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過去の推しとお揃いの指輪。 2022/09/08
〜2021年に解散した韓国のアイドルグループの推しの思い出を綴るnote〜
ヲタクたちは、推しが身につけているアクセサリーが誰からのプレゼントだとか、どこのブランドからの協賛品だとか、とても敏感だった。
私はアクセサリーのブランドには疎いし、誰がどんなものをプレゼントしたのかなんて知りたいとは思わなかったから、自分で検索したことはなかった。
ただ、ほかのヲタクたちとの雑談の中で、その手の情報を知ることがよくあった。
人差し指の指輪はあの子のプレゼント、中指の指輪は新規のファンからのプレゼント、グッチのピアスはあの子から…
私は、素直にみんな凄いなと驚くだけだった。
アクセサリーには無頓着な私だが、SHOWBOXにいく時はいつも同じ指輪をつけていた。
シンプルな黒い指輪。
大切な思い出の指輪。
その指輪は、推しと出会う前に好きだったアイドルグループのメンバーとお揃いの指輪だった。
お揃いと言っても、私が勝手に同じ指輪を買っただけだ。
そのメンバーが、弘大(ホンデ)のアクセサリーショップで買ったことを知っていたから、韓国へ行った時に同じ店で同じ指輪を買った。
そのグループは、2番目の推しが元々所属していたグループで、私は箱推ししていた。
だから、厳密に言えばその指輪のメンバーは『推し』というより、『推しの中の1人』だ。
なぜ同じ指輪を買ったのかというと、深い意味は無い。シンプルでかっこいい指輪だなと思ったことと、思い出の一つとして買った。
結局は思うように売れなかったために、契約を打ち切られてしまったグループだったけど、私にとって大切な思い出のグループだった。
だから、グループが消滅した後もずっと、私はその指輪を身につけていた。大切な、思い出の証として。
いつだったか、特典会の時にそのグループのことを今の推しと話したことがあった。
驚くことに、あの黒い指輪のメンバーと推しは、昔から仲の良い友達だったのだ。韓国へ帰るとよく一緒に遊びに行くと言っていた。
韓国の芸能界は狭い。多くの練習生は、歌やダンスのスクールに通いながら、いくつかの事務所を渡り歩くことが普通だ。
同じダンススクールや、同じ事務所の出身という繋がりのある芸能人は珍しくない。
私は、「実はこの指輪は彼の真似をして同じ指輪を買ったんだ〜」と推しに話した。
目の前にいる推しと過去の自分が、見えない糸で繋がったような気がして嬉しかった。
だけど推しの反応は、いささか微妙だった。
同じ指輪?
怪訝そうに指輪を見て、黙ってしまった。
そんな反応が返ってくるとは思わなくて、私は少し落ち込んだ。その奇跡みたいな偶然を、喜んだのは私だけだった。
言わなければよかったと、後悔した。
その後、その指輪の話も、指輪の主の話も、推しと話すことはなかったけれど、私はずっとその指輪をつけてSHOWBOXに通っていた。
それから暫く経った頃。
サイン会の時に、推しが話しながらじっと手元を見ていることに気づいた。
そして推しは私の右手を取って両手で握りながら、その指輪を見つめていた。
居心地が悪かった。
な…何だろう…
指輪をつけていることを怒ってるなんてことは無いと思うけど…
外した方がいいのかな…?
どうしていいかわからなくて、私は混乱した。
だけど大切な指輪だから、私はその後も外すことは無かった。
それからも時々、推しの視線が指輪を見ていることがあって、そのたびに私は妙に居心地が悪かったけれど、外さなかったのは半ば意地にもなっていたかもしれない。
今にして思えば、推しは『指輪に嫉妬する推し』というファンサービスをしていたのかもしれない。
鈍感な私は、そのことに気づかなかった。
推しはとても勘のいい人だったけど、私は丸っきり鈍いのだ。言葉で言ってくれないと気づかない。
きっと推しは、「ハルさん、鈍いな…」と呆れていただろう。
そんなファンサービスが空回りしていた推しを想像すると、クスっと笑いが込み上げる。
百戦錬磨のSHOWBOXヲタクなら、気の利いた返しが出来るのだろうが、私はまるで鈍かった。
この指輪には、もう1つエピソードがある。
推しとはアイドルになる前からの親友、という関係のメンバーからある時、この指輪のことを訊かれたことがあった。
団体サインの最後のメンバーだった彼が、「じゃあまたね」と言いながら珍しく手を握った。
私の手を握りながらふと指輪に目が止まり、「この黒い指輪、いいね」と言った。
彼もこの指輪の主とは友達だったから、指輪の由来を話した。
すると、「あいつと同じ?あいつも、今もこの指輪してる?」と不思議な質問をした。
私は質問の意図がわからなくて、「今??どうかな?今はもう、してないと思うけど…」と答えた。
彼はもうアイドルではなかったから、私が知るはずも無かった。
そして「この間、韓国であいつと会ったよ」と言いながら、興味深そうに指輪を眺めていた。
私にとっては大切な思い出の指輪だけど、弘大の安いアクセサリーショップで買える安物の指輪に、こんなに興味を示すとは思わなかった。
そんな話を友人にすると、「昔の推しとお揃いの指輪だから、誤解したんじゃない??」と言う。
今でもその指輪の主のことが好きだと、誤解したのだろうか。もちろん好きは好きだけど、「推し」としての好きとは違う。
過去の楽しかった思い出の中の人だ。
嫌いになってファンを辞めたわけではない。グループとして存続出来なくなったから、それ以上応援することが出来なかったのだ。
心にポッカリと穴が空いたようだった日々の中、今の推しに出会ってその歌声に堕ちた。
だけど…そんなことはこちらの勝手な都合だ。
以前、美人ちゃんに言われた言葉を思い出す。
『あの人たちは意外とデリケートなんだよ。自分だけを愛してほしいって思ってるの。』
美人ちゃんならたぶん、昔の推しとお揃いの指輪なんて付けて行かないだろうし、指輪の由来なんて絶対に話すことは無いだろう。
きっと、この指輪の話を美人ちゃんにしたら呆れ返るだろうな。鈍い上に、デリカシーが無いと。
そんな失敗すら、今は懐かしい思い出だ。
去年、推し達のグループが解散し、あの黒い指輪は失くしてしまったけれど、つい最近、車のシートの下から見つかった。
推しもこの指輪の主と同じように、どんなに応援したくても、もう…会うことも出来ない。
いつかまた会えるだろうか。
…会いたい。
この大切な思い出の指輪みたいに、また。