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『Chime』


※ネタバレしています

 2024/09/25@桜坂劇場

 黒沢清監督がメディア配信プラットフォーム「Roadstead」で先行配信を行った、ランタイムも45分とかなり特殊な出自の映画。おそらく黒沢清でしか難しい企画だろう。

 さて、吉岡睦雄演じる松岡は料理教室の講師をしているのだけれども、まず黒沢清作品で今まで食事って出てきたっけと思った。もしかすると『旅のおわり世界のはじまり』(2019)に出てきていたのかもしれないし、この映画にも2箇所ほど吉岡がものを口にするシーンはあるのだけれど、まったく印象に残らない。そもそも黒沢清作品において、食、セックス、音楽といった、生命力や生活の彩りを意味するものの役割は薄いように感じる。
 また、伝播というのもよく出てくる。『CURE』(1997)ではある程度明確に描いていた伝播の瞬間がここでは省略される。後半に出てくるレストランのシーンなど顕著。そして、伝播は電波でもあり、思想なりなんなりが映されることは、中身の変化を伴うという点、おそろしい。
 さて、料理の話に戻ると、料理というのは、生きていたものを死んでいたものに変えて、加工して、生命力のもとにするといった点で、かなり奇妙なものだし、それを人に教える、つまり伝播させる職業というのもかなり奇妙だ。中盤に起こるあるショックシーンについて、自分は「死」の本質に触れた者を、すでに「死」の側になった吉岡が案内したような、そういった構図なのかなと思ったのね。
 また、3度繰り返される吉岡の家族について。明らかに時系列的な違和感がある空き缶の扱いから、本当なのかという疑念はどうしても湧く。黒沢清はいわゆる妄想シーンを描く人だっけとは思った(実際には『トウキョウソナタ』など何例かあったはず)が、なんとなくこの映画に関しては、効果音に思えるもの含めて、すべて現実にあったことと捉えられそうな気がする。
 結局、吉岡(と連れて行った生徒)が何を見たのか、も、家族に何があったのか、もわからない。印象的なショットは、微妙にズレて置かれる(橋を疾走するショットは物語上不要だし、椅子のショットも解決たりえない)。ラストに明確な恐怖音楽鳴らすところ、二度目観た時はむしろ家が怖かった。これだけ色々あって、家も実在していて、この人物も「松岡」であると、妄想に逃げさせてくれないあたりが。ショット数108前後。

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