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素直になれないヲタクが少しだけ勇気を出してみた結果③ 2022/09/27

〜2021年に解散した韓国のアイドルグループの推しの思い出を綴るnote〜

公演が終わり特典会が始まるまでの間、友人と余韻に浸っていた。

推しは、一生懸命盛り上げようとすると空回りしてしまう癖があったが、この日はそういう感じではなく余裕を持って盛り上げているように見えた、と友人は言った。

私も同じように感じていた。

SHOWBOXに比べ、だいぶ少ない観客の前でモチベーションを上げるのは難しそうだけど、推しは心の底から楽しそうにステージに立っていた。
そのことが驚いたし、そういう姿を見れて嬉しかった。

もしかしたら。
この場所に東京の常連たちが来ていなかったからだろうか…
ふとそんな風に思った。

常連のヲタクの中には、メンバーに直接ダメ出しをする人もいる。特典会の時に直接言う場合もあるし、手紙に書いて渡していたようだ。

毎日のように来る常連ヲタクからのダメ出しは、いつしか推しの負担になっていたのではないだろうか。 

あれは良くない、もっとこうした方が良い。
ヲタクにとっては推しのために助言をしてあげた、と思っていたのだろうけど…

その常連ヲタクたちがいないこの場所で、推しは伸び伸びとステージに立てているような気がした。

特典会が始まり、とても和やかな雰囲気だった。
東京のようにギスギスした感じが全くなかった。

SHOWBOXでは何となく他のヲタクの目が気になってしまうが、そんな雰囲気が無くとても楽しかった。

推しとは、他愛の無い話だけ。
今日、ソロが聴けてとても幸せだったこと。
公演がとても楽しかったこと。
特別なことは何も無く、そんな穏やかな会話。

推しも同じように、大阪だから特別なこともなく、SHOWBOXで話すのと同じように、ソロで緊張した話や、犬に会いたいという話を楽しそうにしていた。

いつ東京に帰るのかと訊かれて、明日の朝の飛行機で帰ると答えると、推しは驚いていた。
明日は仕事だから帰らないといけないんだ、と。

ハルさん、寝る時間ある?大丈夫?

そう言って推しは、すまなそうな顔をしていた。

推しのサインをもらってから、2番目の推しの列に並んだ。
2推しの誕生日が翌週だったから、少し早めのバースデーカードと手紙を用意して来たのだ。

2推しの列に並んでいると、ふと推しの視線を感じたけれど、何となく気まずい感じがして気づかないフリをした。
2推しへの手紙を持って並んでいる姿を見られるのは、何となく気まずかった。

2推しには、誕生日に来れなくて残念だという話や、翌月のクリスマスコンサートを楽しみにしていることを伝えた。

2推しは、私と友人が一緒に大阪まで見に来てくれて嬉しいと言ってくれた。

特典会はスムーズに終わり、会場の外でメンバーたちが出てくるのを待った。
しばらくすると退勤の挨拶をするためにメンバー達が階段を降りてきた。

人通りのほとんど無い夜の商店街のアーケードで、1列に並んで待つヲタクたち。

私は推しの写真を撮るために一眼レフを構えたが、建物入り口の照明が眩し過ぎて逆光になってしまった。

1列に並ぶヲタクに向かって、近づいて来るメンバー達。逆光で表情はまるで見えなかった。

すると、推しが目の前に立った。
動揺する私。

SHOWBOXではいつも、フォトタイムの場所取りは常連たちが最前列を占めるから、私は端っこから撮ることが多かった。
だから推しに目の前に立たれると、緊張した。

リーダーである2推しが最後の挨拶をして、メンバーたちがヲタクに手を振る。
逆光で写真はほぼ使えないだろうとわかっていながらも、目の前に推しが立っていることが恥ずかしくて、私はずっとカメラを構えていた。
カメラは私にとって盾のようなものだった。

だけど、もう明日の朝は東京に帰るのだと思うと、少しだけ勇気を出してみようと思った。
最後くらい素直になってみよう。

私は一眼レフを下ろし、真正面の推しを見て「バイバイ、お疲れ様」と手を振った。
推しは一瞬驚いた顔して、とびきりの笑顔でバイバイと手を振ってくれた。

カメラ越しでは見ることが出来なかった笑顔。
今までこんな表情は、見たことがなかった。

カメラは私の武器であり、盾でもある。
レンズ越しなら推しの顔を直視出来るから。
そして、カメラを構えることで推しに顔を見られずに済むから。

だから、いつもSHOWBOXの退勤の挨拶の時は、推しが去っていくまでカメラは下ろさなかった。

勇気を出してカメラを下ろしたら、こんな素敵なプレゼントを貰えた。
記録には残らないけど、私の記憶の中に確かに推しの最高の笑顔が焼きついた。

見送るヲタクたちに手を振りながら、メンバーたちは駐車場へ向かって行った。

私はしばらく放心状態だった。

「じゃあ、帰りましょうか。」
友人に促されてようやくカメラをカバンにしまい、駅へと向かった。

推しの最後の笑顔が、頭から離れなかった。

つづく。

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