テスコのビザールギター メイクイーン 2013年1月 目白
当時は高級住宅地に住んでいた。自分の部屋は窓を開ければフェンス越しにJR山手線と埼京線が走り、深夜でも貨物列車が轟音をあげる月3万2千円、共同シャワー室のアパートだったが。
件のギターは近所の豪邸の前に、ヤマハの巨大なアンプとともに捨てられていた。無職だった自分が、その日は早起きし、どこへ向かおうとしていたのかは忘れたが、粗大ゴミに回収される前のソフトケースが目に止まり、周囲に人がいないことを確認し、ファスナーを開けてみた。
「どうせコピーモデルのストラトだろう」
リサイクルショップや質屋でギターケースを見かける度、幾度となく思った文言とともにヘッド部分のファスナーから覗いたヘッドは見たこともないフォルムだったので、ボディを確認せずとも安アパートに持ち帰った。途中、出勤する同い年ぐらいの会社員とすれ違った。
アパートの畳の上でケースを開けると、中身は真っ赤なテスコのメイクイーンだった。
すぐにまた豪邸の前へ走り、一緒に捨てられていたアンプも拾って戻った。
丸く、くびれが無く、座って構えてみると琵琶法師みたいになった。
ヤマハのアンプに繋ぐと驚いた事にどちらも故障はなく、ボリューム最小でも爆音が出た。苦情が来るかと思ったが、よく考えれば自分は無職で、平日の午前だった。アパートの連中は誰もいないだろう。下手なラモーンズや荒木一郎「いとしのマックス」、「昆虫ロック」とかの初期ゆらゆら帝国や、果てはメタリカ、ももクロまで、脈略もなく正午まで弾いていた。
GSブームの60年代、多分ローリングストーンズのブライアンジョーンズが愛用していたVOXのファントムギターあたりを、限られた情報のなかで当時の楽器屋さんがコピーしたモデルなのだろうかと勝手に思っているが、本家とは違い、左右非対称のフォルムが枯山水というか、日本人好みで格好いいと思った。ピックガードの「may queen」ロゴや、黒く厳めしいピックアップも、体験した事のない高度経済成長感、過去に憧れることの多い自分にはとても大袈裟で良かった。
アンプはすぐに4000円ぐらいで、ヤフーオークションで売り払ったが、ギターの方は壁に掛けて、たまに弾いていた。安アパートだったが白い壁にギターの赤がめでたい感じで、日の丸みたいに映えた。
それからしばらく後、2年住んで誰一人訪れる事のなかったそのアパートを出て、別のところで住むようになった。数年後結果的にやはりヤフオクで、15万円で売れてしまうまで、何かラッキーな日々が続いていたように思う。