センスの良い若手教員
たしか26歳の頃だったと思います。50代のベテラン教員からこんなことを言われました。
「タビ先生はセンスがいいよ。正職目指してるんでしょ?絶対受かるんだよ?いろんな若い先生見てきたけど、あなたはセンスがいいから。子供たちのために続けてね」
こんなこと言われりゃ誰だって嬉しいですよ。物覚えの悪い自分ですが、いただいたこの言葉はずっと覚えていました。辛いことがあった時には決まって脳内に響き渡ってくれました。
その後自分は正採用教員となり、またその先生と同じ自治体で働くことになりました。町内の研究会でその先生を見かけたので、一つ質問をしてみました。
「センスが良いってどんな教員のことなんですか?」
あの時言われて嬉しかった。でも自分の長所なのならもっと具体的に知っておきたい。そんな感じの言葉も添えて質問をしてみました。
帰ってきた言葉は大体こんな感じ。結構リアルに思い出せます。
教員って人種はね。授業や指導がうまくいかなかった時に人によって二通りの思考をするの。
一つは「あの子たちは話が聞けない子だ」。
もう一つは「私はあの子たちに話を聞かせることができなかった」。
あなたはいつも自分の技術や経験が足りないからうまくいかないって言ってたでしょう。その考え方がセンスに溢れてたのよ。自分の中から原因を見つけ出そうとする人は先生に向いていると私は思ってるし、実際そうだと思う。あなたは普通にやっていたけど、子供のせいにしないって本当はすごく難しいのよ。
20代の頃、自分は知識技術のなさを呪っていました。必死で本を読み実践を繰り返すと、今度は経験のなさを実感しまた自分を呪いました。こんな人間に教壇に立つ資格があるのかと。
この子たちはベテランの先生に持ってもらっていれば、もっと伸びたのかもしれない。自分が担任したばっかりに、伸びるはずの力が伸びずに終わっている。辛い。悔しい。
そんなことばかり考えていました。我ながらネガティブな人間だなぁと思います。が、もしかするとこのような思考は小学校教員として生きていくために必要な考え方だったのかもしれません。
職員室や飲み会の場で、うまくいかない理由を子供や保護者のせいにして話に花を咲かせている人をよく見かけます。そのたびに、かつて自分にアドバイスをくれた50代の先生のことを思い出します。
若い人が授業や学級経営で悩んでいるとき、「ああ自分が情けない、申し訳ない」みたいなニュアンスの言葉を発しているのを見ると、この人はセンスが良いんだろうな、なんて思っちゃいます。
もちろん、自分はベテランでも優れた教員でもありませんから、実際に口に出して「センスが良いね」なんて言うことはないんですが。そんなのおこがましいですよ。