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ヘンリー・ミラー著「南回帰線」 2016年 文京区本郷図書館

 内容は、29歳の主人公が職を転々とするうち、段々と総てが悪い方向にねじ曲がりながら加速していくような話だったと思うが一切覚えていない。

 著者のヘンリー・ミラーに関しても、数多くいた妻のうち一人が日本人だったという事と、NYパンクの、テレビジョンのトム・ヴァーレインの本名「トーマス・ミラー」と同じファミリーネームだなと思う程度だ。
 日本人で「加賀美」とかなら格好いい苗字だと思うが、英語圏でミラーは平凡であるらしく(スペルは違うが)、トーマス・ミラーはヴェルレーヌから取ってヴァーレインを名乗った。
 佐々木士郎が宇多丸を名乗りライムスターのMCになりおおせたような転換があったのだろう。

 南回帰線に関してはただ、主人公の友人が、「なあヘンリー、おれたちもいい加減30歳だ」と言った一節のみ記憶している。
 その後、「これからは真面目に働こう」と続けたのだったかは定かでないが、30前後の人間が慌てたり、妙に考え込んだりするのは、国も時代も越えて共通なのか、と感じた。
 それでも、自分と似たような人間がこの世には数多くいて、だいたい同じような、とるに足らない事を考えている、という事実が嫌でなくなり、むしろ心強いとか、代替可能なんて安楽じゃないかとさえ感じるまでには、読了から数年を要した。
 文京区図書館のリサイクルコーナーにて獲得した「南回帰線」は、今はインテリアとして機能している。

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