『彩香上京物語』 第十三章 〜目覚め〜

第十三章 〜目覚め〜

〜医務室

彩香「…ううっ」

彩香は目を覚ますとベッドの上にいることに気づいた。

星野「あ、気がついたみたいだね。」

彩香「彩さん…っ痛!」

星野の声で我に返り上体を起こそうとした時、脇腹に鋭い痛みが走った。

星野「ああ無理しないで。そのまま寝てていいから。」

彩香「あの…試合は?」

彩香は再び仰向けになるとシーツで顔を半分隠しながら星野に尋ねた。

星野「う〜ん、多分引き分けってとこかしら。大丈夫。もう心配しなくていいから。」

彩香「…。」

彩香は微かに残った記憶の糸を手繰り寄せた。

相手は…確かブラック・パンサーとか言ったっけな…。

速くて強かったな…。どこか雰囲気がJに似てたけど、Jじゃない。私の手首の太さしかないJの腕と違って、彼女のは逞しく鍛えられた腕だった。

殴られた記憶はあっても殴った記憶は出てこなかった。

彩香「あの…すみませんでした。私何も出来なくて。あんなに練習も手伝ってもらったのに…。」

星野「もうそんなこといいから。彩香ちゃんはよく頑張ったよ。」

彩香はようやく上体を起こしベッドへ腰掛けた。

彩香「私…モデルになるために東京に来たって言いましたけど、実は逃げたんです。前いたグループから。」

星野「え?ああ…そうだったの。」

彩香「先輩たちが卒業することは大分前に分かってたし、そしたら今度は私と愛方の二人でグループを引っ張っていかなきゃいけなくて…。」

星野「……。」

彩香「でも…これまでずっと先輩や愛方に頼ってばかりだった私がグループを引っ張るなんて無理って思ったから…。」

星野「……だから逃げたの?」

彩香「……はい。」

星野「……。」

彩香「でも、やっぱり私ってダメですよね。結局試合でも逃げてばっかりで何も出来なくて…。どうしたら彩さんみたいに強くなれるんですか?」

星野「私だって別に強くなんかないわよ。それに…あなたは試合で逃げてなんていない。どんなに殴られても蹴られてもあなたは痛みに背を向けたりはしなかった。」

彩香「でも…。」

星野「さっき先輩や愛方に頼ってばかりだったって言ってたけど、きっとその先輩や愛方も彩香ちゃんが思ってる以上に彩香ちゃんのこと、頼りにしてたと思うよ。言ってる本人の前で言うのも変だけど、あなたは責任を放り出して逃げるような人じゃない。東京に来たのは何かもっと大きな理由があったからなんじゃない?」

彩香「理由……。」

星野「まあとにかく今は身体を回復させることに専念させること!じゃ、ごゆっくり〜。」

彩香「………。」(理由か……。)

(ぐぐ〜)

考え事に耽っていた彩香のお腹が鳴った。

第十四章へ続く

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