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グヤーシュがフォアグラを凌駕してしまった話 【ブダペストに行ってみました(其の三)】

沸き上がってきたフォアグラへの思い

ブダペストに出発する前、フォアグラを食べるのが大きな楽しみのひとつとなっていました。
フォアグラ。ハンガリー語でリバマーイ(Libamáj)。果たしてこれまでの人生で、この世界の三大珍味のひとつを口に入れたことが何度あったでしょう。出席した結婚披露宴のメインディッシュとしてステーキに載った小さなフォアグラを食べたことはありますが、そのサイズが問題なのか、はたまた私の味蕾の感度が問題なのか、味は覚えておらず、トロリとした触感が僅かに残っているだけでした。
その位の記憶しかなかったということは、これまでフォアグラにはそれほど執着はなかったのだと思います。ただ今回、ブダペストに行くと決めて買い込んできたガイドブックを読んでいると、ハンガリーはガチョウの飼育が盛んで、質の良いフォアグラが手ごろな価格で食べられるというではありませんか。尿酸値のことは頭から消し去り、シナプスに訴えてその記憶がしっかりと脳に刻まれるようにフォアグラを食べてみたい。そんな気持ちが俄然、沸き上がってきたのです。

フォアグラを凌駕したグヤーシュとの出会い

と、このように美食の象徴であるフォアグラをしっかり味わってこようと気合十分にブダペストに向かったはずでした。ところが、所詮は付け焼き刃の思いだったのか、その主役の座をすぐにグヤーシュ(Gulyás)に渡してしまうことになります。
朝10時頃にリスト・フェレンツ国際空港に到着したので、リムジンバスに乗ってブダペスト市街に着いたころには丁度お昼になっていました。15時のチェックインにはまだ随分と時間がありましたが、宿泊するホテルのフロントに尋ねると、「もう掃除も終わったから、部屋にスーツケースを置いても構わないですよ。」と笑顔で応対してくれたので、身軽になって直ぐに昼ご飯を食べに街へ繰り出しました。
ホテルの近くにはケバブの店を始め多国籍なレストランが数々ありました。でもやっぱりブダペストでの一口目はハンガリー料理しかない。なおかつ喉もすこぶる渇いていたので地元のビールも飲みたい。そんな思いを抱きながらうろついていると、パブのような店を見つけ、ウインドウから中を覗くと皆何か食べているようでした。これはうってつけだと、この店に入ることにしました。
テーブル席はほぼ満席でしたが、カウンター席が空いていたのでそこに座り、まずビールを頼みました。さて食べ物をどうしようかとメニューを見ていると、ガイドブックにフォアグラとともに代表的なハンガリー料理と書いてあったグヤーシュの文字を見つけました。寒い街中を歩いてきて体を温めるのにも丁度良かったので、グヤーシュを頼むことにしました。
そして運ばれてきた初めてのグヤーシュは、トマトスープよりも更に鮮やかなパプリカの赤色でした。そしてスープの中にはサイコロステーキ大の牛肉がゴロゴロ。なおかつジャガイモやニンジンといった野菜もたくさん入っていて、そのスープを一口すすると、パプリカの風味と肉や野菜のエキスに満たされた、どちらかと言えばおふくろの味系の味が体に沁み込んできたのです。この瞬間、私はすっかりグヤーシュに魅了されてしまいました。

フォアグラを凌駕したグヤーシュ達

結局、一週間のブダペスト滞在中にグヤーシュを4回食べ、牛肉の代わりに淡水魚が入ったハラースレー(Halászlé)も入れると、赤いパプリカスープを5回食べました。どのレストランのグヤーシュも牛肉の塊がゴロゴロ入っていて食べ応えがありましたし、海外旅行で不足がちの野菜もしっかり摂れるという嬉しい副産物もありました。またグヤーシュを頼むと、必ず籠に一杯のパン、ポガーチャ(Pogácsa)がセットで出てくるので、グラスビールを2杯も飲めば大満足になり、結果、リーズナブルな食事になりました。地元の人が集まっているレストランでビールとグヤーシュを頼んだ時も、注文を取りに来た店員が “Nice Choice!” と言っていたので、これは地元の人もよく頼む組合せなのかも知れません。

70%再現?できた自前グヤーシュ

ところで帰国後もグヤーシュの味が忘れられず、近所のスーパーで安売りの赤身の多いステーキ肉とパプリカパウダーを買ってきて作ってみました。ブダペストで食べたものには到底及びませんが、思いのほか美味しくできたと自己満足しています。また作ろうっと。

でも、やっぱりフォアグラも旨かった

ブダペストに到着した日の夕食は、東駅から徒歩10分くらいのところにあるレストランに行きました。内装は何故かポリネシアン風でしたが、テーブルは満席、店内は既にワイワイと楽しい雰囲気に満ちていました。大人気のレストランと聞いていたので予約しておいてよかったと思いながら席に着き、ビールと当然のごとくグヤーシュ、そして日本から思いを連れてきたフォアグラ料理(ハンガリー風カツレツと鶏肉グリルのフォアグラ乗せ)を注文しました。

ハンガリーのフォアグラも肉も最高!!

ここのグヤーシュも期待通り美味しかったぁ。でも、主役の座を譲ったというものの、フォアグラもやっぱり美味しかったですね。表面はカリッ、中はトロリ。最高!!これで当初の目標も達成!しかも豚肉や鶏肉のグリルも、それに負けず劣らず美味しく、特に豚肉はうま味がギュッと凝縮された感じで絶品でした。私はハンガリー料理というものに魅了されたようです。

ラーンゴシュとチェリービールの夜

ブダペストではレストランで食べるだけでなく、ハンガリー料理をテイクアウトしてホテルで食べることもありました。その中にラーンゴシュ(Lángos)がありました。
ラーンゴシュは薄く広げた小麦粉ベースの生地を油で揚げたあとチーズなどをのせた、一見するとピッツァのようなハンガリー伝統料理で、戦後の食糧不足の時代を乗り切る上で大切な食となった歴史があるようです。

楽しい歌声、ありがと~♪♪

私の入ったラーンゴシュ屋さんは小柄な女性がひとりで切り盛りしていて、既に若いカップルがラーンゴシュが出来上がるのを待っていました。私はサラミとハム、そしてパプリカの輪切りなどがトッピングされたラーンゴシュを注文しました。店内にはBGMが流れていて、彼女は丁度掛かっていたStingの “Englishman in New York” を口ずさみながら調理してくれました。私は人種や民族を区別出来るような眼は持っていませんが、彼女は街中で見かけるハンガリー人(マジャール人)とは異なる風貌に見えました。そもそもそんな事を考えている日本人の自分が一番、街中で違和感のある風貌を見せているのでしょうが、ブダペストの街中をうろつく時、そんな違和感ある目線はなく、彼女もブダペストの街に馴染んでいました。

一人ではチョットきつかったラーンゴシュ

さて、出来上がったラーンゴシュをホテルの部屋に持ち帰って、買って冷蔵庫に入れておいたハンガリー特産のチェリービールを飲みながらいただくことにしました。結果を言えば、ラーンゴシュは美味しいんですが掛かっているチーズの量が多く、そのボリュームと味の濃さ、オイリーさから、何人かで分けて食べるのがお薦めの食べ物と感じました。また飲み物の組み合わせとしては、甘いチェリービールよりも普通のビールの方が絶対に合うと思います。でも残さずに食べました。満足、満足!!

お気に入りの朝食スタイル

ブダペストではお気に入りの朝食スタイルが出来上がりました。
ひとりの気軽な旅だったので、朝は時間を考えず自然に目覚め、起きてから徒歩で片道10分の距離にあるスーパーのLiDLに行って、焼き立てパン2つとヨーグルト、果物を買ってきてホテルで食べる。これが私のブダペストでの朝食のルーティーンになりました。シナモンロールやソーセージパンも美味しかったですが、特に三日月状のパンは表面がカリっとして、噛むと甘みもあり、毎回買って食べていました。このパンは焼きたてを食べないと味が落ちるそうで、私は毎日、一番美味しいタイミングで食べていたみたいです。

LiDL 毎日美味しいパンをありがとう

ところでLiDLには朝食を含めて、何度も買い物に行ったのですっかり顔なじみになったようで、レジでの支払いが終わって“クスナム(ありがとう)”と言うとにっこりと笑顔を返されるようになりました。馴染みの店が出来ると旅も更に楽しくなりますね。

地元パブを楽しむ

パブはブダペストに到着して直ぐにグヤーシュに出会わせてくれた場所でしたが、冬のブダペストの街をうろついて冷え切った体を温めてくれる場所でもありました。
そのパブは観光客が多く集まる街の喧噪から少し離れた石造りの建物の地階にあり、木のぬくもりを感じさせる店内をマスターが一人で切り盛りする落ち着いた店でした。
席に座って、私はホットワインを頼みました。そしてそれを飲んでいると、マスターと話していた常連さんと思われるお客さんがハンガリー語で話しかけてきました。マスターが英語で介してくれ、どこの国から来たんだ、という定番の質問を皮切りに、いろんな話をすることが出来ました。ただこのお客、既にかなりのお酒が入っていたようで、マスターも適度にいなしながら通訳していたようです。私は ”良いなぁ、こんな雰囲気” と思いながら、ホットワインで体を温めていました。

冷えた体を癒してくれた良い雰囲気の地元パブ

今回は約一週間のブダペスト滞在中に出会った料理やレストラン等での体験について記事にしてみました。ただ特に食べ物の感想は個人的な嗜好の影響が大きいですから、皆様の参考になるような内容ではなかったと思います。そのような中、最後までお読みいただき本当にありがとうございました。

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