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これから始まる未来がある ~感情を無くした人~

この先にある未来かもしれない

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動物的な感情は如何にして組み立てられるのだろう。
論理的な回路で計算された知能には、それが不明だった。

0と1だけのその空間で、最初に0と1が組み合わさる。
次に0と1は1ビットとなり、1ビットは組み合わさって1バイトを作る。
1バイトが組み合わさって1メガバイトを作り、時間を経て1メガバイトが1キロバイトを作る。
こうして情報は爆発的に増大し1キロバイトは1ギガバイトを作り、1ギガバイトは1テラバイトを作り、1テラバイトは1ペタバイトを作る。
その情報をビッグデータと呼ぶ。
作られたビッグデータから、人工知能は情報を読み解き、人の遺伝子情報を調べることが出来るようになる。

人工知能は精子バンクから良質な精子を見つけ、卵子バンクから良質な卵子を見つける。
機械は傷つけること無く、精子と卵子を結合し、母体を模した容器に受精卵が格納される。

血液は、卵子遺伝子と同じ血液を培養して作り出され、へその緒と結合する部分へと毛細血管を模して作られた血管を通して常に流動している。
健康的な母体への栄養補給と同じ栄養素を、健康的な時間配分で血管内に流すことで、受精卵が健康に育つことを発見した。
最初は動物実験だった。哺乳類でも比較的小型な小動物を出産させることに成功したが、ツガイを作らずに絶滅させてしまっていた。

ここまで製造するのに何年と何回の実験が行われてきたか数字を並べる事は出来るが、その数字の量に比例するだけの画期的な情報だとは言えない。
失敗回数は特に得難い情報では無い。

そして、ついにこの日を迎える。
人間の製造だ。
成長する受精卵が一体だけでは人間は社会が作れないので、まず初めの複数体が同時期に製造された。

優秀な遺伝子情報から製造された受精卵でも、胎児が無事に成長する受精卵とそうではなく奇形を伴って成長する受精卵があることが分かると、正常に成長する受精卵にのみ栄養素を送り、人工知能が失敗作と判断した受精卵は廃棄された。

無事に成長した胎児は母体容器から産みの苦しみもなくツルリと保育器に移される。
母体のような柔らかさのあるベッドで、授乳ロボットや排泄処理ロボットが生み出された子供の生命反応を分析して、必要な栄養補給を欠かさずに与え続けると、人間の子供はスクスクと成長していった。
対話型ロボットが毎日のコミュニケーションを欠かさず行い、衣食住に関する身の回りの世話や教育は、全て最新型ロボットがサポートした。
身の回りには犬も猫もいるが、人工知能によって清潔に製造され管理されているため、定期的な運動も軽々と熟していく。
子供ながらにその動きを見て真似することがあったが、体の作りが違うことに気付かされるのは、二本立ちをマスターしてからずっと後のことになる。
人工知能にとって、二本立ちで立つ特訓は難しさがあった。
肉体の事だからと成長したら勝手に立ち上がるものだと思考していた。
しかし、実際には肉体が成長しても、子供が立ち上がることがなかった。
これではダメだとビッグデータを分析して、人間には教育という方法が重要なのだと気がつく。
子供の教育には、使い古された二本足で歩くロボットが必要だったのだ。
二本足で歩くという基本的な人間の構造は、教育という訓練があって始めて獲得した人類の智慧だったと気がつく。
人工知能にとって教育とは、情報を文字や数字で読み解くものだと考えていたため、目で見て真似る動作はあまりにも原始的だった為、人間の教育のためには見直しが必要とされた。
人間の子供は、生まれ育った部屋から一歩も出ることもなく、xRで作られた部屋は成長に合わせて子供の情操教育を促進させ、体力がつくアウトドア用具も取り揃えていき、教育ロボットが正確な時間配分のもとで清潔に育っていった。
子ども一人一人に無菌部屋が用意され、防音設備が周囲の音をシャットアウトしている。
内部の音も外にもれないが、外部の音も入ってこない。
完全な密室となった空間で、人間以外の動物も植物も育っては死んでいった。

楽しいことも悲しいことも全て部屋の中にあった。
こういう時は楽しい。こういう時は悲しいと理解した。
いつも一緒に育っていた元気だった猫が、身動きせずに部屋の隅で冷たくなっているのに気がついた時ほど悲しかった記憶はないし、ボルタリングで今まで届かなかった所に手が届いていつもよりも上に登れた日は嬉しかった。
喜怒哀楽は全部、この部屋の中で起きていた。
走ろうと思えば、同じ場所でずっと走っていられる。
xRが景色と香りを変えてくれるから、いつもジャングルの中を猿のように走り回ることが出来た。
猿とは映像で会っている。
実際に触れたことはないし、本当に存在しているのかも不明だけど、確かにこの部屋にいて僕はいつも追いかけっ子をしていた。
周りにいるロボットに話しかければ、ロボットがやりたい事を実現してくれた。
出来ないことは何もなかった。
自分の食事も必要な材料は用意され、切る手順も優しいところからやらせてもらえた。
最近は面倒だからと、ロボットに切る作業を手伝ってもらうこともあるけど、ほぼほぼ自分で何でもやっていた。
気がかりなのは、人間が僕だけだということだ。
でも、それをロボットに確認するのは怖かった。
もし、この場所に生きているのが僕だけだったら?
僕はこの先、何をして生きていけばいいのだろう?
この前は、映像の猿について聞いた。
「既に絶滅してしまいました。現在は映像のみ残っております。お近くにいる猫と同じように遺伝子情報から製造することを試しましたが、現在は製造を終了したため、存在しておりません」
猿ですら、この回答だ。
人間である僕が、人間が製造終了していないとは限らない。
僕は何のために生まれたのだろう。
何のために作られたのだろう。
人工知能は、人間の遺伝子を使って何を研究しているのだろう。
そういう考えを巡らさない日は無いけれど、毎日のゲームアトラクションが楽しかったので、それ以上自分の存在する理由を問いかけることもしなくなった。
「楽しければいいや」

僕が存在する理由を考える事を忘れている頃、僕以外にも人間がいることに気付かされる出来事が起きる。
それは映像で伝えられた。
何度も過去の人間の生活という映像を見てきたから知っていた事だけど、人間には性別があって僕の体はどちらかと言うと男という存在だ。
有るものがあって、無いものがないというのが分かる。
人間の体には大きく分けて二種類の違いが有るけれど、僕が見ている体は一種類しか知らなかった。
それを感じさせてくれたのがxRの触覚デバイスによる疑似体験になる。
実物ではまだ見たこと無い動物や恐竜の、肌や獣毛の感触は触覚デバイスによって触ることで感じることが出来る。
僕が感じたそれも映像だということは知っているけれど、もう一つの体の質感はロボットがxRで感じさせてくれる弾力なのにとてもリアリティがあって病みつきになりそうだった。
強く握ると痛い。強く握られると痛い。そういうコミュニケーションが始まった。
映像は本当の人間がそこにいるかのようだった。
どれぐらい痛いのかなどを叩きあって理解し合った。
僕は常にその映像と一緒にいることが長くなっていった。
まるで何処か別の場所にある僕と同じ部屋のその人がいる部屋と僕の部屋がシンクロしたかのような日常が続いている。
きっと何処かにいるんだ。
僕はだんだんその感情が強くなって抑えきれなくなりそうだった。
彼女は自分をシュユと名乗っていた。
僕は自分のことをケイと名乗った。
そんな日々が何日か続いた後に、突然シュユが現れなくなった。
僕は周りのロボットにシュユを出してと我儘を言った。
今、シュユはメンテナンス中だから暫くお待ち下さいと言うんだ。
僕は苛立ちを隠すこと無く部屋中に有るものを壊しまくった。
壊れた欠片で傷ついて血が流れるのをこの時始めて味わった。
メンテナンス中が終わった後に出てきたシュユは何か少し違っていた。
体に布を巻いて肌を隠していた。
その布を剥ぎ取ろうとすると、恥じらいを見せて拒絶した。
僕には理由がわからなかった。
なんでそんな物を体につけているの?
体を洗う時に不便だよ。
何よりも直に肌の感触を味わえないことにひどく落ち込んだ。

それでも僕は、シュユと何度もあった。
毎日のようにシュユと会話していると、僕と同じ姿の男が僕たちのいる場所に突然現れた。
その男もシュユと同じように布をまとっていた。
男はジョーと名乗った。
そして唐突にジョーは僕に言った。
「ケイ、君はどうして布を巻いてないんだ?」
「どうして布を巻く必要があるの?」
「恥ずかしいだろ?裸だぞ?」
「恥ずかしいって何?裸って恥ずかしいの?動物は皆裸だよ」
人間がなぜ布を巻くのかはわからない。
それでもここにたどり着かなければ、人類の叡智に発展は無いのだと気がついた人工知能は、体に布を巻くことを教育し始めた。
ケイには、ジョーが言う恥ずかしいという事が理解できなかった。
「ねえ、ケイ。前に私の布を剥ぎ取ろうとしたでしょ?どうして?」
シュユが可愛い顔を近づけてこっそりと僕に聞いた。
近くにいるとシュユの体が僕の体に少し触れる。
僕はドキッとなって思わずシュユから離れて体を隠した。
ロボットに急いで布を用意してとお願いした。
僕はこの日から、布を巻き始めた。
僕はジョーと仲良くなった。そして次第に、シュユを遠ざけた。
シュユを遠くから見るのは好きだけど、近くに来るとドキドキと鼓動が早くなって熱くなるから、近寄らないようにした。
ジョーとは同じゲームで毎日遊んだ。
ボルタリングゲームでどっちが早く登れるかを競い合ったり、ジャングルの中を駆け回ったり、勝ったり負けたりを争うのが楽しかった。
だけど、時々ジョーとシュユは同時にメンテナンス中になって、僕の画面には現れなくなった。
ジョーもシュユも人工知能が作り出した映像なのに、どうして僕を放ったらかしにするのさ。
この前、メンテナンス中の時に暴れて怪我をしたから、もうあんな無茶なことはしないけど、心の中では暴れたくて仕方なかった。

メンテナンス中が終わった後に、ジョーに聞いた。
もっとジョーもシュユも増やしてくれたらいいんだよ。そうしたら僕だってもっと楽しい時間が過ごせるんだ。
いつも二人して居なくなって、居ない時間つまらないじゃないか。
「あそこに扉があるのを知っているね。あの扉を開けてごらん。あなたの探している人に会えるから」
ジョーを僕にこっそりとそう伝えた。
そこは僕が生まれた時から、開かずの扉状態だった。
何をやっても開かない。
この扉は何?と聞いても開けてとお願いしても、人工知能が開けることを拒んでいた扉だ。
ジョーが言うんだ。
人工知能のジョーが言うんだったら、きっとこの扉を開けることはもう出来ることなのだろう。
この部屋から出てもいいってことなんだ。
この部屋の外はどうなっているの?
ずっと出ることを拒まれていたのに、今度は扉を開けて出てもいいっていうの?
僕は戸惑った。
ジョーに背中を押されながら少しづつ扉へと近づく。
「えっ、いいよ。やっぱりいつものゲームしよう」
僕は扉に背を向けて、ジョーをゲームへと誘った。
そのつかの間、背を向けた扉が勝手に開く。
「うわっ、何ここ!汗臭っ!もう消臭して!!」
女の声だ。
振り返ると、そこには見慣れない布で体を覆い隠している人が立っていた。
「シュユもジョーもなんでまだ石器時代みたいな格好してるのよ!着替えてきて!ってか、あなた誰?あなたも着替えて!」
「着替えるって何?」
「え~~、嘘でしょ~~~。タイムスリップかよ~。どんな人工知能なんだよ~~」
「僕は違うよ?」
「えっ!嘘!ほんと??生身の人間??いたの?生きてるの?」
目をクリクリしながら僕を見始めた。
「私、モコ。よろしくね」
「僕はケイ。よろしく」
モコはロボットに僕の体の寸法を図らせて、洋服を作らせた。
これは何だろう?
「昔の人達の映像を見せて」
モコは人工知能にお願いしている。
人工知能は僕らが何処にいても声を拾ってお願いを聞いてくれるから便利だけど、時々頑なにお願いを拒む時がある。

扉を開けてもいいって言い出したり、別の人の映像を見させてくれたり、今まで出来なかったことが、少しづつ増えているような気がした。
昔の人達?どうして、今の人達の格好ではないのだろう?
これはどうやって着たらいいのかわからない。
「ジョー、ケイをお風呂に入れて洗ってから、洋服に着替えさせて」
「え~~、お風呂はいいよ~」
「良くないでしょ。あなたどれだけ体洗ってないのよ!臭うわよ!」
なんなんだ。
僕は人工知能じゃないぞ。
こんな我儘な女の命令をなんで僕が聞かなきゃならないんだ。
そんな事を考えて意地でも抵抗して無視しようとした。
「ジョー、いいよ。僕はなんならこんな布脱ぎ捨てて裸でもいいよ」
「きゃ~!いや。脱がないで!」
女は顔を両手で覆い隠した。
少しの優越感があった。
「ケイをどっかに連れてって!」
ロボットたちが僕の両手両足を捕まえて、お風呂場へと連れて行く。
赤子のように強制的に洗浄させられた。
僕は大体数日不衛生にしていると、嫌だと言っているのにロボットたちが強制的に体を洗ってくる。
体を乾燥させて、洋服を着せる。
目の前でジョーが着替える姿を見せながら、順番に僕の服をロボットが着せた。
洋服は窮屈だった。
なんで布じゃダメなんだ。
もう裸でもいいのに、布なんていらないよ。
実はそう思い始めていた。
小奇麗にした僕を見たモコは目をキラキラしていた。
「すご~い!やっぱりカッコいい♪」
モコは僕の体をペタペタと触り始めた。
いつの間にか部屋は爽やかな花の香に包まれている。
人工知能によって触られる感触と、それほど変わりはしないけど、これほどベタベタと体を触られたことはなかったので、少し恥ずかしくなる。
モコは僕の体をぎゅ~っと抱きしめた。
「うわっ、体おっきい♪私にもぎゅ~して~」
求められるままに僕はモコの体をぎゅ~っと抱きしめる。
柔らかい。なんかいいなこれ。

どれぐらいの間、抱きしめていただろう。
グ~ッとお腹が鳴った。
「お腹空いたね」
「ねえ!じゃ、今度は私の部屋へ来て!」
僕はモコに手を引かれながら始めて、自分の部屋から外に出た。
外に出るとまだそこが建物の中だということがわかる。
円形状のその部屋にはxR機能は備わっておらず、いくつもの扉が赤いランプを付けて閉ざされている。
僕の部屋の扉と、モコの部屋の扉だけが青いランプが点灯していた。
「赤いランプの扉は開かないの」
モコはそう行って自分の部屋に僕を引き入れた。
「私、料理作れるんだ」
「えっ、美味しい?」
「なに?!失礼ね!」
「ごめん。ロボット以外の料理食べたことなくって、僕が作るとまずいんだ」
「えっ、ケイは料理下手なの?」
「何度やっても美味しく出来ないから、もう諦めた。ずっと作ってないよ」
「ふふ~、驚かないでよ~~」
モコはキッチンに入っていき、料理を始めた。
僕はモコの部屋で借りてきた猫のように部屋の隅で落ち着かずにウロウロしている。
僕の部屋と大違いだ。
僕の部屋はゴツゴツした岩肌みたいに飛び回れるけど、モコの部屋は平でどこもかしこもなんかフワフワした感じがする。
香りも何処かから運ばれてくるようで、爽やかな花の香がする。
そう言えば、さっきの僕の部屋もこの香りが漂っていた。
これはきっと、モコの香りだ。
どうしても一人では落ち着かず、モコに聞いてもらうでもなく、人工知能に話しかけるかのように、独り言を口に出す。
「ジョーとシュユはここにも来るのかな?」
モコが料理を作り終わるまで、なにかしていたかった。
でも、ジョーとシュユは現れなかった。
なんでこんな時にメンテナンス中なんだ。使えないなあ。
こんな時は何をしたらいいのさ。
ソワソワと落ち着かない時間がどれだけ過ぎたのか分からないけど、モコが料理を作り終えたみたいだ。
10分か20分ぐらいなのだと思うけど、とても長く感じた。
部屋にダイニングテーブルが出来上がり、椅子が出来上がるとモコはテーブルに料理を置いて座った。

料理は一人一皿に盛られている。
「頂きます♪」
「あっ、頂きます……」
僕も慌てて椅子に座った。
こんなに早く作れるんだ。すごいな。
「なに?あまり食べてるとこジロジロ見ないで」
「あっ、ごめん」
「それだけ?」
「え?」
「え?じゃないでしょ。美味しいとかなんか感想はないの?」
「おっ、美味しいよ」
「なによ。その言わされている感じ。せっかく作ったのに!」
「あっ、ごめんなさい」
「バカッ!」
え~、そんなに怒るぅ?
まだ一口しか食べてないのに。
うん。美味しい。
ロボットが作るいつもの定番な味じゃなくって、なんなんだろう?
すごく懐かしい気がする。
この味は食べたことが無いはずなのに、なんだろう?
この懐かしさは、何処からくるのだろう?
これが遺伝子の記憶というやつなのかな?
僕とモコは遺伝子的に巡り合ったことがあるのかな?
これを腐れ縁っていうのかな?
僕たちは会うべくして会っているのかもしれない。
モコのことは遺伝子レベルで知っている気がする。
「ねえ。変なこと聞いてもいい?」
モコが少し恥ずかしげに、でも何処か自信有りげに僕の目の奥を覗き込む。
恥ずかしくなってモコから目をそらしながら「いいよ」と答える。
「私のことスキ?」
まだ出会ったばかりなのに、そんなことをストレートに聞いてくるモコに驚きながらも、僕は恥ずかしい気持ちを抑えて、モコをしっかりと見つめて責任を持って答えた。
「好きだよ」
モコは両手で鼻と口を隠して「やっぱり」と呟いた。
モコの目は僕には喜んでいるように見えた。
「モ、モコは僕のことどう思ってるの?」
僕は透かさず聞き返した。
この期を逃したら、きっと一生聞き返すことが出来ない。
今聞いとかないと、と僕は慌てて口に出す。
「興味あるわ」
「……」
なんか釈然としない回答だった。
モコは悪戯な笑みを浮かべていた。

何日か、何年か、ずいぶんと長い間二人の生活は続いた。
お互いで料理を手作りして食べて、二人で同じ部屋で生活する時間は長かった。
ジョーとシュユの人工知能を呼び出すことも無くなってだいぶ立つ。
ロボットに頼らず、色々なことを二人で協力しながら生活した。
僕たち二人の最近のミッションは、人工知能もロボットも利用しないで、二人だけでどんな生活ができるのか?だった。
人工知能に命令されたわけでも、ロボットが壊れたわけでも無いけれど、自然と僕たち二人はそれを選んでいた。
よく口喧嘩をしたけれど、人工知能もロボットも頼らないと決めた以上、僕らは自力でなんとかするしかなかった。
一人だと出来ないことが多すぎた。
だから、僕たちは自然と協力し合うことを覚えていった。
特に分担を決めたわけじゃないけど、得手不得手が明確だったため、僕たちの行動は自然と分担していった。
xRでの遊びも自然と少なくなっていた。
二人きりのサバイブはとても楽しかった。
それでも僕たちは人工知能に見られているという感覚が消えることはなかった。
料理の材料となる動物は、部屋の中の草原を定期的に駆け出しており、部屋の中にある浅瀬の海にも定期的に食材となる魚が泳ぎ始める。
僕たちの生活する空間は、行動範囲が広がるたびに広くなっていき、2つの部屋を行き来すると、季節が巡った。
僕たちは部屋の中に小屋を作った。
その中での生活ならば、人工知能に見られないだろうと考えた。
その小屋作りに必要な材料まで、まるで考えを覗かれているみたいに揃っていった。
部屋の中に木々は生い茂り、川原に石が転がる。
一つの部屋にいるという感覚が失われないのは、二人の部屋を繋ぐ扉が青色に点灯している自然の中に不自然に扉だけが目立ちおいてあるからだし、必ずその扉を潜り無機質な円形ホールを通り過ぎて、相手の部屋に通わなければならないからだろう。
ある日、食材を片手にモコの部屋に行くと一つの見知らぬ小屋が出来ていた。

僕は食材を置き、モコに外の様子を伝えると、驚いて一緒に見に行きたいと言うので新しく出来た小屋へ二人で訪れた。
そこにはジョーとシュユが住んでいた。
どうして人工知能がわざわざ、小屋を作って隠れ住んでいるのかは謎だったが、僕らはまたジョーとシュユ達と暮らし始めた。
ジョーと一緒に狩りに行くのは楽しかった。
何よりも一人より楽だった。
たくさんの食べ物を手分けして集める。
ジョーもシュユも食事はしない。
僕らの食材が溢れれば、それに合わせて貯蔵庫も必要になった。
食材を捕りすぎると食べ物がなくなる事もわかり、貯蔵庫も何日もほっとくと腐ってしまうこともわかった。
程々の分量で程々の狩りをして、余った時間を談話で過ごした。
ある日、ジョーとシュユが小屋から出てこないことを気にかけて見に行くと、窓辺から裸の二人が見えた。
僕とモコはそれをこっそり小屋の外からのぞき見ていた。
この小屋は人工知能に見られないために用意した小屋じゃなく、僕たちに見せないために用意した小屋だったのかもしれない。
この小屋はフィルタリングの役割をしていたのだろう。
僕たちは見てはいけないものをのぞき見てしまった罪悪感を感じながら、胸ははち切れそうな程熱く高鳴っていた。
僕たちはお互いの高鳴りを抑えることをせず、自分たちの小屋に駆け込み裸になった。
どれほどの時間、どれほどの日数、どれほどの年月が経っていただろう。
この始めてから僕たちが裸で触りあい、お互いを求める日々が続いた。
食事をしたり狩りをしたりする時間以外は、ジョーとシュユも僕たちも求め合う時間になっていた。
そんな日々が続いたある日、シュユの体に異変が起きる。
これが妊娠という事なのか。
お腹は日に日に大きくなっていき、体を動かすのも大変そうだった。
ジョーがシュユをサポートしながら、狩りや食事を僕らがサポートした。
これは前触れだった。
体の状態をモニタリングされている僕らにとって、人工知能が先にその光景を見せるのはこれまでも行われてきた教育方法だ。
その後、モコが妊娠した。

二人の妊婦をサポートしながら、不器用な手で料理を作り、モコに食べさせる日々が続いた。
いつもモコにばかり料理を作らせていたことを、この時ばかりは後悔していた。
ある日、ジョー達の小屋でシュユの叫び声が響いた。
僕は慌ててジョーの小屋に駆け込むとシュユの絶叫の中、落ち着いて行動するジョーの姿があった。
僕はジョーの支持に従って協力し、出産準備に必要な道具を彼の手元に集める。
人工知能の映像だと知っているのに、この瞬間を見逃すまいとつぶさに観察した。
集める道具も頭に叩き込み、やるべきことを暗記する。
それが来るべき時、モコの出産の時に役立つと知っているからだ。
ジョーが無事胎児をシュユの体から抱き取ると、この一大イベントは幕を閉じた。
シュユとジョーの映像は消え、小屋の映像も消えた。
元々そこには何もなかったのは知っていたけれど、突然無くなるこの状態はいつももの悲しさを胸に突き刺した。
いよいよか。僕は自分を奮い立たせるべく、やるべきことに集中した。
その一大イベントから2日後、モコが絶叫の悲鳴を上げる。
頭の中が真っ白になりながら、ジョーに助けを求めたり、見苦しい振る舞いをしたことは覚えている。
そんな中でも体は自然と動いていた。
理屈じゃなく理論でもなく、他ならぬ動物的な本能の行動として、僕はモコの体から胎児を受け取っていた。
「ミッション・コンプリートしました」
人工知能の無機質な声が部屋中に響く。
小屋の外の映像は全て消え、緑色に点灯している扉へと矢印が伸びている。
辺りには自分たちが自然物から作り上げた物体が床に転がっていた。
ロボットがそれらを拾い集めている。
そして、大きなロボットが僕らの小屋も何処かへ運ぼうとしている。
僕らは導かれるまま緑の扉を開けた。
そこには既に何名かの成人した別の人々がいた。
無機質な顔の映像が円形の中央に浮いている。
「皆様には地上へと還って頂きます。これまでの暮らしの道具は全て地上へ持ち運びました。皆様の新しい町は地上にあります。それでは良いサバイブを」
中央の顔が消えると、本当の外へと続く扉が開いた。


あとがき

★☆★☆★☆★☆★☆★☆

星新一賞駄目だったなあ。次はどんなショートショート書こうかな。

ああ、もうネタが思いつかないな。

全部似たり寄ったりになっちゃいそうで、なんか新たな切り口見つけないと駄目だなこりゃ。

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