最後のソロの裏話と、推しの大切な人② 2022/02/11
日付はとっくに変わり、真夜中、私と彼女はLINEを送り続けた。
「実はね、前回の長期公演で推しが最後のソロを私に聴いてほしいって言ってくれたんだ。すごく嬉しかった。」
最後のソロのエピソードを打ち明けると、
彼女は驚いた様子で、こんなことを訊いた。
もしかして、それって『星から来たあなた』のOSTの曲??
そうだと私は答えた。
死んだ、、、、
「歌詞がとても良いから聴いてほしい」と言われたと私は話を続けた。
あいつ、殺したいwwwww
????
私さ、あいつに言われた!
『星から来たあなた』の曲、大切だと思ってる人に聴かせたいんだって!
お前ならわかるよね?って。
なんか必死だったんだけど、、、
私すごく大切なことを伝え損ねてた、死んだ。。。
大切な人に聴かせたい。
そんなこと言ってたんだ。。
私がそう思ってもらえるファンの1人だってことだよね。すごく嬉しい。と彼女に返信した。
違うよ!
あいつはそんなこと他の人には言わないよ!
めちゃくちゃプライド高いもん。
他の人には言わないよ絶対!
彼女からそう返信がきた。
プライドが高い?
いつも可愛くて子供みたいな推し、そんな風に感じた事は無かった。
そうだよ、プライド高いんだよ。
ファンサービスで媚びを売るようなことを言ってもさ、自分のソロを聴いてほしいなんて絶対に他の人に言うわけない。
あいつがそんな風に心を許すなんてこと無いよ!
ハルちゃんにそんなこと言ってたなんて、嬉しすぎる!!
どう返信して良いかわからなかった。
そして彼女は続けた。
歌詞、読んだ?
ソロステージの最中、スクリーンに日本語訳が映し出されていたけど、私は歌を聞くのに夢中で読んでいなかった。
死んだwwww
全然伝わって無いの死んだwwww
いったん土下座しとこうww
後から歌詞を調べて、身の程知らずにも勘違いしそうになったことは恥ずかしくて言えなかった。
でもさ、よく今までその話を黙ってられたね。
Twitterにでも書いてみ。
刺されるよww
そう、きっとこの話をSNSで書いたりしたら、私はボコボコに叩かれそうだ。
それとも、とんでもない妄想癖のあるやつだと思われるだろう。
私みたいな地味なヲタクに、推しがそんなこと言うはずがない。
だからこの話は、信頼できる友人以外には言わない。
うん、そうだね。
誰にも言わず胸の中にしまっとこ。
私もそうしてる。
彼女はそう共感してくれた。
ここでは『出る杭は打たれる』。
目立つことをすれば途端に潰される。
今までそういう子を何人も見てきた。
推しが最後のソロを聴いてほしいと言った相手が私だけか、他にもいたのか真実はわからない。
少なくとも私がその中の1人だったことは紛れもない事実だから、大切に胸にしまっておこうと思う。
あの頃、あいつが置かれた状況は酷かったから。。
周りを見てみ。
みんな煽ってるだけなんだよ。
大した中身なんてない。
そんなマウントの中でさ、あいつがファンから貰った指輪をしてても、ファンから連絡先を渡されてても、何も負担かけずにニコニコ笑ってライブを見に来てくれるなんてさ、ハルちゃんの存在は癒しだよ。
そう。
ヲタクたちは、推しのファンサービスをSNSに意味深に書いて煽り合っていた。
そして推しはファンからもらった指輪をいつもしていたし、繋がりたいヲタクたちから連絡先を渡されていた。
その指輪が原因でヲタク同士バッチバチにやりあっていたことも知ってる。
ある日の公演で、指輪に怒ったヲタクが指輪を外せと要求したこともあった。
特典会で並んでる時、後ろにいた子たちが「カカオのID書いたのに連絡くれないんだけど」と不満げに話していたこともあった。
(他の新大久保アイドルって、そんな簡単に連絡してくるのか?って話、、)
まだアイドルとして駆け出しだった推しは、そういう毎日に疲れていただろうと思う。
そう言ってくれたことがあった。
推しはいつもヲタクたちから責められていた。
そんな毎日が、辛かったのかもしれないな。。
推しが、最後のソロの日にちを私に教えてくれた日。
その日の公演は、偶然にも推しのソロステージの日だった。
少し物悲しい過去の恋の曲。
週末しか公演に行けない私が、推しのソロの日に当たるのは数少ない幸運の日だ。
ソロが聴けたことが嬉しくて、特典会の時に推しに「今日は来れて良かった。ソロが聴けて嬉しい」と伝えた。
推しは少し沈黙して、、
と言った。
え?どうして?と戸惑う私にこう続けた。
これで何度目だろうか。
この日も「最後のソロ」を聴いてほしいと言われ、私は何と答えていいのかわからず、
「私が来る日が、最後のソロの日だったらいいな」
とだけ言った。
「え?」
驚いて思わず聞き返した。
ソロの日にちは教えてはいけないルールだったからとても驚いた。
そしてその日は平日だった。。。
推しは、たぶん察していたような気がする。
平日だから来れないだろうと。
私も安易に「行く」とは言えなかった。
「そっか、、19日なんだ、、」それだけしか言えなかった。
推しもそれ以上は何も言わなかった。
来れる?と訊きたそうな顔をしていたけど、私が困っているのがわかったのだと思う。
特典会が終わって、私はどうにかして行く方法はないかと考えた。
なんとか仕事の都合をつけ、家族に了解を、、、家族の了解、、それが1番難しかった。
私が新大久保に毎週のように出かけることを、家族は良く思っていなかったから。
推しがせっかく日にちを教えてくれたのだから、何としてでも行きたい。
私は後ろめたさを感じながらも家族に嘘をついた。
仕事はどうにか都合をつけた。
無理をしてでもあの日、最後のソロを聴きに行って良かった。
あの日から2ヶ月近く経って、彼女からこんなビハインドストーリーを聞くとは夢にも思っていなかった。
にわかには信じられないけど、でも彼女がそんな嘘をついても何の意味もないだろうし。
確かに、推しはあの時必死な感じだった。
何度も何度も、行く度に最後のソロを聴きに来てほしいと言っていた。
今はもう、その彼女は他のグループに推しが出来たこともあって疎遠になってしまったから、いまさら確かめることも出来ないけど。
もしかしたら彼女の勘違いで、推しの言う『大切な人』は別の人のことかもしれないと否定する自分もいる。
だけど、、、
推しが、ソロを聴いてほしいと言ってくれたことだけは真実だから、私は今でもそのことを思い出すと幸せな気持ちで満たされる。
彼女とあの頃、お互いの推しの話で悩みを打ち明けあったことが、今思い出すととても楽しかった。
今もどこかで元気にヲタクしてるかな。
最後のソロで歌った曲「君のすべての瞬間」は、その後も推しが素敵なサプライズをしてくれたことがあって、本当に私の大事な思い出の曲になった。
そのサプライズの話も、そのうち書いておこう。
推しの幸せな記憶を。