推しの歌がいつも私を幸せにしてくれた③ 2022/09/05
〜2021年に解散した韓国アイドルグループの推しの思い出を綴るnote〜
個人サインの次は団体サインだ。
ここでも"鍵閉め"を狙って最後になりたいヲタクたちが牽制し合っていた。
私はさっさと列の前方に並ぶ。
早めに帰りたかった。
順番がきて推しの前に座ると、推しはソワソワと改まった様子で話し始めた。
こういう時は、何か事前に準備をしてくれている時だということが、今までの経験からわかった。
推しはそう質問した。
Dというのは、韓国のベテランアイドルグループのメンバーで、私は昔からそのグループのファンだった。推しもそのグループが好きで、たまにその話で盛り上がる。
つい数日前にDが来日し、ファンミーティングがあった。だけど平日の開催で、私は仕事で行けなかった。
というのは言い訳で、本当は1万円を超えるチケット代が懐に厳しくて、行くのは断念したのだ。
Dのファンミーティングにも行きたかったけど、それよりも推しに会いたかったから…
本当の事を答えたら推しを困らせてしまう気がして、「残念だけど、仕事で行けなかった」と無難に答えた。
すると推しは
なぜか、しどろもどろになってしまった。
私は不思議に思いながら、推しの話の続きを待った。
そう言うと推しは、Dがソロで10年以上前に出したバラードのサビを歌い始めた。
わぁ…と私は、思いがけないプレゼントをもらったような気持ちになった。
10年以上も前の曲。その当時推しは、小学生だったんじゃないだろうか。
胸がいっぱいになって、私は小さく拍手しながら「嬉しい、ありがとう」と伝えた。
推しは冗談混じりにそう言って笑った。
そして、
照れながらも少し誇らしげに、そう言っていた。
こんなこと周りに言えば、勘違いするなと呆れられるかもしれないけど、推しは多分…私が来たらこの曲を歌ってあげようと練習してくれていたような気がする。
推しの様子からそう感じた。
その日の夜、Dのファンミーティングに行った友人に、推しが特典会で『손수건』を歌ってくれたとLINEをした。嬉しくて、誰かに聞いて欲しかった。
すると友人は、
『昨日、私、推しくんにDのファンミーティングに行ったっていう話をしたよ!もしかして、推しくんは私とハルちゃんが一緒にファンミーティングに行ったと思ったんじゃない??』
そう教えてくれた。
友人もたまに推しのグループの公演をSHOWBOXに観に来るのだが、ちょうど昨日、公演を見に行ったそうだ。彼女と私が友達であることを、推しは知っている。
団体サインの時に、Dのファンミーティングの話を彼女から聞いた推しは、私も一緒に行ったのだと思ったようだ。だから「仕事で行けなかった」と答えた時に動揺していたのだと思う。話の出鼻を挫いてしまって悪かったな…
彼女は、私にとって恩人のような存在だった。
以前、推しが私が来る日に合わせてソロステージでリクエスト曲を歌ってくれた事があったが、それはその彼女が、推しに私が来る日を話したことがきっかけだった。ほんの偶然の会話。まさか推しがそんなことを計画していたなんて、彼女は全く知らなかったのだから。
今回も彼女との会話がきっかけで、推しはDの曲を歌う準備をしてくれたのだと思う。
おそらくこれが、私と彼女が結託して仕組んだことだったら、推しは絶対にこんなことをしてくれないと思う。推しはこういうことに敏感というか、勘がいいタイプだから。
推しはファンサービスを要求されることが嫌いで、自分の意思でファンサービスをしたい性格だった。
彼女にそんな魂胆が全く無いことを感じたからこそ、このサプライズを計画してくれたと思う。
こんなに幸せな特典会になるとは、思っていなかった…
推しは、相手の気持ちを汲み取る能力に長けていた。下心のある相手には時に冷たくもなる。
だから私は、推しに対して何かを望むことをずっと避けていた。
私は推しの歌が大好きで、その気持ちだけは胸を張って言えるけど、推しに嫌われるのが怖くて、何も出来なかった。
推しもそれはよくわかってくれていたと思う。
だから、私が『1番望んでいること』『1番喜ぶこと』を、推しは考えてくれたんじゃないかと思うのだ。
初めて推しの歌を聴いてからずっと、推しの歌が私を幸せにしてくれた。
今でも思い出すと幸せで…切ない。
終。