推しのイベントDAYが嫌い④終。2022/08/13
〜2021年に解散した韓国アイドルグループの推しの思い出を綴るnote〜
公開収録前に同担さんとのことがあったから、私の気持ちは沈みがちだったが、推したちが登場すると会場は盛り上がり楽しかった。
終了後、各グループの特典会があった。
会場のあちこちに分かれてのチェキ会だ。
知り合いのヲタクと一緒に列に並んでいると、意外な人物が現れた。
前回の長期公演の時に、推しに冷たくされて泣いてしまったお姉さんだった。もう来ないと言っていたが、やっぱり会いたくなったから来たそうだ。
彼女は、久しぶりに推しに会うということで緊張していた。
私はマスクをつけたまま、一緒にチェキの列に並び順番を待つ。
知り合いのヲタクは、そのお姉さんと仲が良かったから、久しぶりに現場に現れたことをとても喜んでいた。列に並びながらステージ上にいる推しに、お姉さんが来てるよとジェスチャーでアピールしていた。
推しはその姿を認識したのかどうかわからないけど、特に反応はなかった。
先に私の順番がきて、マスクをしたまま推しの隣に並んだ。いつも通りピースサインで撮ろうと思っていた。
推しの右側に並ぶと、推しは右手の手のひらを上に向けて手を出した。
なぜ手を出しているのか意味がわからなくて、私は差し出された推しの右手を見て固まってしまった。
どうしたら良いんだろう…
推しは無言で右手の手のひらを上にして待っている。
チェキを撮るスタッフを待たせては悪いと思って焦る頭をフル回転させ、推しの右手の意味を考えた。
もしかして、手を繋いで撮ろうという意味かもしれないと思ったけど、違ったら恥ずかしい…
そうだ、手を繋ごうじゃなくて、「お手!」という意味かな?
焦る私は、推しの差し出す右手の上に自分の右手を置いた。
推しとよく犬の話をするから、"ワンコと飼い主"風に撮ろうという意味かもしれないと思ったのだ。(相当テンパっていた)
推しは、その手を握った。
この後はどうすれば…
私の頭は大混乱していた。チェキの列はとても長く、他のヲタクたちが見ていると思うとますます焦った。
とにかく早くチェキを撮らなきゃと、私はそのままカメラを見ながら左手はピースサインにして、何とも言えない不思議なポーズで撮影した。
撮り終わるとそそくさと小走りでステージを降りた。
渡されたチェキを見ると、推しは右手で私の手を握り、左手は人差し指を立てていた。ピースではなく、「1」。
どういう意味だろう。
外に出て、知り合いのヲタクとお姉さんが撮り終わるのを待った。
しばらくして2人が外に出てきた。
お姉さんはすごく緊張したと言っていたが、推しの反応は拍子抜けするくらい普通だったそうだ。
もっと大きな反応をしてくれると期待していたようで、物足りなそうだった。
「前みたいには通わないけど、またSHOWBOXに行こうかな」と、以前の推しの態度に対するショックは和らいだようだった。
2人と別れ、私は帰宅の途に着いた。
家に着いて、美人ちゃんにLINEをした。
今日のことを誰かに聞いて欲しかった。
同担さんとお茶を飲んだ話をすると、「うっわ、気まずっ!」と笑った。
そして彼女のマウントのような話に、「まぁ、あの人はすごく上手い写真を撮るし、推しも頭が上がらないのかもねぇ」と感想を言っていた。
それから収録後のチェキ会で撮ったチェキをLINEで送り、これはどういう意味だろうかと聞いてみた。
私は「お手」のポーズだと思ったと話すと、爆笑していた。
『アイツはさ、そんなハルちゃんだから自分から手を繋ごうとしてくれたんだよ。』
そう返信がきた。
『推しと接触したがるようなファンにはこんなことしないよ、あいつ』
私も…そう思う。
推しはグイグイ迫るヲタクが苦手だったし、ファンサービスを要求されることが嫌いだった。
『あいつが自分から手を繋ごうとするなんてね〜。
でもこの人差し指を立てるポーズはどういう意味だろうね?』
私も意味がわからないが、美人ちゃんも不思議がっていた。
推しがチェキで不思議なポーズをするときは、いつも必ず何か意味があった。
だけどこの時のポーズの意味は、最後までわからなかった。
そうだ、次の公演の特典会で訊いてみようか。
そんなことを考えながら、美人ちゃんとのLINEを終わりにした。
2日後、SHOWBOXでの1ヶ月の定期公演の最終日。
最終日とあって立ち見も出るくらい満員だった。
私は1週間遅れで推しの誕生日プレゼントを持参した。
公演後の特典会は人が多すぎて、ゆっくり話すことはできそうも無い。
例の手を繋いで撮ったチェキのポーズの意味を訊きたかったけど、そんな時間は無さそうだ。
残念と思うと同時にホッとしてもいた。
私にはその意味を訊く勇気は無いのだ。
何となくだけど、推しが人差し指を立てて「1」とポーズをとったのは、「僕が1番」と言いたいのかなと思った。僕のことが1番好きでしょ?という意味のような気がする。
推しはずっと、2番目の推しに遠慮するところがあった。
美人ちゃんがよく『あいつはハルちゃんがどっちのファンなのか確信が持てないんじゃない?』と言っていたが、少しずつ自信がつき今では私が2番目の推しよりも自分の方が好きだと確信していると思う。
だけど最近、私が2番目の推しに少し気持ちを向けようとしていたことに薄々気付いているようだったから、急に手を繋いでチェキを撮ろうとしたんじゃないだろうか…
全くの見当違いかもしれないけれど。
サインの時に「遅くなったけど誕生日プレゼント…」と言いながら推しにプレゼントを渡すと、推しはこちらが申し訳なくなるくらいに喜んでくれた。
他の人みたいに高価なプレゼントではない、若者に人気がありそうなブランドの手頃な値段の帽子だ。
推しの誕生日公演では、グッチやジバンシィの紙袋を持ったファンが並んでいたというから、渡すのは少し恥ずかしかった。
1ヶ月後にまた来日するらしいという話を聞いていたから、プレゼントを渡し「また次の公演を楽しみにしてるね」とだけ伝えて立ちあがろうとすると、推しは引き止めるように何度もプレゼントのお礼を言ってくれた。
そんなに言ってもらうほど大したプレゼントではなかったから、恥ずかしかった。
私は高価なプレゼントはあげられない。
その代わり何も望まない。
特別なファンサービスも、言葉も、要求しない。
推しにとって気楽なファンでいたい。
あまりに人が多かったから、特典会は日付をまたぎそうだった。今までの私なら特典会の最後のフォトタイムまで残っただろう。
だけどもう私はそれはやめようと決めていた。
最後まで残って、推しのファンサービスを期待したくなかった。推しに執着したくなかった。
自分のサインの順番が終わり、私はSHOWBOXを出た。
次の来日も、穏やかな気持ちで楽しみたいと思った。同担のマウントや、嫉妬とは無縁のファンでいたい。ただ推しの歌に癒されて、楽しむだけのファンでいようと心に決めた。
後日談。
それから、だいぶ経った頃。
SHOWBOXの定期公演の特典会で、私の前に例の写真が上手な同担さんが並んでいた。
私はなるべく他の人のチェキやサインの様子を見ないようにしていたから、その日も視線を外して彼女の後ろで待っていた。
すると突然、推しが周りに聞こえるような大きな声で彼女に向かって「ありがとー!ありがとー!」とお礼の言葉を言いながら、頭を下げていた。
他のメンバーのサインに並んでいた人も、その声に驚いて目を向けた。何度も何度も頭を下げてお礼を言う推し。
その、わざとらしくペコペコと頭を下げ続ける推しの姿が異様な感じがした。
同担さんは困ったような様子で、推しが頭を下げるのを止めようとしていた。
一体どんな話をしていたのかわからないけど、推しにそんな風に頭を下げられるなんて、私だったら悲しくなるな…と2人の様子を見ながらいたたまれない気持ちになった。
推しにプレッシャーを掛けて、自分の思い通りにしようとしていた彼女にとって、それは望む姿なのだろうか。
そんなことがあった後、彼女の姿をあまり見かけなくなった。他のグループの公演に出入りしてるらしい、と美人ちゃんから聞いた。
彼女は、次の推しを見つけたのかもしれない。
そして私は、推しが解散する最後まで変わらないスタンスのファンだった。
2番目の推しに傾いたり、フラフラと根無草のような推しだけを見つめるファンでは無かった。
推しはいつだって、ちゃんと向き合おうと手を差し伸べてくれたのに、私は推しと向き合うことを避けてばかりいた。
推しのイベントDAYが嫌いで、推しのファンサービスに逃げ腰の、そんな臆病な私の思い出話。
終わり。
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