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【毎週ショートショートnote】ひらめき膝(410字)

「食料がない」

長髪の男がソファの上でくたびれた声を出した。

「水もな。1階には腐るほどあるんだろうが」

短髪の男が自嘲気味に答えた。

「1階、か。今朝、バリケードを見てきた。千体はいる。ここにきて一週間。増え続けてる。自分がまだ連中の仲間入りしてないのが不思議だぜ」

「限界だな」

短髪が拳で膝をうつ。

すると、奇妙なことが起こった。

「待てよ。このフロアは、服売り場だ。マネキンを囮にして……」

「囮がどうだって言うんだ」

彼はもう一度、膝を力任せに殴った。鈍い痛み。冴える意識。

「そうか、服だよ。つなげて縄にする。それを屋上から垂らして脱出できる!」

振り上げられる拳。きしむ膝。そして、ひらめき。

「いってえ……。服に火をつけて、そこら辺に撒き散らすんだ。奴らは熱に反応する」

「なるほど。それなら、すぐに準備を――」

「あ、ちょっと待った!」

長髪は、たった一人の友人を振り返った。

「……膝が動かないんだ。痛くて」

どこかで大きな物音がした。


こちらに参加しました。お題から物語を創る際、ごく自然に恋愛ものをさけていく傾向が僕にはあるようです。こういうことにも気がつくようになるので、ショートショートはいいですね。


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