『もり・のおと』記録②仕込み・作曲メモ
演奏家の皆さんは5日に現場入りでしたが、私は3日に北海道へ旅立ちました。会場は札幌芸術の森。
ピアノはスタンウェイとベーゼンドルファーが選べたのですが、成したい音楽により相応しく思えたベーゼンドルファーに。
美術、照明が同時進行で決められていきます。
ライブハウスの規模で「現場で作ろ〜、その場の感覚で決めよ〜」は体験ありましたが、この規模で!最終形を想定しすぎず、皆が現場で影響しあいながら創作していく……というのが、私にとっては驚きでした。全員がお互いを尊重しあい、「必ず良きものにする・なる」という信念をお持ちで、軽やかに意見を言い、軽やかに動かれるのです。
当日は具体的にお話し伺う暇はありませんでしたが、後日プロデューサー梶野さんとお話ししたとき、「鬼太鼓座みたいなやり方でやりたかった」とおっしゃいました。舞台監督の渡部さん、照明の高橋さんは(世界に名だたる!)和太鼓集団『鬼太鼓座』の公演でいつもご一緒する方々なのだそうです。
少しずつ、有機的とも言える見え方で全貌が組み上げられていき、この日に各楽器の位置も決め……。翌4日はお休みをいただきました。
明けて5日。演奏家の皆様が現場へ入られました。国内外でご活躍の面々が一堂に会せたのはコロナ渦であることも理由の一つでしょう。
さて。3時間で『もりびらき』『もりおくり』の2曲のリハーサルをせねばなりません。その点も作曲の重要な材料でした。
【材料】
・ピアノ(私) + 13人の邦楽器演奏家
・15〜20分の楽曲を2曲
・リハーサル時間は双方合わせて3時間
・楽器の配置(ピアノを他楽器が取り囲む)
・札幌芸術の森、という場
・『森開き』『森送り』という言葉
具体的な制約と顕現させたい概念、双方を成立させるには「一個一個の音符を書いて作りこんだ音楽を演奏する、それでは無理だ」と思われました。普段、別々の場所で活動している演奏家たちが集い、ここにいま音楽が発生している……その様をそのまま見せよう。そう思想を固め、書き始めました。
■『もりびらき』(1日目夜に演奏)
人が移動した結果として音が重なり、全員参加した時点で「皆で音のうねりを作り出す」としたく思いました。演奏家には、短いリハーサル後の本番で「楽譜を見ることに集中」するのではなく「音楽をする」ことに集中していただきたかったので、楽譜上の指示は最低限の道のりだけが書いてあり、それを共有します。
■『もりおくり』(2日目夜に演奏)
2日間、演奏家お一人お一人がご自分の音楽を存分に披露され、お客様と時間を共に過ごし、そして会を閉じていく時間……。各々が各々の得意な、一番光り輝くものを最初に提示する。そしてお互い影響しないかのように行われていたものが、少しずつ絡み合い、時間と空間を共有していく……。その2日間の様子を20分に凝縮して表わそうと試みました。
こちら『もりおくり』は『もりびらき』よりもほんの少しだけ、具体的な音が多めに書いてあります。それは、私の願望の表れです。曖昧にではなく具体的に、高らかに宣言したい。異なるもの同士は単に共存できるだけでなく、共に高め合うことができるのだと。
偶然性を作中に取り入れ、そこから変容して統制のとれた動きをとり、皆で一匹の龍……一陣の風……となるような……作品を短時間のリハーサルで(2曲も!)成し得たのは、演奏家の皆様が「ん、まあ、やってみよ!」と飛び込んでくださったからです。肝のすわった軽やかな魂の皆様お一人お一人に、深く感謝いたします。そして彼らを選んだプロデューサーにも。
皆様が真摯に取り組んでくださったリハーサル時の空気が伝わるお写真をいくつか。
(撮影:原田直樹)
■『もりびらき』『もりおくり』初演記録
委嘱:音の博覧会『もり・のおと』
作曲:大塚 茜
初演日:2022年4月5日/4月6日
会場:札幌芸術の森アートホール アリーナ
演奏
篠笛:山田路子
尺八:岩田卓也、原郷界山、元永拓
箏:喜羽美帆、山野安珠美/十七絃:市川慎
琵琶:藤高理恵子
細棹三味線:こうの紫
津軽三味線:白藤ひかり、武田佳泉、忍弥
太鼓:金刺敬大
Piano:大塚 茜
プロデュース・音響プランニング:梶野泰範
音響オペレーター:風上哲也
美術:藤戸康平
照明:高橋正和
演出:佐々木賢
舞台監督:渡部淳一
『もりのおと』記録③へ続きます。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?