プロローグ
— いつからだろう。
目が離せなくなったのは。
莉々子が赤く輝く消火器に目を留めたのは、いわゆる普通の会社勤めの方達がまだ眠い目を擦りながら駅に向かう明け方5時。
莉々子にとっては帰り道のそんな時間帯だった。
週3回勤めているBAR【The first one】からの帰り路だ。
はじめは
「こんな所に消火器あったんだ」
と、気にもとめなかった。
しかし、その日を境にこんな所にも。あれ?こんな所にも。
あら?こんなデザインの箱型あるのね。これデザイン違うわ。新型ね。
いつしか目が離せなくなり、気がつくと勤めの店から駅周辺の消火器を全て網羅していた。
ハマると凝り性でマメな莉々子は、駅周辺のマップをひとつひとつ×印をつけて丁寧にそのポイントの消火器を写真に収めた。
そして現像した写真をまた丁寧に丁寧にフォトブックに収めていった
こうして出来上がったフォトブックを見るとひとつひとつの消火器が違うことはもちろんのこと、その背景ひとつによっても大きく変わる事を発見し、目をキラキラとさせた。
「何故か人って箱型の消火器格納BOXの上にはモノを置きたくなるのよね!」
と、置かれたレッドブルの空き缶や錆びれた買い物カゴを見て一人クスクスと笑うのだった。
「ヨシ!」
莉々子はこの辺り一帯を網羅すると、休日の日には別の町の消火器を探しに新しいMAPを片手に出掛けるのが日課となった。
最近購入した相棒の一眼レフのカメラを首からぶら下げて。
莉々子はBARで働く事の他にカメラで仕事をしている。
本当はカメラ一本で仕事したいところだが、まだまだそれだけで食べていくには至らない。
だがBARでの仕事も嫌いではない。人見知りな性格ではあるが何故か仕事となると接客も不思議と苦ではなく、常連客と話す事にも慣れてきたし楽しくもあった。
「綺麗なカクテルも撮りごたえあるしね!あとは何より飲みごたえ!!」
撮影と称し次々と杯を重ね、二日酔いになる事も度々だ。
「今月は飲み過ぎちゃったよね。撮影の交通費も馬鹿になんないし。」
消火器とカクテルのフォトブックを交互に見ながら反省をした。
一つのカクテルに目が留まった。
「あっ、これ美味しかったなぁ・・・・【ロブロイ】?だったかな?」・・・。
(続く)