アクエリアスの章

第11章 アクエリアスの章 パートⅠ

シャイン「貴様!メリク様から与えられた知性を無駄に使いやがって!」

スピカの元へ辿り着く前にアルキバが、シャインの両足の爪で取り押さえられた。

アルキバ「カカカ。俺がどうしようが俺の勝手だろ。メリクの呪縛が解かれたというのに、お前はなんでまだ従う」

そこへシャインの声を聞いた大鷹のタイルが到着する。

タイル「おとなしくメリク様の意思に従え!」

アルキバ「お前までもか。なぜこの自由な空を満喫しようとしないんだ。勿体無い」

アルキバの渾身のクチバシの一撃がシャインの足に襲いかかり、シャインは捕まえたアルキバを解き放した。

アルキバ「メリクを連れてこい!良いものを見せてやる!」

アルキバは叫びながら、二羽から遠く離れた。

タイル「この先には、多くの運命の石があるようだな。シャイン」

シャイン「ああ、俺も感じる。メリク様を連れてきたほうが良いかもしれない。メリク様の元へ戻ろう」

・・・

青龍メリク「その石を我に返して己の重荷から開放されよ」

青龍メリクはその緑青色に輝く体を執拗にラムが作った木々の壁に爪を立て引きちぎっていた。ラムの姿が見えたかと思うと、新しい枝木がその間を遮りラムの姿を隠す。

ラム「この石を渡すわけにはいかない!」

木の中からラムの篭った声だけがメリクの元に届く。

メリク「お前の下した選択が……本来のバランスを壊しているということに何故気が付かない!」

メリクの爪が木々を払い除け、ラムの腕をかすめるとその痛みからメリクの運命の石を地面に落とし木の檻から出してしまった。

ラム「しまった!」

メリクは素早く自らの運命の石を拾い上げ、口の中に放り込み飲み込んだ。

これでメリクの体は元通りの大きさに戻るはずだった。しかし、元の大きさに戻ることはなかった。ラムの周辺では、水瓶の精霊が力を持っているためだろう。

メリク「まあよい。もう一つ、我に必要な石がある」

飛び立とうとするメリクの足首に、ラムは精霊の力で木を巻きつけた。

メリク「我にこのような小細工が通用するとでも思っているのか」

メリクの足を縛り付けていた木は、ゆっくりとメリクの足を離していった。

今まさに飛び立とうとした瞬間に、シャウラ王女達が到着した。

ラムの作っていた木の檻がなくなっているのを遠くから見ていたシャウラ王女一行は、メリクを捕らえるためにラムと同様に木の精霊の力を借りてメリクを木の檻の中に入れた。

その檻は、破壊されることもなく内側からゆっくりと開いていく。メリクの運命の石に対し、木の精霊の力はあまりにも無力だった。

ラム「取られた!」

ラムはシャウラ王女一行に、置かれている事態を短く伝えた。

そこにシャインとタイルがメリクの元へ飛んでくる。

三体は空高く舞い上がり距離を取るが、そこへ石つぶてが大量に飛んでくる。

メリク達は石つぶてを軽快に交わしながら上空で話し始める。

シャイン「メリク様、アルキバが単独行動を行っております。勝手に運命の石を集め始めました」

メリク「そうか、ならばアルキバの元へ行けば、目当ての石もあるのだな」

タイル「はっ、おそらくは」

メリク「タイル、北へ行ったファクトを連れてこい」

石つぶては徐々に大きな物となり、タイルにぶつかると、石と共にタイルを地面に叩きつけた。

石つぶては、ラムが放った精霊の力だった。

メリク「くっ、小賢しい!」

ラムの周辺に木々から伸びた枝が、体を縛り付け、首や手足を引っ張り始める。

ラム「ぐわっ」

早馬で駆けてきたアクベンスが、素早くラムに巻き付く枝に剣を突き刺しこみ切断する。

アクベンス「間に合わなかったか」

アルレシャ「遅くなってごめんなさい」

咳払いをして倒れ込むラムをアルレシャが走りより抱き支えた。

メリク「あやつは!倒したはず!」

ラムもちらりとジュニアを見る。

ラム「くそっ!メリクに間に合うのか」

メリクはジュニアを見つけると、怯えたように射程距離を取って更に高く舞い上がった。

シャイン「急いでアルキバの元へ参りましょう」

メリク「分かっている。急ぐぞ!」

メリクとシャインは東へと飛び去っていった。

シャウラ王女「ラム、大丈夫か」

ジュニアがタイルの羽根を掴み、身動きの取れない状態でラムを気にかけて集まるシャウラ王女達がいる場所に戻ってきた。

シャウラ王女「素早いな。ジュニア。あの青龍もお前を見て怯えていたようだったぞ」

皆がジュニアの手の中にいる大鷹に注目する中、息を吹き返し落ち着いたラムがジュニアとタイルを見ながら話し始めた。

ラム「青龍は、もう一つ運命の石が必要だと言っていた。空でどんな会話をしたのか、その大鷹に尋問すれば、何処へ行ったのか分かるかもしれない」

タイルは、ジュニアに羽根を掴まれた状態でジタバタと動き暴れるが、暫くすると諦めたのか力を抜いた。

タイル「俺が喋るかよ」

シャウラ王女「青龍は何を企んでる!運命の石を集めて何をしようとしているんだ」

タイル「メリク様は秩序を取り戻そうとしているだけさ。こいつ・・・」

タイルを掴んでいたジュニアが、タイルのクチバシを地面に押し当てて話すのを遮る。

アクベンス「待てよ!運命の石が必要だと言ったな。あの大烏やろう!」

ラム「アクベンス殿、あなたの精霊を解放してください!精霊ならばまだ間に合います」

アクベンス「分かった!精霊!!」

アクベンスは持っていた精霊の運命の石を空高く放り投げた。精霊の石は大きな水の塊を身にまといながら形を変えて蟹の姿に変わり、まるで歩道が川のように水しぶきを上げながら、あっという間に流れて去っていった。

アルレシャ「間に合うと良いのですが」

アルレシャはラムを介抱しながら精霊の言った先を見つめて呟いた。

シャウラ王女もまた暫く精霊の言った先を見つめる。

シャウラ王女「我々も急ごう。アクベンス、ラム。青龍の向かった先は分かるのか?」

シャウラ王女は動揺することもなく、冷静にアクベンスとラムに訪ねた。

ラム「おそらく!レオがこちらに戻って知らせてくれることと思いますが、アクベンス殿」

私の持つ精霊の石の力で、運命の石の持ち主が本当は誰の物なのかが分かる。アルレシャもシャウラ王女もまた、自分の石ではないものを持っている。ただ、その石はまだ手放してはならないことは感じ取れる。

そこにいるジュニアという男の子がいる事も、彼の石の存在も、私には分かるようだ。この先には何が待っていようか。私の選択は、間違えていないだろうか。

アクベンス「気配を感じる。アルレシャはラム殿を、大鷹は鳥の籠にでも閉じ込めておきましょう。我々も急ぎましょう」

アクベンス殿の言うとおり、今はみんなが自分の石を早々と獲得することが重要なのではないだろうか。

シャウラ王女「アルレシャ、ラム。共に来てくれるか?」

ジュニアがタイルを木の精霊で作った鳥籠に閉じ込めると、シャウラ王女の馬に飛び乗る。

私達はアクベンスを先頭に、東へと駆け出した。

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