第6章 キャンサーの章
スピカ一行が、タイル率いる鳥の軍勢とニアミスで南東に到着した頃、アルキバもまた南東に到着していた。
スピカ一行が鳥の大群に襲われなかったのは、その時点でメリクがジュニアの手にかかり、消息不明の状態にあったためである。
アルキバ「おいおい。凄い御一行様見つけちゃったよ。みんな運命の石の持ち主じゃないか。こんな時に、メリクさんは何処に行っちゃったのかな?まあ、俺の知ったこっちゃないけどね。カカカカカ」
大ガラスのアルキバは、メリクの力を失った後も、知能が衰えることがなく、鳥達の統制が取れなくなったことをいいことに、自由を満喫していた。
小さな南東の町は、大ガラスのアルキバ達によって食物は荒らされ、時々人間までも襲われる状態となっていた。
町の住民は、鳥達に怯え外には出てこず、皆家の中に閉じこもっている状態で、町中を歩いている人は一人もいなかった。
鳥達が一斉に蜘蛛の子を散らすように解散したことを、町の住民はまだ知らなかった。
スピカ一行が、この地域に足を踏み入れた時に見た惨劇は、尋常ではなかった事は確かだ。
近くの家の扉を一軒一軒訪ね歩いても、誰も応じる気配がしない。
スピカ一行は、スピカを先頭に、その後ろをカシミール、レグリー。次いで後ろにキッド、プレアがついて来る形で歩いていた。
レグリー「ああ、もう。どうなっちゃったの?この町は。何が起きたの?」
プレア「レグリー、休憩したいなあ。キッドも休憩したいよね?」
プレアは、レグリーの服をひっぱりながら隣のキッドを見る。
キッド「あっ、う、うん。そろそろ休憩だよね」
キッドは、カシミールを軽く覗き込みながら様子を伺った。
カシミール「そうは言ってもね。この状況じゃねえ。スピカさん、この近くにお知り合いの方はいらっしゃらないの?」
カシミールは、前を歩くスピカの背中に問いかけた。
スピカ「あ~、今向かっているところだ。もうすぐ彼の家だよ。でも、この状況、一体何があったってんだ」
軽く振り向きはしたものの、この状況を早く知りたいという気持ちからみんなよりも少し早足になっておりジリジリと距離が離れていた。
レグリー「私に任せて、ちょっと周辺を調べさせるわ」
スピカ「調べさせる?誰にだい?」
スピカはレグリーの言葉を少し気にし、振り向き歩みを止める。
プレア「それは駄目よ。レグリー」
プレアは、レグリーの服の端を持ったまま、また軽く引っ張った。
カシミール「えっ、まさか。そんなにちょいちょい使わないで頂戴。いつも隠してって言ってるでしょ」
一行の歩みは止まった。
レグリー「何よ。こんな時こそ、これを使わないでどうするの?」
レグリーは手のひらに石を持っていた。それはレオの刻印が刻まれた運命の石。
さあ、こんな時だからこそ、役に立って頂戴。私の精霊。行ってきて。
プレア「レグリー、この町を火事にしないでよ」
レグリー「大丈夫よ。たぶん・・」
そんな心配そうな顔で見なんで、プレア。
大丈夫よ。そんなに力は強くはないわ。
レグリー「さあ、スピカさんのお知り合いの家に行きましょ。そこで休憩ね」
スピカ「今の石は、運命の石ですね。あなたも精霊の力を使えるのですか。本当にあるんだなあ。これはきっと本当に12個の運命の石があるぞ」
レグリー「あら?あるわよ。他にも。他の石は秘密だけどね。運命の石は、普段持ち歩いていなくても、その人を生かし続けてくれるわ。他の石とパワーの源が違うみたいね」
スピカ「なんですって?そんな力があるのですか・・・知らなかった」
スピカは一人ブツブツとつぶやきながら先頭をまた歩き始めた。何かを思いつめて考え込んでいるようだ。一行は、スピカの後を追いかけた。
プレア「レグリー。話しすぎ。石の力は、おおっぴらにしちゃダメって、先生だって言ってたよ」
プレアはレグリーと並び、小さな声で自分の母親を叱りつけた。
レグリー「あら?心配症ね。誰に似たのかしら?」
笑みを浮かべながらレグリーは、プレアの成長ぶりに少し喜びを感じながら頭を撫でている。
一行が歩み始めて、程なくしてスピカの知り合いの家に到着した。
コンコンコン。
スピカ「アルカス。アルカスはいるか?俺だ。スピカだ」
ガチャ
アルカス「見たかい。この町の状態を、ひどい有様だろう。まあ、お前さんの事だからもう知っているのだろうけど、大ガラスや鳥の大群が町に押し寄せてきてよ。大変だったんだ。なんとかしてくれねえか?」
スピカ「話は、お前の家の中で聞かせてくれ。玄関先で話しをする内容でもないだろう」
スピカは少し疲れきった面持ちで、中に入れてくれるよう強要した。
アルカス「おう。わりぃわりぃ。浮足立っちまってよ。中に入ってくれ?おや?結構、大勢でお越しになってくれたのか」
どうぞどうぞと、一行を手招きし全員が家の中に入ってから玄関の戸を閉めた。
スピカ「今回は町の状況を知ってから来たんじゃないんだよ。まあ、みんな寛いでくれ。アルカス、二人きりで別の部屋で話がしたい」
スピカは自分の家の中を招待するように一行を自由にさせた。アルカスを連れて別の部屋へと入っていった。
レグリー「あらやだ。ナイショ話かしら。私達だって事情が知りたいのに一人でこそこそとひどいわね」
近くの椅子に一番に腰掛け寛ぐ。
ふう、そろそろ頃合いかしら?帰っておいで、精霊。
カシミール「スピカさんも色々ご苦労があるのよ。きっと」
レグリー「そうね。きっと。さっき、送った精霊を戻すわ」
カシミール「何処まで遠くに送ったの?」
カシミールもレグリーの隣に腰掛けて座った。
その前にプレアとキッドが腰掛けた。
椅子は円形の机の周りを囲うように置かれており、2人がけの幅の広い椅子となっている。
レグリー「それはちょっとわからないわ。野放しにしちゃったから」
プレア「え~、大丈夫なの?もう、レグリーったら」
レグリー「大丈夫よ。私の精霊は大人しいの」
・・・
ギルタブ兵団が後退しながら、サンガス兵団と交わった時、事態は急転した。これまで激しく荒れていた精霊達が全て消えてしまったからだ。
まるで、途中で台風が温帯低気圧に変わったかのように姿をくらました。
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