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素直になれないヲタクが少しだけ勇気を出してみた結果④ 2022/10/02
〜2021年に解散した韓国のアイドルグループの推しの思い出を綴るnote〜
友人と2人で打ち上げをしようとホテル近くのバーへ入った。
友人は、今日の推し君はとても可愛くて面白かったですねと何度も言っていて、私も同じ気持ちだった。
しばらくして、スマホにLINEの通知が来た。確認すると知り合いのヲタクからだった。私が大阪に来ていることは知らないと思う。
ちなみに、彼女は別のメンバーのファンだ。
LINEには、推しが大阪生活のストレスのせいで肌荒れが酷く、精神的に大変そうだと書いてあった。大阪公演を見に行った彼女の友人から聞いたそうだ。
私は、『実はいま大阪に来ていて今日の推しはとてもはしゃいで面白かった、推しは大阪で楽しそうだ』と返信した。
すると彼女から、『推しは無理をしてはしゃいでるようだと、友達が言っていましたよ』と返信がきた。
その友達というのは、恐らく彼女と仲良しの同担さんのことだと思う。私も何度か会ったことがある。
感じ方は人それぞれだし、その日によって推しのモチベーションも違うかもしれないけど、彼女が行った日の推しは、無理にはしゃいでいるように見えたそうだ。
私が見た推しは、心の底から公演を楽しんでいるように見えた。無理をしているようには見えなかった。
楽しかった気持ちに水を差されたような気分になって、私は少し気持ちが暗くなった。
私が見た推しは、本当は無理をしていたのだろうか。私が気づかなかっただけだろうか…と。
隣に座る友人にそのことを話すと、「そんなことは無い。確かに推しくんは楽しそうに見えた」と断言した。
「ハルさんは人の意見に影響を受けやすいタイプだから、自分の目で見たことを信じて」と諭され、我に帰った。
私は他人のマイナスの感情に引き摺られるタイプなのだ。
「今日のライブは本当に楽しかったし、特典会でハルさんと話してる時の推しくんは、子供みたいにはしゃいで、とても嬉しそうでしたよ。」
友人は笑ってそう言ってくれた。
自分の目で見たこと、感じたことだけを信じよう。
友人からの助言を、胸に刻んだ。
ホテルに着き、シャワーを浴びてすぐに眠りについた。
翌朝、始発の空港行きバスに乗るため睡眠時間は3時間。早朝の飛行機で東京へ戻り、そのまま会社へ出勤した。
体力的にはキツかったけれど、推しの楽しそうな姿や、嬉しそうな笑顔を見ることが出来て充実した大阪遠征だった。
2日後。
ようやく落ち着いて、写真のデータを整理する時間がとれた。
写真の出来は…全く期待していなかった。
コリアタウンでは推しの写真はほとんど撮れなかったし、特典会後のお見送りは逆光で使い物にならないだろうから。。
写真をチェックし始めて、私はスクロールする手が止まった。
恥ずかしさとプライドが邪魔をして、推しのそばで写真を撮ることが出来なかったコリアタウン。
2推しの写真を撮りながらも、本命の推しのことが気になってピントが合わない写真ばかりだった。
自分の気持ちの迷いがはっきりと表れていた。
その2推しを写した写真の奥には、まるで子供みたいにチラチラとカメラを見る推しが写っていた。
あの時、推しはあの場にいた新規の可愛いファンのカメラに向かってポーズでも撮っているのだろうな、、と勝手に落ち込んでいたけれど、推しは他のメンバーの陰からおどけるように私のカメラを見ていたのだ。
無邪気で嬉しそうな笑顔。
連写モードで撮り続けた写真には、横目でカメラを見て、フフフっと笑う推し。くるくると表情が変わって可愛い推しが、たくさん写っていた。私はあの時、全く気付かなかった。
こんなにカメラを見てくれていたなんて。
あの新規のファンの子がキャッキャと楽しそうな声を上げて写真を撮っていたから、てっきりその子のカメラにポーズでもとっているのだろうと思っていた。
素直に推しのそばで写真を撮れば良かったな、と後悔しながらも、イタズラっ子のような表情の推しが可愛くて愛おしかった。
これは、私しか知らない推しの顔だ。
全く期待していなかったコリアタウンの写真が、どれもこれも可愛い推しで溢れていた。
だけどこの写真はSNSでは上げない方が良いだろうと思った。同担が見たら、不快な気分になりそうな気がしたから。
私は敵を作りたくなかった。
上げても問題無さそうな数枚をピックアップして、アプリで補正をしてからTwitterに投稿した。
すると、それを見た友人がカカオトークで感想を送ってくれた。
「推しくんの写真、とても良い表情ですね!」
滅多に写真の感想など送ってこない友人が、そんな嬉しい感想を言ってくれた。
ぎこちない営業スマイルではない、リラックスして楽しんでいる推しの表情。
特典会の後のお見送りの時に撮った写真は、案の定どれも逆光で推しの顔は真っ暗だった。
せっかく目の前に来てくれたのに、SNSに投稿出来るような写真が撮れなくて申し訳ないな…と落ち込む。
アプリで補正すれば、少しはマシになるだろうかと淡い期待をしてデータを取り込んでみた。
めいっぱい明るくして、コントラストを下げてみる。すると徐々に、その表情が見えるようになった。
写真のなかの推しは…とても優しい表情でカメラを真っ直ぐに見ていた。
胸の奥がツンとなる。
こんな表情が撮れたのは、初めてだった。
他の写真もアプリに取り込んで補正してみたが、どれもこれも穏やかな笑顔でカメラを見つめていた。
これは、決して無理をしてる顔じゃない。2年近く推しの写真を撮り続けてきた私にはわかる。
こんな優しい笑顔は見たことがなかった。
Twitterに上げるかどうか迷ったけれど、アプリで補正してもSNSに投稿出来るレベルの写真には仕上がりそうになかったから、この写真は自分の胸にしまっておくことにした。
今でもこの時の写真を見ると、あの日の最後の笑顔を思い出す。逆光の酷さに撮影を諦めて、カメラを下ろして推しを真正面から見つめた時、推しは一瞬驚いた顔をした後にとびきりの笑顔を見せてくれた。
私はいつも、写真を言い訳にして推しを直視することを避けていた。
推しが自分のことを全く見てくれなかったら…そんな風に考えていた。傷つきたくなかった。
臆病でプライドが高い私が、あの時は素直に推しと向き合えた気がする。カメラを下ろすことは、私にはとても勇気がいることなのだ。
私がそんな風に思っていたことなど推しは知るはずはないけれど、その勇気に推しは最高の笑顔で応えてくれた。
幸せなご褒美をもらった気分だ。
もう遅いかもしれないけど、これからはもう少し勇気を出して、素直な気持ちを伝えたいと思った。
もっと早く素直になる勇気を出せば良かったな、と今となっては少しの後悔が胸に滲む。
この時は、これが最後の大阪遠征になるなんて思っていなかった。幸せな記憶と共に少し、ほろ苦い後悔。。。
終。