推しの言葉や仕草に一喜一憂する自分が痛くて愛おしかった。2022/10/30
〜2021年に解散した韓国のアイドルグループの推しの思い出を綴るnote〜
前回書いたnoteと同じ日の出来事を振り返ろうと思う。
推しのSHOWBOX公演も残すところあと3週間を切った頃の話。
某韓国ベテランアイドルグループのメンバーのファンミーティングへ行った翌日、私はSHOWBOXへ向かった。年の瀬のお財布が厳しい時期、金銭的にはカツカツだった。
だけど、もうすぐ推しが帰国してしまうことを考えると、一回でも多くSHOWBOXに行きたかった。
そんな個人的事情はどうでもいいけど。
その日は、推しのソロステージの日だった。
そういう日はやはり推しのファンの人数がいつもより多い。
推しの立ち位置がステージの右側だったから、右サイドは推しのファンが多かった。
私は左サイドの後方へ座った。
特に理由があって左サイドに座ったわけではなく、左が空いていたから座っただけなのだが、無意識に同担さんたちが集まるエリアを避けていたのかもしれない。
開演時間になっても周りに座る人がいなくて、少し居心地が悪かった。
ステージから見ると周りにハブられているように見えないだろうかと、馬鹿げた心配が頭をよぎる。
この狭い世界では、アイドルたちはファン同士の人間関係に敏感だ。
誰と誰が仲が良いとか悪いとか、うっかり地雷を踏まないように気をつけているのだ。
"友達"を利用してファンサービスをしてもらう策を練るヲタクは多かった。
チェキの代行を頼んでメッセージを伝言してもらうのは定番で、アレコレと特別な言葉を引き出そうと画策していた。
しかしヲタクたちは頻繁に"友達"を入れ替える。
アイドルたちは、ファンサービスのつもりで"友達"の話を出してうっかり地雷を踏んでしまうことがあるから、ヲタクの交友関係は注意深く観察していた。
仲違いをすればどちらかが来なくなるかと思いきや、ヲタクたちは友達を入れ替えながら同じ現場に居続ける。気まずくないのだろうかと私は不思議に思っていたけれど、それすらもSHOWBOXヲタクたちは楽しんでいたのかもしれない。
公演が始まり、私はいつもより控えめに声援を送る。周りから浮いて見えるのが嫌だったから。
推しがたくさん目線をくれて幸せだった。
公演の中盤、メンバーたちが客席に降りてくる曲がある。推しは右サイドの通路を歩くから、こちらには来ないのはわかっている。
メンバーたちが左右の通路に分かれ、後ろの席まで練り歩く。
私は左サイドを歩くメンバーを見ながらペンライトを振る。
1番後ろまで歩いてから全員ステージに戻って、一列になって歌うのがいつもの流れだった。
ステージへ戻る途中、いつも陽気なメンバーKが私の前で立ち止まり、見つめながら歌ってくれた。
そして私の隣の席に座り、ステージで一列に並ぶメンバーたちに向かって手を振っていた。
私の周りには誰も座っていなかったから、Kと2人で並んで座るのは目立ってしまって恥ずかしかった。
だけど彼はいつもみんなを笑わせてくれるお笑い担当メンバーだから、そんなおふざけも楽しかった。
Kはメンバーの中でも特にヲタクの友達関係に敏感だった。
1人で来ているヲタクがいると、別のヲタクに「あの子と友達になってあげて」と頼むこともあった。
だから私が一人でポツンと座っていたことを、ステージから見て気にしてくれたのかもしれない。
公演後の特典会。
サインをもらったらすぐに帰ろうと思って、私は後ろの端の席に1人で座り、1人で列に並んだ。
Kはいつも私を笑わせてくれるけど、この日はいつもより特別に笑わせてくれた。
気を使ってくれているような気がした。
推しとのチェキは、いつも通り隣に立ってピースサイン。私は変わり映えのないポーズ。
推しは私の後ろに立ってグフフと笑いながら撮っていた。
何をしていたのかわからないけど、推しがご機嫌で嬉しかった。
撮ったチェキを見ると、推しは私と同じくらいの顔の高さになるように膝を曲げて子供みたいな笑顔で写っていた。
サインの時に、なんで小さくなったの?と訊いたら、「僕は子供だから」と笑っていた。
少し前に、私が推しに『あまり筋肉つけないでね』と言った時に「大丈夫、僕はまだ赤ちゃんです」と言っていたから、それで子供みたいなポーズにしてくれたような気がする。
推しは記憶力がとても良くて、話した内容に応じたファンサービスをしてくれることがよくあった。
それに気づいた時の嬉しさは格別だった。
推しがサインを書き終わるのを待って、私はこう切り出した。
「今日、推しくんのソロだと思ったから聴きにきたよ」
推しは『今日は、、ハンスム(溜め息)を歌ったけど…ど、ど、ど、どうだった??』と恐る恐る感想を尋ねた。
「とても素敵だった!ハンスム歌うの久しぶりだね」
そう感想を伝えると、ホッとしたように笑った。
それから推しは、躊躇いがちにこう質問した。
私は、言い終わる前に答えた。
「うん、Hのファンミーティングに行ったよ!」
やっぱりな、という顔で笑う推し。
「昨日の公演は、推し君と2推し君が2人でデュエットしたんでしょ?聞きたかったなぁ。残念」
友人から前日の公演の話を聞いていたから、推しと2推しのデュエットを見ることが出来ず残念な気持ちを伝えた。(でもそのステージで推しは盛大に音を外してしまい失敗していたそうだ)
私は「また歌ってね」と伝えた。
それから推しは私の手を握ると
と言って笑った。
不意にそう言われるとどう反応していいかわからずドキドキしてしまう。
推しはそれを楽しんでいるような気がする。
去り際に推しは『ハルさん、寒いから上に何か着て』と言った。
首元が開いた服を着ると、推しはそう言うことが多かった。
「寒くないよ」と反論してみる。
推しは少し怒ったフリをしながら、そう言った。
ただそれだけのやり取りなのに、ドキドキしてしまうのはなぜだろう。
「うん、わかった。じゃあまたね」そう言って私は立ち上がった。
サイン会は続いていたが私は早く帰らなければいけなかった。帰り支度をして知り合いのヲタクに挨拶をして部屋を出た。
部屋を出るときに振り向くと推しと目が合ったから、笑ってバイバイと手を振った。
だけど推しの反応は少し微妙な表情で、正直落ち込んでしまった。
私はどんな反応を期待していたのか。
ただ笑って手を振ってほしかった。
振り返らなければ良かったな、と帰り道をトボトボと駅に向かった。
自分の期待した反応と違ったとき、勝手に落ち込む自分が本当に嫌だった。一回り以上も年下のアイドルに熱を上げている自分が滑稽だ。
だけど今は、そんな日々があまりにも懐かしく愛おしい。
推しの言葉や仕草1つに一喜一憂していた時間が、痛々しいほどに幸せだったと気づいた。
推しは日本でアイドル活動していた経験を今はどう思っているだろう。
消したい過去だと思っているかもしれないけど、私はとても幸せだった。幸せで、泣きたくなる。
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