フラッシュバック・シミュレーター(2)
「はい。それではこちらのヘッドギアを装着して仮想世界を楽しんでください」
医師は先ほど弄んでいたヘッドギアを患者へと手渡した。
患者は言われるがままに、ヘッドギアを頭に被り医師の話に耳を傾けた。
「初めは治療ではなく精神的な安定を保つために必要な事前準備とお考え頂ければと思います。これから見る仮想世界はどこか現実味がありますが、身の危険は一切ございませんのでご安心ください。その次に仮想世界にも私が現れます。外部からお声がけしている声が、実態の記憶として現れるためです。私がお声がけを始めたら、私の指示に従ってください。そこから治療の方を薦めさせていただきます。治療と言いましても、不眠症となるストレスの原因を取り除くための作業ですので、ストレスを取り除きスッキリとした気持ちを回復する作業となります。心の準備はよろしいですか?」
患者はコクリと会釈した。
医師はヘッドギアのスイッチを入れ、仮想世界に繋がっているモニターを監視する。仮想世界は、患者が創りだした世界だ。夢診断に近い作業となるため、医師もまた患者の仮想世界を把握する必要があった。
看護師もまた、その映像をチェックする。夢診断同様に、映しだされる映像に心の病となるヒントが隠されているため、膨大な量のデータから類似する事例を検索しているのだ。
医師はカルテに仮想世界の映像の録画を保存し始めた。カルテは文字を書くだけでは、治療に必要な情報が書ききれないためだ。
「はあはあはあはあはあ・・・・」
患者は暗がりの中を闇雲にただ走っているだけのようだ。
何かから逃げているようだが、何から逃げているのかはわからない。
医師は看護師に目配せして、勝ち誇った顔を見せた。そのあからさまな顔に看護師はムッとした。
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