<その7>ドッグランのインコ 下(捕獲編)
その後、インコさんが再び練習場のほうに飛んだので、私、Mさん、Tさんの3人で、また練習場の入口から中をのぞいたりしていました。インコさんは、この練習場の敷地内の地面を、結構気に入っているのかもしれません。
インコさんがその後ドッグランに戻ったときだったか、これまた詳細を忘れましたが(※1)、Mさんが、ご用事があるとのことでお帰りになりました。Mさんがお帰りになった後は、インコさんはもうあちこち移動せず、ドッグランの中に1本だけぽつんと生えた木の中に戻って、じっとしていました。
私とTさんのふたりは、ドッグランのフェンスの脇でおしゃべりしながら、中にいるインコさんをずっと見ていました。この時にはもうドッグランの営業が始まっていましたが、インコさんがいるエリアは、「多目的エリア」という名前になっており、普段は使われていないようで、幸いなことにわんこさんたちが入ってくることはありませんでした。そして、私たちがどんなにそこにいても、誰かの邪魔になるということも、ありませんでした。
ドッグランの中の木はそこそこ大きいのに、インコさんは、高いところにいた朝と違ってなぜかドッグランの外側に面した低い枝の、比較的私たちに近い位置にいました。そして、以前ははっきり反応を示さなかったTさんの口笛にも、反応しているような気がしました。
私は、これはインコさんが無意識に捕まえられたがっているのではないかと思いました。私には、今まで何度か迷子インコさんを捕まえようとした経験がありますが、不思議なことに「あ、この子捕まえてほしいって思ってるのかも」と感じる瞬間がふと訪れることがあるのです。完全に私の勘違いかもしれないし、全部の子にそういう瞬間を感じたことがあるわけじゃないし、そういう瞬間があったからと言って、必ずその子を捕まえられる保証はないのですが。
で、この時もなんとなーくそのように感じ、もしその通りなら、実際に捕まえられるかもしれないと思いました。
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インコさんは木の上にいる時間が一番長いながらも、時々ドッグラン内の地面におりて、メヒシバを食べていました。ドッグランのスタッフの方にお願いして中に入らせてもらえばよかったのかもしれませんが、「あの鳥を保護したいから中に入ってもいいですか?」と聞く勇気もないし(※2)、入ったところでどうせ捕まえられないだろうと思ったので(※3)、何もせずただただ見守り続けました。
インコさんは、時々、地面ではなくて、朝そうしていたように、ドッグランの囲いのフェンスの低い位置にとまって、メヒシバをついばむこともありました(※4)。インコさんが夢中になって食べているときには、割と近づくことができました。しかし、いざ距離を詰めると、2~3秒で飛んでしまうということが、何度もありました。
近づけた時に一瞬でも気をそらすことができたら、その時に捕まえられるかもしれないと考え、粟穂を見せたりしましたが、インコさんは粟穂をじーーーーーーーっとかなり熱心に見るけども、決して口をつけようとはしませんでした。
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私は、長期戦を覚悟して、餌付けしてホイホイするしかないかなあと考え始めました。しかし、私は餌付けというものが未だによく分かっておりません。試しにドッグランの外側に餌を置いてみましたが、インコさんに気が付いてもらえるにはどうしたらいいか見当もつかず、途方にくれました(※5)。
せめてドッグランの地面なら気が付いてもらえるかもと考え、餌をうまく置くことさえできれば、フェンスの隙間から虫取り網を差し込んでおいて、インコさんが餌を食べに来たらパタッと倒して保護できるかもしれないと妄想したりもしました。しかし、入れもしないドッグランに、そもそもそんな風に餌を置けないし、うまくいきそうにありませんでした(ので結局何もしませんでした)。
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お昼近くなったころ、最初の目撃情報を投稿してくださったYさんより、これからいらっしゃる旨のDMをいただきました。
これまでのインコさんは木の上にいる時間が一番長かったですが、この頃には、メヒシバをついばむためにフェンスにとまる回数がだんだん増えてきました。インコさんが気まぐれにあちこちのフェンスに降りるたびに、私はフェンスの外周を走って移動し、インコさんにそーっと近づいては捕獲のチャンスを狙いました。フェンス周りの地面は、コンクリートのところと土のところが混在していたので、足元をしっかり見ながら走らないと危険でした。
インコさんが、私とTさんが待機していた場所(インコさんが長らくいた木の側)とは反対の通路側に降りたとき、それまで何度もしてきたように、走って移動し、インコさんが見えたら速度をぐっと落として近づくということをしました。その時、とうとうチャンスが訪れました。
インコさんは、フェンスの網目の中にいました。これまで何度かインコさんへの接近をトライしたうちで、その時だけ、インコさんの尾っぽがこちら側にぴょこっと出ているのが見えました。
私は、インコさんに近づいて素早くしゃがんだ後に、ほとんど反射的にその尾っぽをつかんでいました。急に尾っぽをつかまれたので、ピピピピピピとインコさんの鳴き声が響きわたりました。
インコさんに近づいているときに、ちょうどこちらに近寄ってくる人物がいることを、私は目の端でとらえていました。それがなんとなんと、最初の目撃情報の投稿者であるYさんで、Yさんはインコさんを不安定な形でつかんでいる私に駆け寄ってきて、すぐに手を添えてくださいました。
インコさんがいた木のあたりで待機していたTさんも、すぐに捕獲に気が付いて、すごい速さで走ってきてくださり、やはり手を添えてくださいました。
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その後、いったんインコさんをTさんの手の中に預けて、私は駐輪場の自転車に置いておいたキャリーを取りに行きました。キャリーにインコさんを移した後は、日陰に移動して、みんなでわいわい記念撮影をしました。
私は慎重すぎてチャンスを逃すタイプで、いつもだったら、インコさんの尾っぽが見えていても、手を出さなかったと思います。
しかし、ちょうど最近、別の現場(※6)で、どうやって捕まえようか考えている間に見失ってしまった子がおりまして、無理をしてでもトライすればよかったと後悔していたせいなのか、この時は、ほとんど無意識に尾っぽをつかんでいました。そのことが、この場合は、たまたま功を奏しました。
ただでさえ台風が近づいてきている予報があったし、この日は私が夕方から動物病院を予約していたこともあって時間がなく、思ったより早く捕まえられて、心底ほっとしました。
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帰り道、少し遠回りをして、見失った子が出たA市の現場に寄ってから帰宅しました。
2022年の秋は、私の活動界隈で、同時多発的に迷子インコさんの目撃が相次いでいました。彩湖も、A市の現場も、その一つでした。
全部の現場を思う存分見回って捜索&保護活動したいけども、身体はひとつしかないので、一度に行ける場所はひとつであり、助けられる子を助けるしかありません。
見失ってしまった子たちのことを思うと、今でも胸が苦しくなりますが、だからこそ、彩湖の迷子さんを助けられたことは、本当に良かったと思いました。
終わり
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※1 覚えているうちに記事を書かないから悪いんですよね…。はい、今後はなるべく事が起きたらすぐに記事を書こうと思います(:_;)
※2 飼い主でもないのに鳥を捕まえたいというだけで不審がられることが多いので、誰かに「あの子を捕まえたいんですけど」というのは結構難しくて勇気がいる行為だったりします。横取りなどを警戒されるのは当然なので、仕方がないことなのですが。
※3 しつこいようですが、本当に地面にいる子をうまく捕まえる方法が分かりません。網を持って近づいても逃げないような鈍い子だったらよいのでしょうけども…。何かいい方法がないかなあ。
※4 前の記事で書いたように、捕獲成功の願掛けの意味もあり、写真撮影を意識的に放棄したわけですが、今思うと、フェンスのところでインコさんがメヒシバを食べている写真を、1枚ぐらい自分でも撮っておけばよかったなぁと思います(;_;)
※5 餌付けのいい方法を知ってる方がおられましたら、是非是非教えてください。本当に本当に私は、餌付けのコツが全然分からなくて困っています。
※6 「ドッグランのインコ 上」の「※2」でも言及したA市の現場の子です。2022年9月9日から目撃があったのですが、結果的に、9月12日を最後に目撃が途絶えてしまいました。
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