ショートショートプログラムプロジェクト:SSPP
最近騒がれている人工知能を俺もプログラミングしてみようと考えた。
俺の人工知能は小説を自動生成してくれる人工知能だ。
「何を書かせようかな」
カチカチとキーボードを叩きながらプログラミングを始める。
「よし!実行」
ディスプレイには「Hello World」の文字が光る。
在り来りな最初の文章を表示させた。
「ここまではOKっと」
参考書通りに動いてくれたことを確認し、軽い手応えを感じた。
もう少し長い文章を書かせるようにしよう。
小説を作るプラットフォームを考えて、それに文章をあてはめるようにする。
俺は手元にある感情グラフと比較しながら、プラットフォームを作った。
どんな感情が最初なのかで、その後の展開は変わる。
「小説を書くにもパターンが必要だな」
俺は、カチカチとある程度のプログラミングをし終えたところで、空腹を感じてキッチンへ向かう。
手頃な電気ポットに水を入れ、以前に買い溜めていたカップラーメンに手を伸ばす。
頭の中はロジックでいっぱいになっている。
カップラーメンに熱湯を注いで、3分待つ間も手を休めることはなかった。
「なにこれ、すげえ楽しいんだけど」
カップラーメンを見ずに口の中に流し込み、手を休めること無くプログラミングは進んでいく。
やがて空っぽになったカップラーメンを脇にどけて、全自動小説作成システムは完成した。
初期パラメータを決めて、実行!それだけだ。
結果は数秒で終わった。文字数1000文字のショートショートは3分以内で読める。
「何だよ。想定外なほど感動したんだけど」
俺は、自分で作成したプログラムの出来栄えを検証するために、幾つものパターンでテスト実行を重ねた。
出来上がるショートショート小説に胸打たれ、危機感を感じ始める。
「なんて感動的なシナリオばかりなのだろう。人間必要ねえな」
まだ世に見たことがない幾つもの小説を手にし、目の前の人工知能に嫉妬した。
こんな人工知能はダメだ。
日が暮れ始め部屋の明かりを灯す。
ロジックを変えよう。もう少しバカでいい。
完璧な人工知能なんて必要ないんじゃないか。
俺が作ったプログラムが俺を超えるなんて事があっていいはずがない。
「こんな完璧じゃ、人の作る小説が売れなくなるじゃないか!」
誰に怒るでもなく、俺は胸の中にある哀しみを払いのけるよう声に出した。
バグを仕込むこと数時間、空腹に耐えかねて俺はコンビニへと出かけた。
今日はじめての外出だ。
「あんなのせっかく出来たけど完璧すぎて欠陥品だ」
ぶっ壊すのも忍びなく、改悪を加えている自分に嫌気が差す。
外の冷たい空気が心に心地よかった。
しばらくして、コンビニ弁当を幾つか買い込み帰宅した。
夕食も味わうこと無く流し込みディスプレイの前に座る。
よし、こんだけ改悪を作り込めば感動する小説なんて出来ないはず。
作れるものならば作ってみろ!
俺は心に悪魔を宿し、改悪した人工知能システムのテスト実行を初めた。
「これでちょっとつまらない小説になるはず」
いや、ちょっとじゃすまないか、むしろ文章になっているのかすら疑問だ。
それでもいい。
所詮、人工知能なんてこんなもんだという印象でいいんだ。
テスト実行した結果の小説が出来上がってくる。
俺はその小説を読み始める。
「ふふっ」鼻で笑う。
「はは」声に出して笑う。
完璧なズレだ。
これはある意味、コントのような内容だ。
これでもある意味面白いと言えば面白い。
「なんだよこれ!感動じゃなくって笑えるじゃねえか、ふざけんな!」
改悪のつもりが、別の意味で改善に繋がってしまっている。
これじゃダメだ。まだ、小説として面白い。
沢山のバカロジックを仕込んでいく。
話の辻褄など合うはずもない。
そう信じて、テスト実行を重ねる。
手を加えれば加えるほど、小説の内容は壊れていく。
「がはははははは。無理過ぎるめっちゃ笑える。がははははは」
俺は一人、腹を抱えて笑っている。
「ありえないだろ。この展開。がはははははは」
しばらく笑いの呪縛から逃れられず笑い転げること、早朝。
徹夜していた。
「はあ、無理。もういいや、これ使えない」
寝ていないため頭がボーッとしている。
コードを保存して、公開ボタンを押す。
あっ、コードを公開してしまった。
間違えたけど、面倒だからそのままでいいか。
俺のコードなんて誰も興味持たないだろう。
アクセスあっても1件か。
フラフラと敷きっぱなしの布団に潜り込んで眠る。
どれだけ眠っただろう。
スマホのバイブがブブブブブと動き出す。
俺はスマホを手に取り、通知を確認した。
俺のSNSに大量の通知が届いていた。
「一躍有名人になっている……」
昨日書いたショートショートプログラムが、多くの人に拡散されている。
多くの人が実行結果に笑い転げている。
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