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推しの親友⑤ 2024.08.02

Wの公演から帰宅し、仲良しのヲタ友にLINEで写真や感想を送った。

Wが名前を覚えていてくれたことを、ヲタ友も喜んでくれた。

『Wはきっと、カカオのグループチャットでハルちゃんが来たことを報告してるね〜』

と茶化すヲタ友。

Wの元グループ、つまり私の推しグループは解散後もみんな仲が良く、カカオのグループチャットで連絡を取り合っていた。
メンバーの誕生日にはみんなで集まったり、個別で飲みに行ったりと良好な関係を築いていた。

ヲタ友は、『Wは絶対にハルちゃんの名前は覚えていると思ってた』と言った。
実を言えば私も内心そう思っていた。

なぜなら、彼らは私が公演を見に行くと、毎回のように誰かが特典会で私の名前の替え歌を口ずさんでくれたからだ。
最初は1人のメンバーが突然その替え歌を歌い出し、いつの間にかみんな歌うようになった。

推しは、いつも少し恥ずかしそうに小声でそっとその替え歌を歌ってくれた。

『きっと宿舎でもメンバーみんなで歌ってるよね』と、当時他のファンたちから茶化されたものだった。

だから、Wが私の名前を忘れなかったことは、ほんの少し予想していたのだ。

Wがカカオで私が来たことを推しに報告したかはわからないが、推しがあの頃を懐かしく思い出してくれるといいな、と淡い期待を抱いた。

Wと推しも、Kほどではないが親友と呼べる部類の間柄だった。同じグループで活動するよりもずっと前から、2人は仲の良い友達だった。

サイン会でWと推しが隣同士のとき、時々推しがWと私の会話に聞き耳を立てていることがあって、それも懐かしく楽しい思い出だ。

『ねぇ、推しと2推し、どっちが好き?』
『推しのどこが1番好き?』

Wは私に、びっくりするような質問をすることがあった。

そんな時は必ず、隣に座っていた推しが聞き耳を立てていた。
推しは隣で目の前のファンにサインをしながら会話をしていたから、こちらの会話は聞いていないだろうと思って、Wの質問に正直に問いに答えると、後で決まって推しは嬉しそうにその会話を持ち出した。

Wとの会話を聞いていたことに驚くと同時に、イタズラっ子みたいで可愛かった。

『アイツのどこが1番好き?』と質問するWに、「推しくんの声が、、歌声が好き」と答えた私。

Wのサインが終わって、隣に座っている推しの前に移動すると、「ふぅん、、、僕は声だけか、、、」と拗ねた振りをした推し。

Wと推しはまるで示し合わせたかのように際どい質問をして、その連携プレーに私はドキドキしたり笑ったり、2人と楽しい時間を過ごした。

おそらくもう2度と、アイドルとそんな関係を築くことは無い。
推しのファンになって、SHOWBOXに通い始めて、長い長い時間をかけて築いた信頼関係。

そう、私は推しのオキニでは無いが、推しから信頼されているファンだという自負があった。

アイツはハルちゃんのことを、この人なら大丈夫って思ってるんだよ。

昔、美人ちゃんに言われた言葉。

「この人に少し特別なファンサービスをしても、他のファンと争ったり、SNSで自慢したり、自分に執着して困らせないだろう」
推しは、そんな風に思ってくれていたような気がする。

ただの勘違いかもしれないけど。

そういえば、思い出した話がひとつ。
推しが来日してまだ日が浅い頃、推しのファン同士が特典会でケンカをしたことがあった。
推しの目の前で言い争い、その後、廊下で手に持ったアイスコーヒーを相手にぶっ掛けたという、何とも幼稚で滑稽な出来事。

そんなファン同士の争いが続いて、いつからか推しはファンサービスをするのをやめた。

あの頃の推しは、いつも無表情で目に生気が無かった。
ファンから「怖い、冷たい」と言われた。

あの頃。
私の存在など認識すらしていなかった、あの頃。

ただ遠くから、見つめるだけだった。

そんな日々が、とても懐かしい。

つづく。

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