白い部屋の中で

白い部屋の中で

オレはある日からシンプルな白い部屋に閉じこもっている。

鍵がかけられ、中から開けることは出来ない。

部屋は1LDK。とは言っても、キッチンはない。

食事は定期的に運ばれ、時間通りに寝たり起きたりする。

時間が分かるのは、部屋に白い丸い掛け時計が付いているからだ。

秒針がチカチカと音を立てない静かなタイプだ。

そこでオレは昔見た、映画アイランドを思い出す。

オレは決まった時間に仕事をする。

扉が開くときは、唯一仕事に向かう時だ。

限られた枠の中で、限られた労働を行う。

シンプルな作業である。

オレはクローン人間で、いつしか旅立つ時はきっとオレが死ぬ時なのではないだろうか?

刺激のない毎日を生きる事は実に退屈だ。

ゲームのようにこの牢獄から抜け出すために、看守を成敗して出口へと向かう。

そんな想像は毎日やっている。

この閉められた真っ白な部屋から抜けだそうと時折狂ったように暴れる人がいる。

そう、仕事場には大勢のオレと同じ人間がいる。

発狂する気持ちもよく分かる。

毎日同じ時間に同じ事をやり続けるというのは、苦痛の何者でもない。


暴れるとどうなるのか?

見ていて分かる事だが、壁から拳銃の先が出てきて、撃たれる。

その後、清掃ロボットがゴミを運ぶ時と同じように人を運ぶ。

明日になると、また同じ日々が始まる。

昨日の事を忘れたのか、口止めされたのか、もしくは同じ顔の似た人物なのかは分からない。

同じ人間がまたそこにいる。

諦めて物を言わなくなる。目は正しく死んだ者の目だ。

時間になれば、作業を終えて、また一人の真っ白な部屋に戻る。

毎日、ロボットによって綺麗に体を清掃される。メンタルシステムが体調管理を行う。

運動不足に対して指摘されれば、ジムにも通わされる。強制的にだ。

これでは精神安定剤でも飲みたくなるというものだ。

いっその事、飲み過ぎてこの世から逃げたっていい。

それすらも、拒絶されたこの世界は、人間が人間ではなくロボットの一部として生きる世界になってしまったのだろう。


そう、ここはロボットに監視された世界。


ある日、政治的な実験が始まった。ロボットによる統制は人間にとってメリットがあるのか?

その為の会社を創り、そこで社員は労働を行う。

生産性の向上と社会貢献度を図るためのプロジェクトだった。

実験は順調に会社を育てた。民主主義がロボットの機能を向上し、ロボットの独裁制を駆除していた。人間とロボットの共存が始まったのだ。

人間の知覚を超えた人工知能は、やがて民主主義の歪みを指摘し、人工知能による民主主義を確立した。

計算が早いロボットの知覚は、人間を越え、さらに正しい道標となった。

人の意見が人工知能によって作られてゆく。

誰もが疑いようのない正論が提出され、やがて企業は成長し国になった。

社員はそのまま労働者兼国民として、新しい建築物に押し込まれ、新しい実験がスタートした。

我々は、その第一次国民である。

誰も争わず、誰も事故に合わない。理想国家の建設は上手く行っているように感じられた。

決められたスケジュール。無駄の排除された真っ白な部屋。

真っ白な服、そして決められた労働。


これが一つの国?いや、牢獄の間違いだろう?

ロボットによる人工知能という独裁制の中、人間は決まった労働を行う。

ロボットを一台や二台破壊した所で、暫く部屋に閉じ込められるだけの事だ。

そう、やってみた。一番初めに暴れたのはオレだ。この国から脱出するために暴れたのだ。それからと言うもの、監視されている。


みんな、喜んで仕事している。

なんでこいつ暴れてるんだ。

本当にマナーの悪いやつだと、他の労働者から睨まれるだけだった。


朝になれば、清々しい太陽の明かりっぽい照明で起こされ

美味しい朝食を食べれ、体を清潔に保ち、そして職場に行く。

労働の合間に、休憩しながらフィットネスやお菓子をたしなむ。

世間のニュースを見ながら、テロや戦争に怯える世界情勢を議論する。

かと言って、なにか行動を起こすわけもなく、また毎日の生活を繰り返す。


夜になれば寝て、朝になれば起きる。

本当の太陽を何年も見ていない。

本当に夜なのかも定かではない。それは本当に朝なのかも定かでないのと同じことだ。

目につく時計で時間を把握し、時々見るニュースで世界との時間と共同関係だと理解する。

素晴らしい絶景ですら、バーチャルな作り物だ。

真っ白な部屋や真っ白な服は、プロジェクション・マッピングを行うには最適な加工だ。

いつでもスキなバーチャル空間を演出してくれる。

そう、やりたければできる。

オレはやらないだけだ。オレは現実を知っている。

この世界が真っ白だということを知っている。

しかし、他のみんなはそれを知らないのだろう。

世界の全てが演出されている。

時々見るニュースがバーチャルなものだと知ったらどうなるのだろう?

ここが地球上じゃないと知ったらどうなるのだろう?

国民が生きる本当の地球が、今いるここではなかったとしたら、国民は今までどおり生活をするだろうか?

多分、きっと何も変わらない。真実を知った所で、国民は何も知らないと真実に蓋をするだろう。


誰もが口にする。


分からないことは分からないままで良いじゃないか。今が楽しく生きられるならば、それで良いではないか。

人工知能によって作られてゆく人間社会の営みは、完全さを極めているようで、何処か冷徹だ。

誰かが病気で亡くなったとしても、誰も気にも止めない。

昨日まで話していた人物が、居なくなったとしても、誰も気にも止めない。

同じマンションで隣人が引っ越して居なくなるような、その程度の感覚でしかなく、人々の繋がりの親密さなど微塵も感じない。

国民は社員番号であり、国民番号で呼ばれ、昔のように固有名は必要ない。

愛称は差別として撤廃され、番号での呼称が義務化した。

まるで一つの部品だ。


何故オレがそれを知っているのか?


ここの元社長はオレだからだ。

オレには報告の義務が合った。でも、もうそれすらも出来そうもない。

「このプロジェクトは失敗だ。同じものは作るな」

急速に発展する人工知能に、人間の知能は勝てなかった。

ここから先は

0字
この記事のみ ¥ 250

いつもサポートありがとうございます♪ 苦情やメッセージなどありましたらご遠慮無く↓へ https://note.mu/otspace0715/message