魔女喰い モード2からモード1への総括全文章&特別編集
魔女喰い モード2
魔女喰い (プロローグ)
僕は宏美(ひろみ)。
そして僕は俺になった。
二十歳の冬。全てはここから始まっていたんだ。
臆病で人見知りの僕を、強気な俺に変えてくれた。
貴女(あなた)が僕の全てを奪って行った。
そして僕の全てを変えたんだ。
魔女である貴女を食べたあの夜。
全てが変わった。僕の中の何かが動き出した。
貴女の下僕となり、ヒモ男になり、楽することで自堕落な俺が生れた。
全てが自分の手の中でコントロール出来ているのだと錯覚して、いい気になっていた。
貴女に全てを奪われたあの時に、既にこうなることは決まっていたのかもしれない。
今でも分からない。俺が操っているのか、俺が操られているのか。
全ての魔女達よ。この世界から居なくなれ。
女性恐怖症。世間ではそう呼ぶのかもしれない。
魔女喰い (始まり)
この事件が起きてから2週間が過ぎ、今回で5人目の犠牲者だ。
若くて美しい女性がベッドに寝た状態で、両手は胸の前で合わさり横たわって死んでいた。
大きな外傷がなく、合わさった手の上にバラの花が一輪置かれていた。
自殺か他殺か事故死なのか誰もがわからなかった。
誰が名づけたか不明だがこの事件は「魔女喰い事件」と言う名目で内々に捜査が進んでいた。
ただ、明らかにわかっていることが一つだけあった。
この事件が発生した死亡推定時刻には、必ず同一人物が接触しているという事実である。
どの事件においても、マンションの防犯カメラからに一緒にマンションへ入っていく一人の人物がいる。
長髪のその女性は、死亡推定時刻が過ぎた後に一人でマンションから出て行くことを全ての防犯カメラで確認が取れていた。
その女性を重要参考人として人物の特定に急いでいるが、健闘むなしく特定することが出来ずにいた。
この事件はこれで終わりではないのだろう。これが始まりなのかもしれない……
魔女喰い(捜査中)
「魔女喰い事件」が最初に発生してから1ヶ月が過ぎ、新たな同一事件もないまま、捜査の進展もなく時間だけが無意味に過ぎていくように感じられた。
最初に亡くなっていた3人は、亡くなる直前に電話をしていたことがわかっていた。
そして、ようやくその電話の内容を入手することができた。
これにより、捜査も新たな進展が見られると思われた。
3人とも強張っていた顔でどこへ電話を掛けていたかというと、その当時付き合っていた彼氏への並々ならない苦情の電話だった。
聞くに耐え難きその発言にゾッとする思いがした。
あの美しい見た目からはわからない裏の顔を見た。そんな印象だ。性格と見た目は反比例するのだろうか?
見た目とも地味目な女性と一緒にいたのは、この女性なら暇でもしているだろうと呼び出したのだろうか?
ただ、わかることはこのような攻撃的な女性が自らの命を捧げるという「自殺」という行為はありえないだろうということ。
あの電話の内容では、相手の男性がいつ殺されてもおかしくない。そんな印象すら受け取れる。
彼氏いわく「彼女は攻撃的でいつもオレは彼女の尻に惹かれていた。ツンデレの典型で、とても甘え上手でオレにしてみたら彼女の方が魔女だ」
魔女喰い(新たな事件)
「魔女喰い事件」がメディアより流されて半月。新たな事件が発生した。
それは初めに起きた5人の事件を模倣した殺人事件だ。
どこがどのように違うかというと、まず殺害現場・・・
初めの5人は自室の自分のベッドに眠っているかのように亡くなっていたのにもかかわらず、今回の新たな事件は、公園のそれも人気のない夜に犯行が行われた。
首には明らかに手で首を絞められたであろう絞殺痕がくっきりと浮かんでいた。指の跡からわかるように殺人者は女性。おそらく、30代前半、身長は163cmから167cm。体重はおよそ60kgと言った感じだろう。
これだけ情報が揃っていれば、犯人はすぐに捕まえられる。
殺された女性の交友関係を洗い出し、犯人を突き止めることは容易い事だった。
また、他にも地味目の女性を狙った「魔女狩り」と称するイジメ事件が発生したり、模倣殺人が後を絶たず増え続けていた。
どの事件にしても被害者や加害者は女性だった。
男たちは改めて女の恐ろしさを感じたに違いない。
そんな事件に紛れ、6人目となる被害者が現れた。
魔女喰い(進展)
模倣犯やイジメ問題で世間が混乱している中、警視庁殺人課では「魔女喰い事件」に対する新たな進展があった。
死因の判明である。
外傷が全くないまま、魂を抜き取られた如く亡くなっていた美しい死体の死因は「急性心筋梗塞」である。
病死としてこの「魔女喰い事件」は終止符を討つこととなったのだ。
ただ、防犯カメラに写っていたあの影の薄い地味目な女性は一体何者だったのか?警視庁殺人課ではこの一点だけがこの問題を複雑に混乱させた原因でありながらも、誰もこの事について追求するものは出てこず、事件の捜査が打ち切られることで決定した。
何故、3ヶ月もの長い時間が掛かって死因が判明したのかについても誰も口を開くことはなかったのだという。
事件は闇に葬られたかのようにまた数ヶ月が経過することとなる。
魔女喰い(騒動)
「魔女喰い事件」についての新しい騒動が起きたのは、事件に終止符が打たれて1ヶ月が過ぎてからだ。
その騒動の発端は、とあるラブホテルにあるエレベータの防犯カメラだった。
そこに映る女性は4人。
しかし、ラブホテルには3人しか入店がなかったと店員が言ったことをきっかけに騒ぎが大きくなった。
エレベータに映る1人は「幽霊」であるとインターネットで騒がれた。
しかも、その入店した3人は共にラブホテル内で心臓発作で死亡していたのだ。
そのラブホテルは騒動を皮切りに閉店することとなった。
一部では「呪いの映像」としてチェーンメールのように出回った。
同様に6人の女性が死亡した時のマンション入り口の映像が出回った。
誰もが不思議に思うことだが、その6人は共に一緒にいる女性を意識していないという衝撃の事実と直面したのだ。
この騒動に対してメディア側が火消しの如く沈黙を保っていることで、余計にインターネット上での炎上が噂を大きくすることとなったのだ。
そして、一体誰が死亡した6人の女性のマンション入り口での映像をばらまいたのか、警視庁殺人課の中で大きな騒動となったことは言うまでもないことだった。
インターネットでの情報漏えい対策に力を入れている警視庁内で不祥事が起きたとなると大問題である。警視庁もメディアも口を閉ざして平静を装っていられる時間は限られているように感じられた。
魔女喰い(魔女にお気をつけ下さい)
インターネットの炎上は事件が発生してから半年余りで徐々に沈静化していった。
噂は闇に葬られ、映像はホラー映画の加工が施されたなどという情報も出回り、世間的な干渉は次第に薄らいでいった。
この話は真夏の夜噺という一瞬の華々しいデビューを飾ったに過ぎなかったのだ。
そう、今もあなたの傍にいるかもしれない「魔女」の手によって、美しくも若い麗しい女性たちは魂を吸い取られているのかもしれません。
魔女にお気をつけ下さい……
魔女喰い (突然ですがニュースです。)
昨日未明、神奈川県警殺人課課長の妻が心臓発作により無くなられました。
新しい伝染病の可能性もあり、自宅周辺を取り囲み調査が進められております。
夏頃から多発している一連の事件も含め、WHOなども現場に駆け込み
感染率拡大を喰い止めるべく、原因の解明が急がれております。
魔女喰い (真相)
恋したものが負ける。
それがこの世に与えられた宿命だ。
魔女喰い (プロローグ:心夜)
俺が歩けなくなった日。
交通事故が起きた日。
脊髄損傷による障害で単麻痺となり、片足が動かなくなった日。
なぜ、あの交通事故は起きたのか。
運転席に座る運転手に落ち度があったからなのか。
全ての因果関係から巻き起こる悲劇に、俺が巻き込まれた日だ。
それは悲惨な玉突き事故だった。俺の両親は亡くなり、俺はこの通り。
あの日、俺は死ぬはずだった。死んでもおかしくはなかった。
気を失って救急車に搬送されるまでの間、俺は夢を見た。
天使が俺の傷を癒やすというありえない夢だ。
過去の思い出は蘇らなかった。夢の中で、天使が俺に声を掛けてきた。
何かを言っている。声は聞こえない。
天使の口づけで俺の傷は回復した。あれは夢だったに違いない。
俺が目覚めた場所は、病院の中。
事故がどのように起きて、どうやって運ばれたのか。
自暴自棄になった俺は何度か死のうと考えた。
その度に、あの日の天使は俺の夢に表れて、俺に「生きて」と囁いてくる。
頭が可笑しくなったのかもしれない。
それでも、俺は夢で会う天使に心を奪われてしまったようだ。
あれは夢だったのか、現実だったのか。
魔女喰い (疑心)
「ねぇ。あのビデオまだ持ってる?」
「あぁ、ダウンロードしたやつだろ?」
「ホラー好きなあなたなら持ってると思ったわ」
「ずっと気になって調べてたんだ…例の魔女喰い事件」
「ニュース見たでしょ?関連あるのかなぁ」
「あれはわからないなぁ…」
「もしかして、この前のネットに流したのってやっぱあなたなのね」
「えっ…」
「警察に捕まっても知らないからね」
「俺じゃないって。でも、今はそれどころじゃないっぽいし、あのニュース。結構、ヤバそうじゃん」
「ねぇ。なんかするときは教えて」
「例のまた、流すよ。ネットに」
「やっぱやるんだ?魔女喰い事件の再発ね」
「ネタ的には今でしょ」
「魔女って本当にいるのかなぁ」
「おまえも魔女に喰われるなよ」
「てか、マジで怖いんですけど」
「あぁ、でもおまえなら大丈夫か」
「ちょっとぉ、それどういう意味よ。もう信じらんない!」
ツゥーツゥーツゥー…
魔女喰い(選挙)
10月に起きた騒動に便乗して、アップロードした動画はひっそりとインターネットの片隅に残り続けている。
世間がクリスマスムードで関心が無くなった後も、毎日10名前後のアクセスは確保していた。
魔女はどこへ消えたのだろう?
投稿されるコメントは、「あの時の動画懐かしい」とか、「これよく作ったよなぁ~。おまえの作品か?」という投稿ばかりで俺が求めている情報は何も入っては来なかった。
この動画に関しての分析は既に終わっている。
これは紛れも無くその時にそこにいた人が移されている映像で、誰かが再加工した映像ではないということ。
顔写真に関してもデータベースやビッグデータから検索をかけ、襲われた女性が何者なのか、襲ったと思われる魔女が何者なのかを見つけようとしたが、ヒットする情報はどこにも存在しなかった。
この世に存在しない二人が、マンション入口を通りすぎて生活していたということになるのか、俺の検索力の欠陥が何処かにあるのかということだ。
この動画を理解するには、他者からの情報が必要不可欠だ。
すくなくとも、この2人に接触したことのある人とこの俺が接触し情報を少しでも入手しなければならない。
ここまで俺がこれに力を入れて調べる必要があるのだろうかと悩むことはあった。
しかし、どうしても腑に落ちない問題をこのまま見過ごすことはできないのだ。
そんな折、マスメディアや警察が沈黙を続ける中、新しい選挙がこの時期に発生した。
この世界で一体、なにが起きているというのだろうか?
フラストレーションの溜まる日常に終止符を打とうと思う。
世界がざわめく中、インターネットにアップロードした動画に俺の求めているコメントが追加された。
魔女喰い(クリスマス・イブ)
俺は例のサイトにてコメント欄を利用したコミュニケーションを取り、実際に会って話をする段取りを付けた。
それはあるサイトでハッシュタグイベントが開始された12月のことだった。
サイトでコメントをくれたのは男だった。
その男の申し出に従い、合う場所が決まった。
よりによって、世間がクリスマスムードで賑わっている12月24日。
しかも、カップルが多いと言われている場所だ。
極端に外に出かけることを嫌う俺は、こんな日になぜ男と二人でここにいるのか。横浜みなとみらいでイルミネーションが煌めくクリスマスムードな世界に二人の男が肩を並べてベンチに腰を下ろしていた。
そこまでして、その男から情報を聞き出すことには意味があると考えたのだ。
その男はコメント欄でこう書き残した。
「俺は、これを見ていた。これは、魔女などという話ではなく、間違いなく殺人事件だったはずだ。この動画はなにも加工されてはいない」
俺と同じことを考えている人、しかも当時この現場を目撃した人物がいたのだ。
その人物に話しを聞くことは、インターネットで情報を吸い上げているだけの日常では得られないものがあると感じたのだ。
そして、カップルが行き交う中、二人でベンチに腰を下ろしているのだ。
このベンチに座って一休みしたがっているカップルの目線を気にしながら、俺はその男と会話を始めた。
見た目は30後半に見える。
実年齢は20代前半だという。
お金を稼いで、女に貢いでいたのだ。
その女に出会ったのがまさしくこのベンチで思い出の場所だった。
仕事中に呼び出されては、駆けつけ足となって何度も酔っ払った彼女をマンションまで送っていたのだという。
その日も呼ばれていた。
その男はいつも通りに待ち合わせ場所に着いたが、楽しそうに話す目線の先に知らない女がいたため、警戒して近づかずに遠くから様子を伺っていたという。
そこに魔女は居たのだ。
魔女喰い(成人式)
あの子が消えた日。
成人式が終わり鮮やかな振り袖に身にまとっている可愛いあの子。
「おまえも魔女に喰われるなよ」
「てか、マジで怖いんですけど」
「あぁ、でもおまえなら大丈夫か」
「ちょっとぉ、それどういう意味よ。もう信じらんない!」
そんな会話を交わしたのはいつの頃だっただろう。
あまりにも遠く感じる。
電話を掛ければ直ぐに聞こえたあの声は、今はもう聞くことが出来ない。行方不明。
誰に聞いても彼女の存在は確認できなかった。
早生まれで3月に二十歳になるはずだった。そう聞いている。
俺が人を真剣に探そうと思ったのは、これで2人目だ。
1人は会ったこともない魔女と言われる女。
もう1人は、時々電話で話をすることになったネット友達だ。
リアルで会ったことは二人ともない。
俺はどちらかと言うと外に出るという行為が嫌いだ。
それを俺は足が不自由だという理由を付けて面倒臭がっている。
一人黙々とネットをハッキングする日々。
いつしか声だけの存在に恋をするようになっていた。
そして、突然途絶えた連絡。
不安は大きくなっていた。
クリスマスのあの日、男と会話をして知った事。
それぞれが関連しているのか?いないのか?
全てが謎だらけで、俺の知らないところで現実は勝手に動いているようだった。
そして、いつもの様に匿名の情報屋が魔女喰い事件の機密文書を送ってきた。
去年まで厳しかった警視庁の機密文書のセキュリティは、今年に入ってとてもゆるく感じられた。
魔女喰い(テロリスト)
世界はどうしてこうも……
虐げられるのはいつも弱者だ。
弱者とはなんだろうか?子供?女性?それとも平和を望む人間なのだろうか?
力が強ければ、全てが正義に置き換わるかのような社会情勢は後を絶たない。
こんな世の中で、俺に何が出来るというのか?
魔女喰い(13日の金曜日)
世間はいたって平和な日常。明日はハッピー・バレンタインデー。
誰かから貰えることを期待していたわけじゃない。
ただ日常の退屈な時間に、少しばかりのイベントがあることが幸せに思えるから、周りの幸せそうな人たちを見ながら、自分もいつかはと思っていたのだろう。
でも、そのいつかが来ないことは、なんとなく気がついている。
一人でいる寂しさを紛らわすように、コンビニで自分用のチョコを買い込み、誰も訪れることのないアパートへと戻っていく。
クリスマスで見た、人の賑わいにも似た日常が、俺の一日を通り過ぎようとしている。
年明けに送られてきた「魔女喰い事件」の機密文章には、11人の名前が記述されていた。名前を検索してもニュース記事一つもヒットせず、その当時のニュースを見てもどれも匿名や偽名によって記載されていた。
ただ一人を除いて、過去を把握する情報は何一つ手元に届かなかった。
身元がわかった人物は「神奈川県警殺人課課長の妻」だ。
この女性も「魔女喰い事件」によって病死として報告されている事実は、恐らく多くの人が知らない事実なのだろう。
いつも俺宛に機密文章を送ってくる人物は、実はこの前あった男なんじゃないかと推測している。彼が知っていることと、機密文章はほぼ一致していたからだ。
彼のことは仮にジェイソンと名づけておこう。今日だけのこじつけなのはよく分かっているつもりだ。
あれから2ヶ月、彼はまだ魔女の尾行を続けているのだろうか?また、今度会ってみよう。
魔女喰い(ジェイソン)
12月、俺は車いすの男に会っていた。
あの時見せられた佐知の写真に衝撃を受け、俺の耳にはその後彼が何を話していたのかすら記憶に止めていなかった。車いすの男から受け取った佐知の写真を、これまで取った写真のアルバムに大事に挟み、時間が許される限り、何度も何度も佐知との思い出のアルバムを開いたりしながら、そろそろサクラが咲くのだなとぼんやりと考えた。
4月に佐知と取った写真には、綺麗な桜並木の道が写っていて、今年もここに行けば、佐知に会えるのだと呆然と想いを募らせた。
アルバムに映しだされた佐知の笑顔を見るたびに、切なさがこみ上げてきた。
最期に見た佐知の後ろ姿を追いかけるように、あの時一緒にいた魔女を俺は追いかけている。
世間から見たらストーカーでしかない、それでも俺の、今の生きる目的となっている。
魔女は実在した。その存在を知っているのは俺と、車いすの男の二人だけらしい。
俺は、魔女のいつも出入りしているマンションを知っている。
あの魔女を殺すのは俺の役割だ・・・
佐知を殺したあの魔女を、俺は許さない。
車の座席から身を隠して魔女が無防備になる瞬間を追いかける。
早く出てこい。魔女め!
しかし、マンションから出てきたのは、佐知だった。
あの日亡くなったと報道されていたはずの佐知が今、目の前に現れた・・・
魔女喰い(さくら舞う)
キャーッ!
ハァハァハァハァ…
いやあーー!
誰か、助けてーー!
ハァハァハァハァ…
さくら「諦めな!逃げられないよ」
どうして!どうして私なの?
ハァハァハァハァ…
「お願い!来ないで…私は……」
さくら「ダメね。もう手遅れなの」
「私は普通に生活してただけよ!何も悪いことしてないわ」
さくら「それが罪なのよ」
くっ、なに!このクソアマ!ふざけやがって!
ふっ。でも馬鹿ね。私が闇雲に逃げてたとでも思ってるの。
ここは私のテリトリーよ。
「お願い!誰か助けて!」
「おい!大丈夫か?なんだ?何があった!」
ほら、居たわ。「きゃー!お願い助けて。この女が私を襲ってくるの!」
ほら、私の代わりに戦ってきな。
さくら「ふぅ、あらカッコイイお兄さんね。私の顔に免じて、その子と二人きりにしてくれない?」
「いや、そういう訳にはいかない。俺の彼女に何しよってんだよ。可愛い顔だからって、容赦しねえぞ」
はあ、何どさくさに紛れて色目使ってんだよ。この男もデレっと鼻の下を伸ばしてんじゃねえって。ハイヒールで男のつま先を踏みつけた。
「いてっ!」
「私を見て…そんな女に騙されないで…ぐすっ」泣き真似ぐらい見せてやるよ。
「お願い!その女を殺っちゃって…」前にも殺ってんだから、一人ぐらい簡単だろ。
さくら「止めといた方がいいよ。今逃げるなら手はあげない。その女から離れて逃げな」
「はあ?お前を俺の好きなようにもてあそぶ事だってわけねえんだけどね。やべえ。ヨダレ出てきた。へへへへへ」
そうだよ。お前はそういう男だろ。殺っちまいなって!ふふふふ。
バタッ…
はっ?なに?今何した?おい!起きろ!どうして、呆気なくあんた倒れてんだよ!
「ちょっ、何したんだよ!」
私は、目の前にいる女の溝落ち目掛けハイヒールのカカトを蹴り上げた。
女はひらりと身を交わしたかと思うと、私の足を掴み引き寄せるように、目の前10センチの密接ギリギリまで近付いてきた。足を掴まれていた為、とっさに避けることもできず、私の首を折るかのように、その女は両腕で掴みかかった。
クカッ!い、息が…
すると女は突然、接吻をしてきた。
思い切り首を締められたまま、生暖かな唇を感じ、やがて意識を失っていった。
魔女喰い(魔女のお仕事)
ああ~、退屈だあ~。
毎日が同じ景色で飽きちゃう~。
それにしても、イライラするのねえ。
なんだって言うの、あのアマ。偉そうに指図して。
私のほうが上よ。上。上に決っているの。
脳細胞低レベルな猿に言われたくないの。
でも、もういいの。偉そうに指図してきた奴とはおさらばしたのよ。なんで急にいなくなっちゃったわけ?
ホント、考えただけでもイライラしてきちゃう。
もう。いやん。老けちゃうじゃないの!
そろそろ、欲しいところよ。
お・と・こ♡
誰でもいいってわけじゃないのよ。
やっぱ、イケメンに限るってね。
逆ナンでもしてこようかしら。
海の見えるあの海岸に、きっといい男がサーフィンでもしているのよね。
私にかかればイチコロなんだから。
でも、本当。人生飽きちゃったあ。
ここ最近、みんな状況が変わっちゃって。取り残された感じよねえ。
私のお仕事は、もうないの?勝手にやっちゃって言い訳?
さくら「ちょっと、待ちな!」
なに?このアマ!偉そうに!!無視よ。私に声かけてんじゃないね。
さくら「ちょっと、そこの美人のお姉さん」
「え?私の事?」やだ。条件反射で振り向いちゃったじゃないの。この女。なんなの?
さくら「どこへ行かれる予定ですか?もし良かったら、一緒にお茶でもしませんか?」
え?ナンパ??女にナンパされるなんて初体験なんですけどぉ。
「これから、海に男をハンティングしようかと思ってるんだけど、あなたもなかなかの美人だから一緒に行く?」
あいにく、私は女には興味ないのよ。この女を手懐けて男を総取りしちゃおうかしら。
さくら「それは楽しそうね。でも、男をハンティングする前に。あなたをハンティングさせて頂戴」
は?なんなのこのアマ。私は男が欲しいの。女に興味ないって言ってんだろ。
魔女喰い(止まらない涙)
俺は佐知を尾行していた。三ヶ月色んなことがあった。佐知の身の回りで起きている事のどれだけを俺は知っているのだろう。
何かの事件に巻き込まれている。死んだと思っていた佐知が生きていた。俺はまんまと偽の情報を掴まされていたのか…
佐知の尾行を終えて、帰宅しアルバムを開く日々は長く続いた。
佐知に似ているけど、違う女性ということも考えられた。
佐知に似ている女性は、俺に気がついても知らない人を見るかのような態度をしたからだ。
気軽に声を掛けに行ったわけじゃない。
尾行が失敗しただけだ。後をつけている事を勘付かれ、俺を見つめてきた。ように感じた。
でも、それも違っていたようで、俺の横を通り越してすれ違っただけだったのだ。
俺と目すらも合わなかった。まるで俺が死んでお化けにでもなって出てきたかのように、俺の存在がそこには居なかったかのようにだ。
そこで俺は思った。彼女は佐知に似ているけれども、佐知ではないのだと。
あの魔女と一緒にいる、佐知ではない女性として、俺は尾行を続けた。
魔女の情報を得るために。
そして、帰宅して開くアルバムを見ては、涙が溢れる日々を送っていた。
ある日の夕暮れの時間、佐知があまり行きたがらない小汚い居酒屋での事だった。
佐知に似ている女性はさくらと言う女性と飲みに来ているようだった。
俺が近くに居て聞き耳を立てていても、俺の存在はここにはない。
佐知に似ている女性「さくらにお願いしたいことがあるんだけどなあ」
さくら「いやよ。なんで私なの」
佐知に似ている女性「ね。ごめんね」
さくら「嫌だからね。絶対に嫌」
佐知に似ている女性「ひろっちの為に、ひと肌脱いでくれないかなあ♪」
さくら「ひろちゃんの為じゃないでしょ」
佐知に似ている女性「でも、ほら」
さくら「もお~!なんで私なの!」
見た目が似ていれば、やっぱり声も似るものなんだな。
俺は一人、やけ酒をあおり泣いていた。
魔女喰い(怪談)
私、見たんです。夜、仕事の帰り道でのことでした。
魔女喰い事件で亡くなったと聞いていた彼女が、私の後を付けて来ているんです。
死んだはずのあの人が、まさかと思いました。
何度も確認したんです。怖くなって小走りに坂道を登り、普段は通らない階段を登っている時、後ろにいたはずの彼女が、いつの間にか目の前に現れたんです。
怖くなって叫びました。あまりの怖さにうずくまっていると、いつの間にか何処にも居なくなってしまったんです。
噂で聞いた話なのですが、他にも亡くなった人がいたかと思うのですが、目撃情報があって夜な夜な私たちのような女性を襲っているんですって。
私?私は頑張ってまだ外に出るわよ。仕事も好き。
それに若い男性も好き。
だって、1人じゃ生きれないもの。
生きるためには必要なことでしょ。誰かと交わること。自然の摂理よ。
お化けが怖くたって、家に閉じこもるなんて出来ないわ。
仕事から開放されたいって思ったことはないの。
家に閉じこもってお化けに会わないようにする?それは嫌よ。
家から出てきなさいよ。
心も体も元気がなく、だんだん老いているんじゃない?
顔を見れば分かるわよ。生気が足りないわ。
一緒に外の空気を吸いに行きましょう。
きっと元気が出てくるはずだから。
正直、私も1人だと心細いの。一緒に仕事に行ってくれる仲間が欲しいわ。また、お化けに会うのも怖いわ。
お化けが後ろからヒタヒタと近づいてくるかもしれません。1人なら怖いけれども、2人ならね。少しは大丈夫。そうでしょ?
私たち、一度はお化けに会ったけど、何も起きなかったでしょ。もしかしたら、錯覚だったのかも。亡くなった人が生きてるなんて、ありえないわ。
幻を見たのよ。よくあることだわ。きっと、もう私たちの前には現れないわ。
さあ、行きましょう。体を動かすのよ。
私の体。もう一つの私。。。
魔女喰い(流れ行く時の中で)
僕たちの日常は、とても狭い範囲で繋がっているのかもしれない。
トゥルルルルル・・・
古い電話のベルが鳴り響く。この電話で音が鳴るのは久しぶりだ。
俺はスマホに手を伸ばした。
「久しぶり。魔女に喰われたのかと思って心配したよ」
「はじめまして」
・・・・誰だ?なんでこの電話を知っているの?
「どちら様ですか?その電話番号は・・・」
「そうね。別に電話を盗んだわけじゃないし、彼女も元気よ。ちょっとこっちの事情があってね」
そうなのか・・・まあ、家族の事情とか知らないしな。でも、どうして本人からじゃないんだろう?
「ご家族の方ですか?俺が何かご迷惑をお掛けしたのでしょうか?あの、本人とお話する事はもう出来ないのでしょうか?」
「そうね。もう関わらない方がいいと思うの。あなたのためだから」
とても冷たいあしらわれようなのに、彼女の言葉はとても暖かく聞こえた。やっぱり、家族の方なんだろうな。同じ雰囲気がする。
「それから、魔女喰い事件に興味があるようだけど、もう調べたりしないで、いくつかの資料が届いているでしょ。彼女が送ったやつだから、それはそっちで処分して頂戴」
えっ?彼女が送ったやつ?あの機密書類とか・・・
電話していたあの彼女って警察関係者だったのかな?それともスパイ活動して捕まっちゃったりしたのかな?
「ほ、本当に彼女は元気なんですか?もう一度、お話することは出来ないのでしょうか?声を聞かせてください」
まるで、誘拐事件でもあったかのような、犯人とのやり取りに似ている。
「わかった。変わってあげる」
どうやら要求は叶ったようだ。
魔女喰い(縛り付ける習慣)
俺は久しぶりにジェイソンと再開する約束をした。
11月13日(金曜日)。皮肉なものだ。
俺が付けたあだ名は、彼の登場を縛り付けているかのように感じる。
その間にはハロウィーンが待ち構えているのだから、何があってもおかしくはないだろう。
魔女だ。ジェイソンだ。ヴァンパイアだ。ゾンビだ。とか・・・
西洋のホラーかぶれも甚だしい。
そもそも、ここは日本なのだから、日本の妖怪だとかお化けだとかそういう表現にしておけばよかったのだ。
魔女喰い事件などという名称が、地的感覚を狂わせているとしか思えない。
とは言え、俺の最大の問題は、魔女喰い事件の事をきっぱりと忘れるか?忘れないか?ということに尽きるのだ。
俺は、過去に送られてきた資料を再度見なおしていた。
亡くなった写真と言って、寝ている写真を加工すれば、穏やかに眠ってるように亡くなっているという加工写真は作れるだろう。
そんなイタズラ好きがいないとも限らない。
防犯カメラの画像風に仕上げた、隠しカメラの動画を送ってくることも出来なくはない。
俺はイタズラに付き合わされ、世間にありもしない魔女喰い事件をバラマキ、ネット炎上させていたのだろうか?
下らないイタズラのネットの投稿から、関連性のない文言をあたかも関連性のあるように作り変えて、自分の中でこれが真実だと思い込んでいたのではないだろうか?
他人が思い込んだ出来事を信じることで、ありもしない現実は、あたかも本当の現実であるように思い込んでしまう。
こうして繋がっていく人々の思いは、消化されずに永遠と停滞し続ける。
非現実的な過去は、そのまま作られた過去となり、あたかも現実の過去のように思い込まされる。
過去から繋がる今は、その誤った現実の過去を習慣として、誤った未来を作ろうとしているのかもしれない。
どちらにしても、隠された真実を俺は見つけなければならない。
もう、過去には戻れないのだから。
魔女喰い(ハッピーじゃないハロウィン)
めでたいことにハロウィンな季節がやってきた。
私達、魔女にとってこれは最高の時期なのだ。
刈り入れ時は違う。そう、どちらかと言えば過ぎし日夏の日。
私達は刈り入れを行い、その蓄えでパーティを開く。
それがこの時期、ハロウィンなのさ。
魔女の宴に貴方も招待しましょうか?
いいのよ。恥ずかしがらなくっても、私達はいつだって歓迎するわ。
魔女喰い(ジェイソンふたたび)
11月13日(金曜日)、俺は車いすの男に会っていた。
あの時話した佐知との出会いに衝撃を受け、俺の頭にはその後何を話して良いのかすら分からないでいた。
世界はどこか混沌としていた。
見るもの全てが疑わしく思えてくる。
全てを壊したい。きっと洗脳されているのだろう。
俺は魔女を許さない。
あの魔女は俺が殺ってやる。
人をストーカー呼ばわりするあいつら全員グルなんだ。
怒りをフツフツと煮えたぎらせていることを感づかれたのだろう。
車いすの男からも予想も付かない話が入ってきた。
俺たちは運命共同体と言ってもいい。
今まさに人生の分岐点にいるのだろう。
このまま俺達は魔女と決別をするか、魔女を追い続けるのか選択しなければならない。
この世界に魔女なんていない。
いるのは一人の女性だ。そして何かしらの洗脳団体でも結集しているのだ。
その深淵を暴かずに引き下がって良いのか?
ストーカーと呼ばれようと、なんと呼ばれようと、追い続けなければならないのではないか?執拗なパパラッチのように。
俺が殺されるのか、相手が死ぬのか。そのどちらかかもしれない。
「ジェイソ、・・・純也さん」車いすの男が俺に声をかけた時、思わず聞き返した。
「ジェイソ?って」そう、これが俺の本性だ。
「す、すみません。こっそりわかりやすくジェイソンってあだ名つけちゃってたんです。13日の金曜日に会ったりしているので・・・」
俺は怒りもしなかった。ああ、なってやろうじゃないか。その、ジェイソンってやつに。
魔女をチェーンソーでぶった切ってやる。
「心夜さん。俺が魔女をぶっ倒してやるよ。そして取り戻そう。お互いの彼女を」
魔女喰い(クリスマス前の憂鬱)
今年もまた始まっているハッシュタグイベント思えばあの時はまだ何も分かっていなかった。今も何かを分かっていると言うわけでもないのだろう。
ジェイソンは目を血走らせてこう言った。
「心夜(しんや)さん。俺が魔女をぶっ倒してやるよ。そして取り戻そう。お互いの彼女を」
とは言え、俺の彼女なのだろうか?
電話で話していただけという関係で、彼女と言って良いのだろうか?
いつか会えると思っていた人とは、もう会えないのか?
俺が一方的に、そう、一方的に。
ジェイソンだってそうだ。きっと一方的な思い込みなのだろう。
それでも、彼の中では俺と会ったことで何かが吹っ切れてしまったかのように、俺との話しを早々に打ち切って帰っていった。
俺としては、何も得るものがなかった久しぶりの出会いになった。
思えば去年のクリスマス。そう、このベンチで彼と話したのが分岐点だったのかもしれない。
今年も俺の心を一人分取り零して、クリスマスが始まる予定だ。
俺だけじゃないのだろう。似たような人がたくさんいる。そう思うことだけが自分を救ってくれていた。俺は一人じゃない。ジェイソンも似たようなものか。
いや、彼には強く思える人がいる。
その点では彼は幸せなのかもしれない。
俺はというとどうだろう。誰かに思われていたり、誰かを思っていたりするだろうか。
サンタクロースは俺に何をプレゼントしてくれるだろう。
人工知能の気の利いたロボットなんてどうだろう?話し相手にはなりそうだ。
家に帰ると窓の外にネオンの明かりがチカチカと眩しい。今年はいつにも増して明るく輝いているように見える。去年も一昨年も、まだ節電ムードが響いていたのだろうか。
今年は一段と輝きを取り戻したようだ。
多くの人々にとっては、喜ばしいことなのだろうけど、静かになった街が俺は好きだったんだ。
思わず部屋を飛び出して、俺は去年と同じ場所に腰をおろしていた。
そんな時、とても美しい女性が近づいてきて、俺の横にちょこんと座った。
俺は目を奪われ、ガン見していた。目を離すことが出来ない美しさというのは、この人の為にある言葉なのだろう。
誰かと待ち合わせなのだろうか。目が離せない俺に対し、女性が目を合わせてくる。
蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる俺が、デレッとした顔を隠すように空気で顔を洗った。
その一瞬、目を離した時に女性は、人混みの中に消えていった。
すぐに追いかけて、「ねえねえ。誰かと待ち合わせ?」なんて気軽に話しかけることが俺には出来ない。拳を足に叩き込み、俺の足を呪うことで精一杯だった。
魔女喰い(新しい年が始まる)
新しい年が始まるんだ。
魔女喰い事件のことは忘れよう。魔女のことはジェイソンが何かしらするのだろう。それに俺が関わる理由があるだろうか。
電話の女の子。名前はなんて言ったっけか。
そう、(ここみ)。どんな漢字なのだろう?
もうどうでもいいか。
ストーカー呼ばわりされてまで俺が追いかける事ではない。
気にはなっていた。電話も楽しかった。魔女喰い事件と騒いでいた夏も。
おかしな動画をアップして騒いでいた夏も。
全ては幻だったかのようだ。
そうだ。知っていたではないか、でもあの時はまるで別人かのように、そんなことが起きているということを笑っていたんだ。
普通の子だと思っていた。魔女に洗脳されている?
そうなのだろうか?ジェイソンの言い分はそんなような所だった。
結局、魔女喰い事件って何だったのだろう?
そんな意味深な事件とは関係もなく、
世間のニュースは虐待、自殺、殺人などの文字が毎日のように踊っている。
こういう事件に「魔女」は関わっているのだろうか?
おかしいな。「魔女喰い」「魔女」この関係がどうも引っかかっているようだ。
「魔女」は誰だ?
魔女喰い(ベナンダンテ現る)
俺が付けたテレビでも、いつも行くSNSでも今では狼の話題ばかりとなっている。
どうやら東京の公園に大きな野良犬が確認されたらしい。
それがちょっとでかいどころの大きさでも無いらしく、とても危険な状況らしく、公園が閉鎖となり利用できないということになっている。
未だに捕まってもおらず、何処に消えたのかとインターネットやテレビで一般の人が参加しての捜索活動祭り状態だ。
毛むくじゃらのホームレスか、または狼のキグルミを着ているバンドマンが酔っ払ってあらわれたとかと、間違えたんじゃないのかという話もあり、狼とか野良犬という話も徐々に信ぴょう性を失いつつあるが、狼のキグルミを着ているバンドマンの曲は少し売れ行きがアップしたらしい。
ここ最近、魔女の話にかぶりついていたので、大きな野良犬が出ただとかでは全然驚かなくなっていた。
大きな野良犬ぐらいいるだろうという程度なのだ。
自分が襲われでもしないかぎり、そうそこに自分が行かないかぎり、どうでもよい話題だと思っていた。
都市伝説!狼男が現る!という週刊誌の見出しを見て、その週刊誌を買ったのが昨日だ。
「衝撃!!狼男が魔女を食べた!!」
魔女を狩る狼男の事をベナンダンテというらしいが、どちらも狂気じみている。
まだ、魔女の話題とリンクしているというのだろうか。
そして、今度は狼男か。
まあ、どれも空想の話に過ぎないのだろうけれども、2月23日は満月らしい。
狼男といえば、満月でしょ。
魔女喰い(ベナンダンテ覚醒、そしてエピローグ)
俺は宏美(ひろみ)。
3月23日 21:00満月。
ベナンダンテVS魔女。
とある人気の少ない公園の片隅でベナンダンテが魔女と戦っている。
その戦っている魔女が俺だ。俺はこの戦いで始まりを終わらせる事にした。
ただ、俺の体が欲求してくる。
全ての決着をここで付けるのだ。
俺が彼を殺すのか、彼が俺を殺すのか。俺はもう迷わない。望みは一つだ。
魔女喰い モード1
魔女喰い (プロローグ)
僕は宏美(ひろみ)。
そして僕は俺になった。
二十歳の冬。全てはここから始まっていたんだ。
臆病で人見知りの僕を、強気な俺に変えてくれた。
貴女(あなた)が僕の全てを奪って行った。
そして僕の全てを変えたんだ。
魔女である貴女を食べたあの夜。
全てが変わった。僕の中の何かが動き出した。
貴女の下僕となり、ヒモ男になり、楽することで自堕落な俺が生れた。
全てが自分の手の中でコントロール出来ているのだと錯覚して、いい気になっていた。
貴女に全てを奪われたあの時に、既にこうなることは決まっていたのかもしれない。
今でも分からない。俺が操っているのか、俺が操られているのか。
全ての魔女達よ。この世界から居なくなれ。
女性恐怖症。世間ではそう呼ぶのかもしれない。
魔女喰い (始まり)
始まりは突然に…
「マジでてめぇ使えねぇな!迎えに来いっていつも言ってんだろ!!殺すぞ!こらー!てめぇ今日来れなかった分、十万円おごりだからな!ふざけんなバーカ!」
一方的な物言いをしながら、女性は携帯電話を切った。
「ねえ、あんたにも金づるいるんだろ?今度、紹介してよ。同じ仲間じゃないか?ね?」
自分の部屋に入ってから、ようやく一緒にいることを思い出したように。影が薄い人物に話しかけている。このマンションの最上階にある角部屋に女性の住宅がある。
食事は外で済ましており、幾分かのアルコールを浴びて帰宅した女性は徐々に睡眠へと導かれていく。影が薄い人物はソファで眠りについた女性を担ぎ上げ寝室へとそっと運んだ。
影が薄い人物は女性の胸に手を当てて、女性に向かって何かを呟いた。
軽い衝撃を受けたかのように女性の体はベッドのスプリングで跳ね上がり、そのまま息を引き取った。どこから取り出したか影が薄い人物はバラの花一輪を女性の手に持たせた。
魔女喰い (真相)
紗耶香は俺にとって単に都合の良い女性だった。
そう、あの日までは・・・
オートロックの高層マンション上層部に住む紗耶香は、俺にとっては都合の良い金づるだった。
彼女の職業は占い師。名の知られていないスーパーやデパート。小さなショッピングモールにその店を構えている。たまに開業すると不思議と男たちが集まり、カップリが集まりお店が繁盛する。
俺も吸い寄せられたたちだ。占いなんて信じない。ほんの気まぐれだった。
そこへ寄ってみれば、可愛らしい俺のタイプの女。声をかけないわけにはいかないだろう。これは男のモラルというものだ。
意外とガードが浅く、すんなりデートをもぎ取り、デートを重ねるごとに彼女へ奢らせる額も回数も増えてくる。ヒモ男だと思われても構わない。これが俺の生きる道だからだ。
そういう女性を幾人か知っている。紗耶香で3人めだ。
二股程度では、俺の食いぶちは賄えない。泊まる場所も頻繁に変えなければならない。
家に居続けると女は勘違いする。帰る場所が必要だ。
毎週入替えれるぐらい、そう7人ぐらいはそういう女が居てもいいだろう。
そんな日常を俺は3年ぐらい続けていた。仕事なんてやってられねぇな。こんな楽しい生活他には考えつかねぇし。
それが突然一変する。
変な話を始めたのは紗耶香からだった。
いつもの夜の営みが終わり、シャワーを浴びて出てきた紗耶香がバスローブを羽織ってベッドに腰を掛ける。
紗耶香「私、魔女なの」
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