#3 チャールストン
「この映画俺、昔から大好きでさ。」
赤松さんがいつも流している映写機の映像を観ながら話す。
モノクロのこの映画は誰もが知っているだろう。
チャーリー・チャップリン。
チョビヒゲにハットがトレードマークのあの方だ。
もちろん私はリアルタイムでこの方の映画など観たことはない。(ほとんどリアルタイムの人なんかいないかw)
「マスターはどこら辺が好きなんですか?この映画?」
変な聞き方をしてしまったが、私も別に嫌いなわけではない。
むしろ好きだ。
だがこの無声映画のどこら辺が赤松が好きなのか?気になってしまったのだ
「う~ん?そぅね〜??基本的に全編通して好きだけど、この!ココ!チャップリンがさ!ダンスするのよ!ここいいよね〜!!」
赤松が興奮してまくしたてる。
確かにこのシーン。面白い。。。
少し背の小さめなチョビヒゲ男が奇妙に足を交差させて踊る。
「あれ・・・?これ?」
どこかで観たことがある。間違いなく。
この映画ではない。
(どこで見たの・・・?そう遠い話ではない。)
莉々子はは思いを巡らした。
・・・・うーん?分からない。
どこだろう?
考えあぐねていると、またこの間も同じ所で笑ったであろう。赤松が爆笑していた。
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そんな事もすっかり忘れたある日。
莉々子がいつもの通りに通勤のルートの消火器をチェックしていると、いつも通る公園の脇で、ある中学生ぐらいの女の子がダンスを練習しているのが見えた。
(あれ?あの子は確かいつもこの公園でダンスを練習している子。。。そういえばいつもこんな朝早くから練習しているわよね?頑張り屋さんね。)
見るともなしに、思わず立ち止まりその女の子の踊っているダンスに目を凝らした。
「あっ、あれ。あれは・・・。チャップリン??
」
莉々子は少し彼女に近づいた。
あの足を交差してしているダンス。
あれは、うーんと
なんて言ったっけ??
確か赤松が言っていた。
チャーリー?チャップストン?
なんだっけ??
莉々子はとっても気になってしまった。
そうかこの子のダンスだったんだ。いつも通りがかった時に見るともなしにボンヤリと見ていたこの子のダンスが脳裏にきっと残ってたんだ。妙に納得してしまった。
ずっと見つめているのもどうにも変だ。
人見知りの彼女は人見知りのハードルを超えて話しかけてみた。
「ねえ?その踊り。それって何ていうの???」
勇気を振り絞り莉々子は話しかけてみた。
その女の子はピタッと動きを止めて、少し怪訝そうにこちらを見つめて
おずおずと話しはじめた。
「えっ?これは。。。PSYって人のDADDYっていうシャッフルダンスです。」
後半は消え入りそうな声で言っていたので少し聞き取りにくかったが
その答えは莉々子の想像するものと少し違っていた。
「えっ?それ。チャップリンのダンスじゃなくて?」
莉々子はしまったなという顔をしながらも
おかしいな?間違いなくこのダンスはあの映画で見たものと似ているのに。
そう思って、話した後少し押し黙ってしまった。
するとその女の子は、顔をパッと明るくし
「あっ、チャップリン!そう!元々はそのチャップリンって人の、えーと、何て言ったっけな?そう!確か・・・チャールストン!!そんな名前でした!」
と、顔をパッと明るくしてこう答えた。
そして続けざまに
「お姉さん!詳しいですね!ダンスやられるんですか??」
と嬉しそうに尋ねてきた。
「えっ?違うの。違う違う。ごめんなさい。実はちょっと映画で見た事のあるダンスがよく似ていたの。それでつい、声をかけてしまって。ごめんなさいね、邪魔してしまって。」
莉々子はすまなそうにお詫びをした。
するとその女の子は
「あっ、別にいいんです!そんな風に思って見てくれたんならむしろ嬉しいです!」
と言って眩しい笑顔をこちらに向けた。
(とってもいい子だなぁ。よく見ると高校生なのかしら?礼儀正しいし。)
「邪魔してごめんね。続けてね。」
と、言うと彼女はニコッと笑ってお辞儀をしてまた先程のダンスをはじめた。
(そっか。似てるけど彼女の方が動きも早いし、色んな向きに向いたりよく見ると少し違うのね。それにしても上手だなぁ。長くやっているのかしら?)
思わずまたジーッと見入ってしまった。
すると彼女はダンスを少しやめ、こう言った。
「お姉さん、ダンスお好きなんですね!すごくジーッと見てくれてますものね!」
と、嬉しそうに彼女は答えた。
少し小休止というように、彼女は持ってきた水筒だろうか。
蓋を開けるとゴクゴクと飲み、ふぅーっとひと息ついた。
「お姉さん!このダンス!けっこう流行ってるんですよ!うーんと・・・なんだっけな?パリピ?そう!パリピ!とかがよく踊るんですって!私はパリピってよくわからないけど!」
楽しそうに彼女は答えた。明るくて本当にいい子。
莉々子もニコッと微笑みを返した。
— 何度か通勤の帰り道に会うようになって
「今日も頑張っているね。」と挨拶したり、逆に
「莉々子さん、おはようございます!今日は飲み過ぎちゃいました?お疲れみたいですけど」
と、彼女から声をかけてもらい
「えへへ、バレた?」と笑い合ったりするようになった。
彼女の名前は恵丸 愛瑠(めぐむまる える)というお名前だと教えてくれた。
「とっても珍しい名前でしょ!!」
と、元気良くいつも通りニコニコとしながら教えてくれた。
可愛らしいなぁ、莉々子もこのぐらいの年齢の時はこんなだったかな?
いや、彼女は特別だな。きっと。
そんな事も考えた。
こんなに素直な子がいるなら世の中も捨てたもんじゃない。等とおよそ年齢不相応な考えも浮かび、うんうんと妙に納得をしてる自分も可笑しかった。
愛瑠ちゃんは今年中3で、来年から高校生らしい。
「高校に行ってもずっとダンス続けたいんですよね!お父さんもお母さんも応援してくれるし!」
きっと彼女がこんなに素直なんだ。ご両親も素晴らしい方達に違いない。
(あれ?嫌だ。私どこから目線のこの予想?なんだか笑っちゃうな。)
でもとにかく頑張って欲しい。
「ねえ?愛瑠ちゃん。
今、私、カクテルBARで働いているんだ。それでこの間うちのマスターに、
「マスター、やっとチャップリンの謎が解けたんですよ。チャップリンの謎は愛瑠ちゃんでした。」って言ったら、
「何それ?」って笑われちゃった。」
「で、愛瑠ちゃんの事話したらマスターがね、
「莉々子ちゃん。実は【チャールストン】って名前のカクテルもあるんだよ」って教えてくれたの。
とっても度数の強いカクテルなんだけどね。でもそんなダンスの名前のカクテル面白いなぁ~って思って。
いつか愛瑠ちゃんが成人を迎えたら、私がそのカクテルを愛瑠ちゃんにプレゼントしたい!ってそう思ったの。勝手に思っちゃったんだけどね笑笑」
そう、莉々子が話すと少しキョトンとしていた愛瑠はパッと顔を明るくして
「いいんですか!?莉々子さん!行ってみたい!いつか私莉々子さんが働いているお店行ってみたい!で、【チャールストン】飲んでみたい!」
満面の笑みでそう言ってもらい、なんだかこちらの方がとっても幸せな気持ちになってしまい「ありがとう!愛瑠ちゃん!」と、お互いに両手を出して手を握り合い、しばらくの間朝日が射すまで両手を上下に振って喜びあった。
— それが5年前のあの時。
今日は約束の日。
愛瑠ちゃんが二十歳の誕生日を迎え、お祝いをしよう!って約束していた日だ。
赤松もお店を花でたくさん飾りつけ、莉々子からお話によく聞いていた恵丸 愛瑠さんのご来店を今か今かと待ちわびている。
さあ、間もなくこの扉を開けるべく階段を上がる音が聞こえてきた。
「お誕生日おめでとう。愛瑠ちゃん。」
莉々子はそう呟きながらドアの横に立った。
.。゚+.Happy Birthday゚+.゚
~recipe~
ジンベースのカクテルですが、大体均等に入れていきますので甘味は配分によって調整します。
チェリーやオレンジリキュールの香りが良い良いマティーニといった雰囲気ですね。
お酒ばかりの組み合わせなのでうっかり足元を取られ、それこそチャールストンのように足が交互に絡まらないようご注意を!
ジン・・・1/6
キルシュワッサー・・・1/6
オレンジキュラソー・・・1/6
ドライヴェルモット・・・1/6
スウィートヴェルモット・・・1/6
マラスキーノ・・・1/6
※今回はキルシュワッサーなかった為、マラスキーノのみを使用。
オレンジキュラソーはグランマニエで。
好みによっては少し酸味(レモン等)をくわえるのもありかと思いますが、ここはスタンダードオールドカクテルの雰囲気を大事に、お酒のみで作成。白黒の画像が目に浮かびます。
(続く。是非ダンスの動画と共に臨場感をお楽しみください。)