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短編小説『われわれは~、宇宙人だ~』
暑かったから、扇風機を出した。
まだ6月だってのに、気温は夏さながら。
日差しは燦然と降り注いで、日焼け止めを塗り忘れた私の肌にはちょっと色がついた。
昨日、外でたらセミ鳴いてたし。
もう十分に暑いけど、エアコンにはまだ手をつけていない。
あいつのスイッチを入れてしまうと、なんか負けた気になる。
何に? 夏に。
相手はまだ始解なのに、こっちは卍解しちゃう。みたいな。
どうせ「なん……だと……」ってなるに決まってる。
その点、扇風機はいいぞ。
始解のまんま、最終戦まで戦えるぞ。
エアコンと違って、乾燥しないし、なんていうか、オーガニックって感じ。オーガニックな空気の循環。オーガニックな風。それを使いこなすオーガニックな私。
そういえば卍解の卍っていう字は、なんか羽が回ってるみたいで涼しげですよね。
描いてるとき、夏だったんかもしれん。
ああ氷輪丸つかいてえな。冷やしておくれ、すべてを。
どうでもいいけど、アレ、やっとくか。
試運転、開始。
うわー、一年分のホコリだー。
「われわれは~、宇宙人だ~」
あははー。これこれ。夏の風物詩ー。
宇宙人てのは、広義で、だから。広義で。
地球も宇宙の一部じゃん、的なね。
「われわれは~、この星を~、偵察するためにきた~」
お、マジの宇宙人でした。
今年はそういう設定でいくのね。ハイハイ。
「われわれの~、星には~、緑がない~」
あらら。じゃあ目的はそれか。
「われわれは~、ニンゲンに~、危害を加えるつもりはない~」
みんな最初はそう言うよね。最初は。
「われわれは~、持ち帰りたいだけだ~、植物の種を~」
宇宙人特有の倒置法。
「われわれは~、}+?#$様の~、命令でここにいる~」
宇宙人特有の訳せない単語。
「われわれは~、__の__より__なのだ~」
宇宙人特有のトップシークレット。
「われわれが~、友好的になれない場合は~」
お? なになに? やんの?
「われわれは~、戦争をしなければならない~」
あーあ。まあ種くらいなら、くれてやってもいいけどさ。ひまわりの種やるよ。すくすく育つよ。日当たりいい場所に置けよ。
「われわれは~、君たちが~、有していない兵器を~、有している~」
技術力マウントっすか。人類ナメんなよ。言っとくけどガチンコだったら、こっちも負けてねえから。シュワルツェネッガー有してっから。
ここでピンポンピンポン、チャイム。
「われわれに~、来客の予定なぞない~」
いやまじで、誰だろ。
今日はまだウーバーも頼んどらんぞ。
映像、でます!
玄関に男性あり!
作業服、青!
あらやだちょっとイケメンじゃない?
来客モード、起動!
「あ、はい」
「すみませーん。ちょっとケンシンのことでー」
ケンシン? 検針? 剣心? るろうに?
「あ、はい」
『律する小指の鎖』!!
一応、チェーンロック。ほら……私の魔性が……さ。
「な、なんでしょう」
「どうも、ちょっと失礼しますねー」
ガッ、ブーツ。チャキ、ハサミ。
「え、あのあの」
ガチャン、とチェーンの切れる音。
ああ、私の『律する小指の鎖』が!
そして、なだれ込む作業服。
「おまえだな。信号出してやがったのは」
イケメンお兄さんが、さっきとは別人みたいな声を出す。
「連行する。人類ナメんなよ」
……んマジか。
了