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推しの親友⑥終 2024.08.07

その後、Wたちの公演へ2回ほど行った。

ライブは楽しかったけれど、急に虚しさを感じて通うことをやめた。

最終公演の日、モヤモヤと悩んだが結局私は行かなかった。
母の体調が悪かったこともあるが、それでも無理をすれば何とか行くことは出来た。
だけど、もうこの辺でやめておこうと、後ろ髪を引かれる気持ちに区切りをつけた。

メンバー達がごく一部の常連に向ける目線やレスは、それほど気にならなかった。
それだけお金と時間を使ってくれる太客に対するサービスは、当然の対価だと思う。
あまりにもあからさまな時は、若干興醒めしたけれど、、、

私の気持ちが冷めたのはそういうことではなく、常連客とメンバーたちが馴れ合いになっている雰囲気に急激に冷めてしまったのだ。

常連客と並んで話しながらフライヤーを配り歩いたり、ライブ中に常連客の言葉にいちいち反応したり、内輪ノリの、一部の常連にしかわからないネタで盛り上がる雰囲気が嫌になってしまった。

推したちのグループは、その辺はきちんとしていたから、PR中にファンと話すことは無かったし、ファン達もメンバーに馴れ馴れしく声を掛けることは無かった。
ライブ中も極力、メンバーは常連たちの声に反応しないようにしているようだった。
ファンとアイドルの間に明確な線引きをしていた。

PRの時にメンバーの横に張りついて話しかける行為は、グループによっては禁止されていたが、W達のグループは「ファンとの触れ合いを大切にしたい」と運営側が許可していた。

推し達のグループに比べたら、ファンの数は三分の一あるいはそれ以下という状況だから、少ないファンを大切にしようという方針は理解出来る。

だけとそれでも、ファンとの距離感に一定の線引きをして欲しかった。

私はアイドルと友達になりたいわけじゃない。
内輪受けのライブを見たいわけじゃない。

Wたちは、少ない常連客を繋ぎ止めようと一生懸命やっていたと思うけど、その努力する方向性が私が求めるアイドルとは違っていたというだけ。

だからもうこの辺で区切りをつけよう。
そう思って、私はWからフェイドアウトした。

最終公演の数日後、友人からLINEが届いた。

Wから、最終日の前日に私が来るかどうか訊かれたと教えてくれた。

もし最終日の前にその話を聞いていたら、私はどうしていただろう。
Wを応援したい気持ちが冷めたわけではない。
あの場所の雰囲気が嫌になっただけ。

Wに、インスタでDMを送ってみようか、、?

一瞬そんな考えが浮かんだ。
WはDMに返信はしないが中身は読んでいるという話を聞いたことがある。

でも、そんな言い訳をWに説明してもどうにかなるわけではない。むしろ迷惑だろう。
ただ私という1人の客が来なくなっただけのこと。

Wに対する罪悪感を感じつつも、もう引きずるのはやめようと自分に言い聞かせた。

私は、推しの隣で歌うWが好きだった。
もう推しはWの隣にいない。
隣にいるのは、推しの親友Kなのだから。


それから4ヶ月後。
Wたちのグループは解散した。

帰国した後、もう一度日本でライブをしたいとSNSを投稿していたが、運営側と折り合いがつかず活動を続けていくことが出来なかったらしい。

Wはいま、毎日のようにTikTokで生配信をしている。
私は一度もその配信を見ていない。

友人から聞いた話では、ギフトと呼ばれる投げ銭が飛び交い、配信のランキングも上がっているそうだ。

たぶんこの先も、私は配信を見ないだろう。

新大久保の小さなライブハウスで、推しとともに歌うWが好きだったから。
キラキラと輝いていたあの頃のWを、覚えていたいから。

私の記憶の中の大切な場所に、しまっておこう。


-END-

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