【セミナーレポート】どうする!?園児募集
5/26(水)に開催したオンラインセミナーのレポートをお届けします!
これからますます激しくなるであろう社会の変化や少子化の波にどう対応すればよいのか。漠然とした不安を抱えている園さんも多いのではないかと思います。
今回ゲストとしてお迎えした同朋幼稚園さんと王栄幼稚園さんは、「時代に合わせて園も変わらなくては」という強い思いでさまざまな挑戦をされており、その結果、定員以上の入園希望者が集まる人気園となっています。保護者に選ばれる人気園であり続ける秘訣は、一体どこにあるのでしょうか。
※こちらからセミナー動画をご覧いただけます。
【熊本県熊本市 王栄幼稚園】バス・自園給食なしで『入園希望3.6倍!』ーー認定こども園優勢の地域で人気幼稚園でいつづけられる理由とは? (6分00秒〜)
王栄幼稚園は創立128年のキリスト教系幼稚園で、200名の園児が在籍しています。
熊本県は認定こども園への移行率が九州で一番高く、補助金の少ない私学助成園は全体の15%。さらに王栄幼稚園は送迎バスなし、お弁当なし、園舎も決して広くはないそうです。保護者にアピールできる点が少ないようにも見えますが、森園長は「ほかの園にはあって王栄幼稚園にはないことを『強み』にできるような教育・経営を行っている」と語ります。
さまざまな挑戦をするなかで、園が最も大切にしているのは「教育に力を注ぎ、理念に立ち返って10年先を見越して、新しいものを融合していく」というビジョンです。教職員でビジョンを共有することはもちろん、保護者にも常に園の理念や教育方針を伝え続けているそうです。
バスがないということは、送迎時に保護者と先生がコミュニケーションを取るチャンスがたくさんあるということ。給食がないということは、家庭で作ったお弁当を子どもに食べさせることができるということ。「バスや給食がない=不便だけど我慢してください」ではなく、バスがないからできること、給食がないからできることを大切にし、そのメッセージを伝え続けることで、園の方針に共感する保護者が集まってくれているそうです。
教職員間のコミュニケーションも工夫しています。
職員会議では、いろいろな個性や得意分野をもつ先生一人ひとりが、園の課題を自分のこととして考える風土を作り出しています。経験年数や立場に関係なく、みんながフラットに意見を言い合えるような環境だそうです。さらに日経新聞を活用し、社会情勢について学ぶ時間も必ず設けています。
なぜこのようなことをしているかというと、これらが園のビジョンを実現するために必要な手段だからです。王栄幼稚園がICT教育やSDGsなどの社会動向に敏感に対応できるのは、こういった努力を積み重ねているからだといえるでしょう。
王栄幼稚園は私立幼稚園です。園児募集には口コミの力が非常に大きく、過去には大変な年もあったそうです。「評判が崩れるときはあっという間。だからこそ掃除や挨拶をはじめ当たり前のことをしっかりとやること、こまめなコミュニケーションや情報発信で保護者に安心感を与えることが何よりも大切」だと森園長は語ります。
「子ども中心」という軸は曲げない、保護者の気持ちは理解するが迎合はしない、園長先生自身が自分の強みと弱みに向き合うなど、生き残る園になるために必要なポイントを森園長はたくさんお話してくれました。
一方で、定員の3.6倍もの入園希望者を集めるための飛び道具的な何かがあるわけではない、ということもよくわかります。森園長も「皆さんが当たり前のようにやっていることを、ただ当たり前にやっているだけなんです」と優しくお話されていました。では、王栄幼稚園のすごいところはどこにあるのでしょうか。
それは、時代の変化と自分たちの価値観が合っているのか、子どもたちに必要なことはなにか、保護者が何を求めているのかということを常に考え、次の行動に生かすということを非常にスピーディーにやられているということではないかと思います。さまざまな意見を柔軟に取り入れること、変化を厭わず行動し続けるということは、園がぶれない価値観をもっているからこそできることでしょう。日々の丁寧な積み重ねこそが人気園になる秘訣だと強く感じました。
【愛知県名古屋市 同朋幼稚園】子ども中心の保育に転換ーーハード・ソフトの見直しで人気園に (41分22秒〜)
同朋幼稚園は、名古屋市の中心部にある私立幼稚園です。定員150名で、満3歳・満2歳も受け入れています。少人数保育や系列の大学との連携、ICT教材「きっつ」の導入などが特徴です。
園のある名古屋市中村区では保育園へのニーズが高まっており、2017年頃までは同朋幼稚園の園児数は右肩下がり。定員割れになることもあったそうです。そこで2018年にハード面、ソフト面での改革をスタート。現在は定員いっぱいまで園児が集まる人気園に復活しました。
大きく改革したことのひとつは、満3歳・満2歳を受け入れるとともに預かり保育を拡充し、共働きの保護者のニーズにも応えられるようにしたことです。また制服も変えました。
さらに保育内容にも大きなメスをいれたそうです。
それまでは、ECCや体操教室などのカリキュラムの時間が多く、年間を通じて子どもたちも先生も行事に追われる生活だったそうです。そこから私立幼稚園に求められる「教育」は残しつつも、子どもの主体性を大切にした保育へと大きく方向転換しました。子どもたちがやってみたいと思うことができる、夢中になって遊びこむことができる環境の整備や時間の確保など、主体性保育を実現できるよう今も保育内容を改善し続けているそうです。
ICT教育もスタートさせました。「iPadを道具として使うことで、子どもたちのチームワークやコミュニケーション能力、工夫したり試行錯誤したりする姿が向上している」と渡邊先生は語ります。
ソフト面での改革が生きる環境をつくるべく、園庭と園舎も改修しました。園庭には自ら遊びを創造できるような仕掛けを施し、各保育室にはモニターを設置してICTを活用しやすい環境を作りました。
保育方針を大きく変えることは、もちろん簡単なことではありません。日々、戸惑いや葛藤を抱えながらも、つまづいたら立ち止まってみんなで話し合ってまた進むというように、みんなが同じ価値観で保育に取り組めるように努力しているそうです。
ICT教育の実践例も紹介してくれました。
子どもたちにイメージを膨らませてもらうために制作活動の導入で画像を見せたり、踊りや楽器演奏などの練習風景を撮影し、動画を見て振り返りながら、よりよくするためにはどうしたらよいか、クラスみんなでアイデアを出し合ったりしているそうです。そのほか調べ学習に活用するなど、あくまでも「道具」として使うことを大切にしています。
また「おとねんど」という「きっつ」の教材を使い、発表会で使用する効果音をつくるという活動の様子も動画で紹介してくれました。
お手本がないなかで、まずはやってみる。子どもたちが自分たちのアイデアで試行錯誤し、思ったことや気づいたことを自分の言葉で発表する。「きっつ」の活動を通して、子どもたちが主体的に行動する姿がたくさん見られるようになったそうです。また先生も子どもたちの気づきや発見をしっかりと汲み取れるようになってきたということです。
「幼稚園ブランドを残しながら、さらなる進化をめざしていきたい」と渡邊先生。同朋幼稚園さんのお話を聞いても、園児募集において最も重要なことは、日々の保育・教育の質を高め、先生が生き生きと働くことにほかならない、ということを強く感じました。
全国の園への営業活動で気づいた「人気園」の共通点とは?(59分33秒〜)
続いて、スマートエデュケーション代表池谷から、スマートエデュケーションのサービスを全国で営業するなかで気がついた、「人気園の共通点」についての話がありました。
スマートエデュケーションは、ICTカリキュラム「きっつ」と園向け動画共有サービス・ドキュメンテーションツールの「おうちえん」の2つのサービスを柱に全国展開しています。
池谷はさまざまな園に訪問するなかで、「職員や園児の募集に苦労している園が多い印象を受けている」と語ります。その突破口はどこにあるのでしょうか。ここで池谷は1本の動画を紹介しました。
”The Future Work( 未来の仕事)”という動画です。(セミナー動画の1時間2分15秒〜)
さまざまな未来の仕事を写したこの映像には、人間の姿が一切写っていません。「先生方は子どもたちが近い将来、こういう世界に出ていくことを知っていないといけない」、と池谷は語ります。
スマートエデュケーションは「21世紀を生きるチカラ=新しい価値を生み出す力(創造力)」と考えています。ICTを使うといってもYouTubeを観ているだけでは生きる力は身につきません。それはただサービスを消費しているだけだからです。そうではなく、ICTを道具として使いこなし、なにかを作る。新しい発想を生み出す。「きっつ」はそれを体験してもらうための教材です。
さて、さまざまな園に「きっつ」を紹介するなかで、失注するケースには共通点があることがわかりました。「きっつ」では必ず一度教材を体験してもらいますが、子ども・保護者・担任の先生は楽しくて導入したいと思っても、園長が「必要ない」と判断するケースです。現場の声に関わらず、園長が決めてしまうのです。反対に「きっつ」導入園の多くは組織が非常にフラットで、導入の判断も園長が独断行うのではなく、若い先生も含めてみんなの意見を汲み上げて決めている園が多いそうです。
導入園には、もうひとつ共通点があります。それは園長先生が、「他の園がどうしているか」ではなく「社会がどのように変化しているか」を判断基準にしているということです。
ICT導入に関しては、保護者の反応も無視することのできない要素です。池谷の実感としては、「園でICTを使う必要はない」という意見よりも、「避けることのできないものだから、家庭ではできない創造的な使い方を体験できる方がありがたい」という意見の方が多いようです。導入園の多くは、保護者のニーズもしっかりと理解しています。
多くの先生にとって、ICTは自分が子どものときには存在しなかったもの。しかし、この時代においてはまた、ICTもクレヨンやハサミと同じく創造的な活動をするための道具です。「自分の違和感で排除するのではなく、使える道具の選択肢を増やすことが、子どもに対して本当にフェアなことではないか」と池谷は疑問を投げかけます。園長先生自身が苦手なのであれば、得意な先生に任せる。その任せる力があるかどうかも、これからの生き残りには大きいと語りました。
「子ども主体」の教育とは、つまり「担任の先生が主体的」な教育でもあります。フラットな組織で先生が主体的に楽しく働き、それによって保育が充実し、優秀な先生がたくさん集まってくることが人気園になる秘訣ではないか、と締めくくりました。
【パネルディスカッション】何が保護者を惹きつけるのか?(1時間15分11秒〜)
最後に、参加者からいただいた質問に対して登壇者全員でのパネルディスカッションを行いました。ここでは抜粋・要約してご紹介します(発言者の敬称略)
Q:主体性保育への転換で、なくした行事はありますか?
(同朋幼稚園:渡邊)なくした行事はとくにありません。完璧な姿を見せるためのものではなく、子ども自身が主体的に楽しめるものへとかたちを変えたものはたくさんあります。
(王栄幼稚園:森)なくした行事はありませんが、規模を縮小したものはあります。作品展はSDGsの精神に則り、廃棄物を減らし、ICTを組み合わせたものへとかたちを変えました。意図をきちんと説明すれば、保護者も理解してくれます。
Q:ICT教育を導入したら、子どもがiPadばかりに夢中になりませんか?
(同朋:渡邊)各教室に自由に使えるiPadを1台用意していますが、そればかり使うという様子はありません。
(王栄:古庄)「きっつ」の時間だけで使っていますが、グループで話し合って使うなど、約束を守って使えています。ICTを取り入れてから、むしろグループ活動が上手になりました。
(スマートエデュケーション:池谷)「子どもが依存するのでは」という心配をよく聞きますが、園で実際にそういう問題が起きているのを見たことはありません。園で使うことは最初は新鮮かもしれませんが、子どもはすべての遊びをフラットな目で見て、選ぶ力をもっています。
Q:ずばり、「子ども主体の保育」ってなんですか?
(同朋:渡邊)園によっていろいろなかたちがあると思います。当園では、以前は時間が来たら先生が子どもの遊びを止めていました。しかし、保育方針を変えてからは子どもたちが満足するまで遊びを止めることはしません。朝の会なども時間を決めず、子どもたちの様子に応じて柔軟に行っています。まずは子どもたちがやりたいことを自由にできる環境を作り、失敗したらまた挑戦しよう、というように失敗しながらも次につなげていけるよう努力しています。
(王栄:森)王栄幼稚園では、1週間のカリキュラムを事前に決めています。でも、子どもたちがやりたいことがあったら、先生は自由にカリキュラムを変更しています。作品制作に関しても、お手本通りに作るのではなく子どもが自由に表現する。それが子ども主体だと考えています。
(スマートエデュケーション:池谷)同朋幼稚園さんは保育方針をドラスティックに変更されましたが、王栄幼稚園さんはできることからやっているという印象です。保育をクリエイティブにすることは、どんな園でもできることです。「クラス活動=主体性保育ではない」という意見を耳にすることもありますが、まったくそんなことはありません。自由保育でも一斉活動でも、子どもの主体性を育てるには、先生が適切に介入し、環境を整備したり声をかけたりする必要があります。ほったらかしでは主体性は育ちません。どのような保育形態であっても、先生が子どもたちの可能性を引き出す小さな仕掛けをいかに綿密に用意できるかが肝心です。
次回予告
次回のセミナーは、6/24(木)16:00~18:00 「始めてよかった!ドキュメンテーション」です。ふるってご参加ください!
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