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【日記】87歳の祖母を連れて、東京に行った話。1/3


先々週、祖母と僕の二人で東京に行っていました。

期間は1/8~1/10の二泊三日。

名目は神奈川に住む祖父の弟に会うこと。

せっかくの機会なので記事にしておこうと思ったのですが、そのあと体調を崩したり、いろいろあって今になってしまいました。




経緯と目的


今年の9月に米寿を迎える祖母は「もうだいぶいい歳になるし、会える人には会えるうちに会っておきたいねえ」とよく言っている。

それはきっと、95歳になる祖父を気にしてのところもあるのだろう。

彼は歳の割に元気とはいえ、耳は遠く、視界はつねに暗いようで、足腰に至っては見てて心配になるほどだった。

この老夫婦には、兄弟姉妹が多い。

祖母は二人の妹と末っ子の弟がいる長女であるし、祖父に至っては九人いる。

僕は九人兄弟が囲む食卓とはどのようなものだろうとたまに考えてみるが、どうも上手く想像できない。

祖父と15歳離れた弟の一人が、神奈川に住んでいる。

なにかと良くしてくれるその弟夫婦の話を、祖母はことあるたびに聞かせてくれた。

「じゃあ、いこうや。東京」

提案したのは僕である。

残念ながら祖父はもう遠出ができる体ではないので連れていけないが、今の祖母一人くらいなら、なんとかなるだろう。

それに僕としても、これはいい機会なのではないか。

いきなり石川の、電車が二車両編成で一時間に一本あるかどうかという田舎から東京へ戻ってしまうと、体とか精神とかがびっくりして拒絶反応を起こしてしまいかねない。

再び東京で生活するためのリハビリとして、旅行というのはちょうどいいように思えた。


高円寺にて


金沢から朝イチの新幹線に乗って、東京。中央線に乗り換え、新宿。そこから十分ほど歩いたところにあるワシントンホテルが今回の拠点になった。

部屋は祖父の弟がとってくれたもので、ワシントンという名前からは想像できないほどこざっぱりしていた。

初日は部屋に荷物を置いた後、高円寺に行った。

いざ東京へ行くという段になって、じゃあどこに行きたいかと祖母に訊くと、強いていうなら豊洲かなと言うので、じゃあそれは二日目の目玉にして、三日目に祖父の弟に会う予定なので、一日目が空く。

どうせなら楽しんでもらいたいなと考えてみたのだけど、思いつくことといえば当時歩いていける範囲でMUちゃんと飲んだくれていた記憶しかなく、まあお年寄りは商店街とか好きでしょ、みたいな安易さで結局、高円寺。

東京で八年暮らしていた身にしては、僕の守備範囲はあまりにも狭すぎた。

高円寺北にお店がある知り合いのところに顔を出し、14時過ぎに遅い昼食。

駅の近くにある焼き小籠包が美味しい台湾料理店で、MUちゃんとよく行ったお店だった。

「半にラストオーダーになるんですが、大丈夫ですか」

一年ぶりに入ったそのお店は、営業時間が短縮され、メニューはほとんど値上げ、食べ放題だった美味しいザーサイの缶の入れ物がなくなっていた。


新宿、東京都庁


昼食を終えて、古着や雑貨をみながら高円寺をぶらぶら歩き回り、祖母はフェイクレザーのカバンを柔らかいと言って気に入って買って、僕は特に欲しいものがないことに気づき、新高円寺から地下鉄丸ノ内線で新宿まで戻った。

僕は祖母を案内する傍ら、ずっと彼女の体調面に気を配っていた。

田舎のおばあちゃんには都会は人が多すぎるし、歩く道だって慣れたものとは全然ちがう。

やっぱり今回の旅の主役は彼女であるし、なんといってももう87歳なのだ。

地下鉄ひとつ乗るにしても、エレベーターを探し、座席を確保、行き交う都会人にぶつからないように細心の注意をはらった。

例えば祖母が急に「煮物でも食べんかいね」となれば、僕はすぐさま『新宿 煮物 おいしい』で検索をかけ、最短ルートを割り出し、なんなら祖母をおぶってでも彼女の望みを叶えなくてはならないという責任を感じていた。

「新宿の都庁が見たいねえ」

そんな僕の心配を知ってか知らずか、祖母はまさに好奇心の塊だった。

食べ方をレクチャーしているのに焼き小籠包はそのまま食べるわ、知らないのに新宿の地下をずんずん進んでいくわ、手荷物は自分で持つと言い張るわ、そのへんの人を捕まえては道を訪ねてまわるわ。

僕は都庁45階の展望台から広がる東京の圧倒的な夕暮れを眺めながら考えを改めていた。

『めっちゃ、疲れたな……』

いま、靴擦れとその痛みをかばって動かしてきた両足は重い。

2人分の荷物と格好つけて羽織ってきたロングコートが一日中のしかかっていた肩はこれ以上なく強張っている。

いつもするはずの昼寝を端折ったせいで、意識もぼんやり。

「帰りましょう」

さっさと先へ行ってしまい、展望室のどこかで所在がわからなくなった祖母を探し出し、都庁からほど近いビルで夕食を軽く済ませる算段をととのえた。

僕はもう自分が何が食べたいかもわからなくなり、とにかく美味しくビールが飲めそうな居酒屋風台湾料理店に入った。

お通しにザーサイが出てきた。

一日目、終了。



   【次話】




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