。だから今年、新潟のお客さんに自分の演技を見てもらえるのが楽しみです」

https://youtu.be/s2yo3l5xFtg

そうなのだ。
彼らの学年は、入学したと思ったらもう卒業、という印象が強い。新潟だけではなく、海外遠征にも一度も行けなかった。

それでも、最後のジャパンで彼らの演技を見られたことは、ファンにとってどんなに幸せなことだっただろうか。

鹿児島が生んだ愛すべき選手

実は、私たちのチャンネルで一番多く視聴されている個人選手は、彼なのである。それを伝えると、「それ、何か間違ってます。みんな見るべき人を間違ってますよ。」と大笑いしていた。

現在、卒論を執筆中。男子新体操と数学をテーマにしたというからユニークだ。卒業後は郷里の鹿児島に戻る。今は「新体操はやり切った」感が強いけれど、いずれはまた、男子新体操に関っていくような気がするという。そんな彼の未来が、彼にふさわしい明るいものでありますように。

長い間、私たちを楽しませてくれてありがとう。

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