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28歳、はじめてのディズニーシー、はじめてのタワテラ。

実は、今月の初め、2月5日は僕の誕生日だった。

28歳になった。

子供のころ、28歳といえば、かなりいい大人を想像していた。

立派な仕事につき、責任感があり、経済力が安定しはじめ、部屋では高級バスローブで過ごし、窓の外から都会の夜景を見下ろしているイメージがあった。

現実の僕はといえば、そのどれも持っていなかった。

暮らしていた部屋は一階のせまいワンルームのアパートだったし、銀行口座の数字は月の給料の額と0の間をいったりきたりしていた。

部屋着はもっぱらスヌーピーのスウェットだった。

28歳になっても、中身はあまり変わっていないのかもしれなかった。


その誕生日に、彼女がディズニーシーに連れて行ってくれた。

僕はディズニーシーどころか、ディズニーランドにすらも行ったことがなかった。

ディズニーランドは『夢の国』と呼ばれているらしい。

だから、ひとたび足を踏み入れるとそのまま帰ってこられなくなるのでは、という疑念がずっとあったのだった。

そこで、彼女がアイルランドに棲む伝説の『ワーキングホリデー』というドラゴンを討伐する旅にでる前に一緒に行こう、という運びだった。

彼女と一緒なら、帰ってこられなくなってもいいかという気がした。


当日は珍しく、雪の予報がでていた。

僕たちはできる限り暖かい格好をして、寒さに備えた。

雪が降りはじめたのは、僕たちが『タワーオブテラー』という関門をくぐり抜けてきたときだった。


僕が初のディズニーシーに抱いた感慨は、言葉では表現しきれない。

幻想的な異国の町並み。

遠くに聞こえる楽しげな音楽。

そして石畳を闊歩する獣人たち……。

「知ってた? こういう耳をつけてないと、アトラクションに乗れないんだよ?」

彼女は来園前にそう教えてくれた。

その言葉通り、街中に耳や角の生えた獣人や頭の上にモンスターをのせた亜人たちが溢れていた。

どうやらこの夢の国では、人間であることがバレてしまうと、なにかしらの不都合があるらしかった。

僕は彼女から銀色でリボンつきの疑似耳を借りて、己の身分を偽った。

彼女は、赤いリボンが特徴的な疑似耳をつけた。

とても似合っていて、もしかしたら彼女は人間というのが仮の姿だったのかもしれないと思った。

そのあと僕たちは『タワーオブテラー』という乗り物に向かった。

これはどうやら、ディズニーシーに足を踏み入れる上で最初の関門にあたるようだった。

おそらく運営側はこの乗り物で、客を『人間かそうでないか』という、ふるいにかけているに違いなかった。

その証拠に、関門には長い列ができていた。待ち時間、約70分。

園内には人間であることがバレて、制裁を受けているであろう哀れな者たちの悲鳴が響き渡っていた。

しかも僕たちが乗ったのは『シャドウオブシリキ』という、ふるい強化期間のものだった。

普段は三回のはずのふるいが、七回になっていた。

およそ生身の人間の耐えられるものではない気がした。


僕たちを載せた座席がゆっくりと上がる。だしぬけに落ちる。上がる。落ちる。落ちては上がり、また上がっては落ちる。

僕は内臓をカクテルみたいに上下にシェイクされながらも、しかしなんとかその関門を突破した。

終わった直後、僕の両足は、力を込めて直立することを忘れ、膝を伸ばすことを忘れ、文字通り共に歩んできた28年間の歳月を忘れた、赤ん坊のそれだった。

彼女のほうは無事どころか、顔に生気が満ち溢れていた。

「あとでもう一回乗りたいなあ」

降りしきる雪のなかでそのつぶやきを聞いたとき、僕は彼女が本当に人間じゃないような気がした。


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