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【エッセイ】「言い得て妙」の言い得て妙じゃない感。【言葉偏愛】


やっぱり物書きとしては、普段の生活では耳慣れない言葉をさらっと文にまぎれこませ、「さすがだな」と思ってもらい、読み手に知的な印象を与えて権威を示したいと思うのは書き手の誰しもが持っている感覚ではないだろうか。

ことわざや慣用句、偉人の名言、引用。

他人の文章の中にこういったものを見つけた日には、おそれおおい偉大な知性を感じ、思わず画面のまえにひれ伏してしまう。

いつか自分も、こんなふうに文章によって人々をひれ伏させたいと思う。

読書というものはそのためにすることである、という考えに疑いの余地はない。

しかしどうもその『知的な言葉』の中に分類していいんだか悪いんだかわからないフレーズ、というものに出会うときがある。

言い得て妙

この言葉、その筆頭だった。



そもそも『言い得て妙』という言葉を聞いたことのある人、見たことのある人はどのくらいいるのだろうか。

僕がはじめてこの言葉に出会ったのは、たしかなにかのアニメかゲームだった気がする。

あ、いま思い出した。

『サイバーパンク2077』というゲームで相棒のジャッキーが使っていたのだ。このゲームは海外の制作なので、セリフの原文は英語なのだろう。「うん?」と思いながら、ゲームを中断してわざわざ調べた覚えがある。彼のニュアンスは、ためいき混じりに、という感じだった記憶。

一応、意味の解説をしてもらおう。

言い得て妙(いいえてみょう)」とは、「言葉で非常にうまく表現されていること」や「ぴったりと的確な表現で、妙味があること」を意味する表現です。ある物事や状況に対して、その本質を的確に言い表している際に使われます。

例えば、誰かが複雑なことを一言でうまく言い表したときに「それは言い得て妙ですね」と称賛する場面で使われます

親愛なるChatGPT卿

とのこと。

称賛。

つまり、まあ、褒め言葉として機能するようだ。

しかし果たして本当にそうだろうか。



もしもこの記事を読んでおられる中に「『言い得て妙』はじめてだよー」という方がいらっしゃいましたら、ご起立ください。


どう感じましたか?

ChatGPT卿の解説どおりの意味だと思いました?


――なんか違いますよね。


もしも解説を鵜呑みにするならば、この言葉のもつ意味は現代でいうところの「なるほど!」とか「言えてる!」とか「まじそれな」に通じるものがあると思う。

でもなんていうか、そこまでクリティカルな感じがしない。

「それは言い得て妙ですね」

一歩引いてる感じがする。

斜に構えてる、みたいな。

「君、いま、すごくマトを射ていることを言ったんだけど、私どもはもうそれ一回通ってきてるんですよねでもすごいすごい」みたいな含みがある。

あ、もうご着席いただいて大丈夫ですよ。



僕が考えるに、この言葉がいまいちクリティカらないのは『』という一文字に原因があるような気がする。

「妙味があること」

とChatGPT卿はおっしゃられていたが、この『妙味』も「通好みの味」的な雰囲気をまとっており、ストレートな「うまい!」というファストフード的疾走感あふれる感動はあまりない。

地元の老舗の、店主自ら筆書きしたメニュー表の匂いがする。

そう書くと趣深い感じがするが、じゃあ「趣深いですね」というのが的確な表現であり、『妙味』の出る幕ではない。

』という一文字はどちらかと言えば『奇妙』とか『珍妙』とか、見た目は子ども、頭脳は大人の某名探偵がたった一つの真実見抜くときに「妙だな……」とつぶやいたりするような違和感がどうしてもいなめないのだ。



当意即妙』という言い回しがある。

この四字熟語はどうだろう。

これはなんとなくどこかクリティカっている響きがあるような気もする。

使い所もありそうである。

しかし手にとってよくよく観察してみると、それは『』以外の三文字に由来する響きであることがおわかりいただけると思う。

「当たり!」の『
「意気揚々!」の『
「即日買い取り!」の『

どれも疾走感があり、ストレートで、ど真ん中のクリティカル。

彼ら三文字が力をあわせ、末のひねくれものである『』をなんとか家の外に引っ張り出すことでようやく成り立っているような言葉なのだ。



これらのことを総合するに、『言い得て妙』はやっぱりちょっと表現のクリティカルヒットを言い表すものとしてふさわしくないというのが、僕の見解になる。

つまり『言い得て妙』そのものが、言い得て妙じゃない。

ただ僕のような未熟な物書きが、そんなことをのたまいつつも、もしも「いやいやそんなことなくて『言い得て妙』にもクリティカる場面は充分にありますよたとえば~」というご意見があれば、僕は自らの見聞のせまさをすぐさま認め、机の上で画面にむかってひれ伏し、またそのような場面をこれから書く小説の中にさらっと組み込むことで読者をひれ伏させ、文章を介した『ひれ伏しひれ伏されの輪』をここnoteで広げていくこともやぶさかではないので、なにとぞご一報のほど、どうかよろしくおねがいいたします。


#なんのはなしですか



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