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推しのせいで終電で降りる駅を間違えた話②2022/01/28
特典会も大盛況で、部屋の中は客で溢れていた。
人数が多い時は、サインの時の1人あたりの時間は短くなってとても慌ただしい。
それでも何とか粘って長く話そうとするヲタクを急かすスタッフも、どこかピリピリしている。
私は長く話すのが苦手だったから、こんな時はいつもより早めに切り上げていた。
推しを困らせたくなかった。
翌日から初めての大阪公演に行ってしまうから、名残惜しいヲタクたちは少しでも長く話そうと頑張っていた。
一ヶ月間、大阪で公演をする推し。
本音を言えば、大阪には行ってほしくなかった。
東京でずっと公演をしてほしい。
だけど仕方ない。
もっとファンを増やして、もっと大きな会場で公演が出来るようなアイドルになることが推しの為なのだから。
以前、ショーボックス常連のお姉さんから聞いたことがある。
そのお姉さんが前に好きだったグループは、徐々に大阪公演の割合が多くなって、ついに東京には来なくなってしまったのだと。
最初のうちは大阪にも見に行っていたけれど、そのうちそれに疲れてしまって、だんだん推しへの気持ちが冷めてしまったそうだ。
大阪に行っちゃうと、東京のファンは離れる人も多いよね、とお姉さんは言っていた。
チェキへのサイン会が始まり、各メンバーの列に並ぶ。
推しの列は相変わらず長蛇の列だった。
名残惜しいけど、今日は早めに切り上げよう。
そう決めて順番を待った。
順番が来て、推しの前へと座る。
今日は人が多いからゆっくり話せなくてゴメン、と言っていた。
公演の感想を伝えて、話を切り上げようとすると、推しが突然こう言った。
あ、アルバム。ありがとう。
唐突だったから何の話かわからずに、アルバム?と問い返した。
うん、犬の。ココの写真。
寝る前にいつも見てる。
それは、私が飼っている犬の写真のことだった。
推しは動物が大好きで、特にコーギー犬が好きだったから、私が飼っているコーギー犬の写真を何枚か現像して持ってきたことがあった。
サインの時に、ミニアルバムに挟んだ犬の写真を見せながら話して、推しは「すごく可愛い可愛い」とキラキラした目で写真を見てくれた。
そして、「僕はこれとこれが好き」と、その中の何枚かを選んでいた。
ただ話のネタにしようと持ってきただけの写真だったが、そんな推しがたまらなく可愛くて、「じゃあこの写真あげるね」とアルバムごと渡したのだ。
いいの?ありがとう。
そう言いながら推しは受け取ってくれた。
私が移動してからも、写真をめくりながら可愛いとはしゃいでスタッフに見せていた。
勢いであげてしまったけど、うちの犬の写真なんてもらっても困るだろうな、、、と私は後から後悔した。
あげてからしばらく経っていたから、そんなことすっかり忘れていたけど、推しはその日突然そのアルバムのお礼を言ってくれたのだった。
寝る前にいつも見てる
その言葉が、嬉しかった。
推しも韓国でコーギー犬を飼っていたそうだ。
少し複雑な家庭事情があって、今は一緒に暮らしていないそうだが、とても可愛がっていたのだろう。
犬の話をする時はいつも、目がキラキラしていた。
このワンコネタは、その後私と推しの間で様々なエピソードを作ってくれた。
今はもう虹の橋を渡ってしまったけど、推しとワンコの思い出は幸せな記憶と共に生き続けている。
メンバー個人のサインが終わり、次はメンバー全員のサイン会だ。
終電ギリギリになることを覚悟して、友人と2人で列に並んだ。
③へ続く。