2021年1月 アサヒビール コップ3個 神田
職場から近いところに引っ越し、電車を使わなくなった。
引っ越した事は職場に言わず徒歩で通勤して定期代を奪取するようになり、何か言われたら会社が数年に渡って行っている著作権侵害をバラすぞと脅せばいい、と考えていた。
一応、医療系マーケティング資料制作などともっともらしい業務を銘打っているが、特別な知識を持つ者はおらず、400ページの販売資料のうち200ページほどは医学雑誌や診療ガイドライン等からの無断転載で埋める職場からの帰り道、神田の廃業した飲食店の店先に「ご自由にお持ちください」と書かれたBOXがあり、中を覗くとアサヒビールのコップが10個ほど入っていた。
特に気に入ったわけでもない部屋に引っ越したので家具や食器を揃えもせず、歯磨き用のコップにもワンカップ大関の空き容器を使用していたので都合がよかった。10個のうちから清潔そうな物を3つ選び、割れないようフワッとエコバッグに納めた。
「歯磨き以外には2つぐらいあればいいか。飲料用と、割れた時の予備として」と考えた中に、「来客用」の考えが発生しなかった物悲しさには、歩きはじめてから数分経って気づいた。
自分にはここ数年、自宅に呼ぶ友人などいないのだった。
20代、己の体質に合わない強度の焼酎を飲んでいた頃は大五郎のプラスチック容器を歯磨き用コップとして用い、30代からはややアルコール度数を下げた日本酒のガラス容器に移行した。そして今般ビール用のコップに変化した事となる。ちょうど自分の飲酒スタイルも、最近はハイボールやビール程度のアルコール度数のものに変化していた。都度、身の丈に見合った酒の器を歯磨き用コップに使用するような生活を送ってきた。