【毎週ショートショートnote】ひらめき膝(410字)
「食料がない」
長髪の男がソファの上でくたびれた声を出した。
「水もな。1階には腐るほどあるんだろうが」
短髪の男が自嘲気味に答えた。
「1階、か。今朝、バリケードを見てきた。千体はいる。ここにきて一週間。増え続けてる。自分がまだ連中の仲間入りしてないのが不思議だぜ」
「限界だな」
短髪が拳で膝をうつ。
すると、奇妙なことが起こった。
「待てよ。このフロアは、服売り場だ。マネキンを囮にして……」
「囮がどうだって言うんだ」
彼はもう一度、膝を力任せに殴った。鈍い痛み。冴える意識。
「そうか、服だよ。つなげて縄にする。それを屋上から垂らして脱出できる!」
振り上げられる拳。きしむ膝。そして、ひらめき。
「いってえ……。服に火をつけて、そこら辺に撒き散らすんだ。奴らは熱に反応する」
「なるほど。それなら、すぐに準備を――」
「あ、ちょっと待った!」
長髪は、たった一人の友人を振り返った。
「……膝が動かないんだ。痛くて」
どこかで大きな物音がした。
◇
こちらに参加しました。お題から物語を創る際、ごく自然に恋愛ものをさけていく傾向が僕にはあるようです。こういうことにも気がつくようになるので、ショートショートはいいですね。
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