見出し画像

<その3>田んぼのインコ②(作戦編)

この現場には大きな問題がありました。というのは、田んぼ周辺にはいずれ国道が走る予定があって、あちこちが工事現場のようになっており、立ち入り禁止のエリアが多いということ。そして田んぼに面した道路が下水道工事をしていて、9時から17時までほぼ通行止めになっており、7時半には作業員さんがちらほらやってきてしまうということです。

なので捕獲作戦を展開するにも、朝6時ぐらい~7時ちょい過ぎぐらいまでしか考えられませんでした。夕方は、工事が終わって田んぼの前の通行止めが解除される時間にはもう暗くなっているので、何もできなさそうです。

私、Mさん、Kさんは、空いた時間にそれぞれが田んぼ周辺を見に来ていましたが、朝の時間帯以外は、この工事のせいで田んぼをよく見ることができませんでした。

今まで捕獲に成功した子(志木市の公園の子&新座市の空き地の子)は、一日張り込みを続けていれば、何度か手の届きそうな場所まで降りてくる機会がありました。しかしこの子の場合は、朝のわずかな時間しか田んぼには降りてきていないようでしたし、もし降りてきていたとしても、インコさんに対して何かできるほどには現場に近づけません。だから私たちは何とか、田んぼにいない時間にインコさんがどこにいるかを知りたいと思いました。

立ち入り禁止エリアとなっている工事現場の中に、木が数本生えているところがあり、そっちのほうに飛んでいくことが多いので、私はてっきりそこがインコさんがよくいる場所かなと思いこんで、その方角ばかり捜索していました。

しかし、ある日Kさんが、私が集中して捜索していた場所の、道を挟んで反対側に、インコさんの居場所があることを突き止めました。

「インコちゃんが民家の屋根にいてすっかりくつろいでいる!」

どうやらこの子は、ご飯や雀との遊びのためにあちこち行きはしますが、日中のベースキャンプみたいな感じで、とある民家の屋根に割といるらしいと分かりました。それからは、まず田んぼを見て、田んぼにいない時にはこの家の屋根に確認にくればよいようになりました。朝の場合は、たいてい田んぼか屋根かのどちらかにいました。


さて、Kさんのおかげで、この子のだいたいの居場所が把握できました。問題はいかに捕まえるかです。居場所の確認と並行して、既に下記の2つの作戦を展開しつつありました。

【作戦①】
田んぼわきの水路に誘導して"いんこホイホイ"(※1、以下ホイホイ)という捕獲器を使う

【作戦②】
少しずつインコさんとの距離を縮めていって、慣れてきたらチャンスを狙って手で捕獲する

【作戦①】に関しては、最初は、田んぼの所有者に許可を取って、田んぼ内で何とか捕獲活動をできないかと思ったのですが、田んぼのすぐそばの家に住むご婦人に聞いても所有者が分からないとのことだったので、断念しました(田んぼだとぬかるみがあったり地面がでこぼこしていてホイホイが落としにくいという理由もあり)。また、田んぼの奥のアパートの敷地の隅にも、何とかホイホイが設置できるかもしれないと思ったのですが、やはりどうしても建物の近くになってしまうため、住民の方のご迷惑になると考え、これまた断念しました。代わりに、インコさんと雀がよく食べに来る田んぼと、もう一つの田んぼ(なぜかこっちにはあまり食べに来ない)の間にある水路だったら、個人の所有でもないし、迷惑がかからないだろうということで、水路で捕獲作戦を実行することにしました。

ただ、意図通りインコさんが水路に来てくれるかは賭けでした。また、ホイホイの場合、インコさんは雀と一緒に行動しているわけなので、雀がたくさん罠にかかってしまうのではないかという心配がありました。でも、ともかくやってみるしかないのです。

Mさんが水路と、道路側の田んぼの一部に餌を撒いてくださいました。インコさんが気が付く前に餌を全部野鳥に食べられてしまって、インコさんが水路に来ないのではと心配していましたが、撒いた翌日の15時頃に、Mさんが水路にインコさんが来ているところを確認して報告してくださいました。これならいけるかも!と少し希望が持てました。

画像1
ホイホイ設置を決めた水路

その報告を伺った翌朝から、早速水路にホイホイの設置を始めました。とりあえず二つ、余っていたケージでホイホイを作りました。途中から、ケージだと小さいせいで紐を引けるぐらいまでインコさんが入ってくれないのかなと思って、大きなざるを買って試してみました。(道具の詳細については別の記事で説明しようと思います)

問題は【作戦②】です。単独でいた今までの子とは違い、雀といる子なので、手でつかむのは無理だと思っていたのですが、田んぼにいるときに近づいたら、雀よりはずっと近づけたので、チャンスさえあれば、意外と手づかみ(※2)でも行けそうな気がしました。やはり人間に飼われていたことがある子なので、野鳥よりはずっと人間に対する警戒心が少ないのです。

一度は、50センチないぐらいの距離まで近づけて、本当にもうすぐつかめそうな感じがしたほどでした。ただ、手でつかむためには、本当にぎりぎりまで近づいて、なるべく素早くインコさんを手の中に収めなくてはならないし、何より一瞬の隙をつくらなくてはいけません。隙のポイントは空腹です。空腹であれば、こちらが餌を見せれば餌に気を取られて一瞬の隙ができます。田んぼで食べているこの子に対して、それができるでしょうか。

…ということで、トータルで考えるとどう考えても【作戦①】のホイホイで捕獲するのが一番いいとは思っていました。が、万が一ホイホイになかなかかからなかった時のために、私は【作戦②】も捨てたくありませんでした。私は、捕獲作戦は絶対に二つ以上あった方がいいと思っています。一つだけに絞ってしまうと、それがダメだった時にどうしようもなくなるからです。

インコさんに近づこうとすると、どうしてもそれがインコさんを追いかけまわすような行動になってしまうので、インコさんが恐がって、もうこの場所に来なくなったらどうしようという懸念もあるにはありました(他の方にもそれを心配&指摘されました)。しかし、幸いなことに、人間に飼われていた子は、よほどまずいことをしない限り、そうなることはほとんどないように思えます。それまでに捕獲に成功した経験で言えば(たった2回ですが!)、ずっと逃げ回っていたインコさんが、ある時突然ふっと来てくれる瞬間があるのです。本当に本当に不思議なことなのですが。

もしかしたらまたそんな瞬間があるかもしれないという期待があって、インコさんとの距離を縮める努力は、私としてはやめたくありませんでした。(あまりに効果がないと判断したら当然止めますけど)

もう一つ、今回の現場でやってみたい作戦がありました。

【作戦③】
リアルインコ出勤
✧ドヤッ

Twitter上で拝見した他の地域での捕獲作戦で、リアルインコさんが大活躍していたので、一度はやってみたいと思っていました。幸いなことに、今、私の家には出勤可能なセキセイさんがいるし、現場も比較的近いので、移動の負担もほとんどありませんでした。

二次災害にならぬように超頑丈なキャリーを用意し、あらゆる扉と窓と継ぎ目にナスカンをつけまくって、万が一キャリーを持ったまま私が転んでも、絶対にインコさんが外に出ないようにしました。

暖かい日の午後に、澄んだきれいな声で鳴く、とびっきりのかわいい子(当社比)を連れて、探し回りました。しかし、その日は残念ながら、田んぼのインコさんに会えませんでした。

数日後、また暖かそうな日があったので、超絶かわいいリアルインコを再度出勤させました。この時にはインコさんがよくいる屋根を特定していたので、問題なくインコさんに会えました。


が、


田んぼのインコさん、リアルインコに興味なし!!!!!!


ええ、この田んぼのインコさんは、雀さんLOVEだったんです。実は、お気に入りの雀さんがいて、いつもその子を追い回していました。それでも、かわいい同種を目にしたら、こっちに寄ってくるかと思ったら、まったく眼中にない!!!!!


…超期待のリアルインコ出勤大作戦は、あえなく撃沈しました。

リアルインコには、すごく反応する子と、しない子がいるようです。

インコさんを探すときにインコの鳴き声を聞かせれば反応するような子は、多分効果があるでしょう。しかし、それに反応しない子はあんまり効果がないのかもしれません。一概には言えませんが。

リアルインコ作戦は、効く子には効果抜群ですが、万能ではないと学びました。


※1 いんこホイホイとは、とある迷子鳥保護の偉大な先達が考案した迷子鳥捕獲器です。詳細は道具編でご紹介いたします。

※2 「手づかみ」というと乱暴に聞こえると思いますが、もちろんケガなどはさせないように細心の注意を払って素早く包むように捕獲します。

★ 続きはこちら↓ ★


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?