「鞆」
走らせる車の窓から見える瀬戸内の海はスモーキーな翡翠色です。小さな波に朝陽の粒が絡まりながら翡翠色の海の底に落ちていく。海の底には空が眠っています。車は速度を緩めてカーブを抜けると。ジオラマみたいな港町の風景が見えてきました。いよいよの鞆の浦に到着です。鞆の浦の街とこれから行く予定の仙酔島は日本初の国定国立公園に認定された場所です。
各宗派のお寺が並ぶ寺町通りは沼名前神社の参道へと続きます。寺町通りからはずれにある最も古いお寺は最澄さんによって開かれた静観寺です。そして次に古いお寺は空海さんの開いた医王寺と納得の古さを染み染みと感じます。
また時代が移り京を追われた足利義昭がこの鞆の浦を拠点に築いた勢力は鞆幕府と呼ばれていっとき栄えたようです。散策する先には坂本龍馬の隠れ部屋が残っていたりします。ちょっと歩いただけでも錚々たる歴史上の人物の名前が飛び出してきます。教科書でしか知らない人物がこの通りを何らかの目的を胸に闊歩していたのかと想像するだけでタイムトリップできそうな気持ちになります。
迷路のような細い路地に足をいれると。当時の面影を重ねるように手を加えた町屋風の建物がお店を開いています。もしかしたらもしかしたらですよ。あの物影から散切り頭が覗いているかもしれません。カフェのトイレは室町時代へ続く通路だったりするかもしれないので。要注意です。
キョロキョロしながら歩く街並みは。本当に知らない街なのでしょうか。もしかしたら私の忘れてしまった記憶を見つける。思い出を辿る今日なのかもしれない。Deja Vuな感覚がさっきから私の背中を追いかけてくるのは気の所為ではないのかもしれません。人が知らない場所へ行きたくなるのは何か大切なことを思い出したいからなのかな。
こんな事を書きながら。何も思い出すこともない私なのですが笑。
本殿脇にある池は本来ならたっぷりの水面に水草でも浮かんでいたのだろうに。すっかりと枯れてしまった池を見ていると。龍のため息が聞こえてきそうです。「やれやれ、また水飲み場が枯れたワイ。つまらんのう」なんて。
二礼二拍手一礼。鈴の音の無いご挨拶をすませると。静かな風が止むことなくそよそよとそよいでいます。高い場所にある神社だったことに改めて気づかせてくれる静かな風が吹いていました。
へぇー。本殿の真裏にあたる場所に宝物見っけです。
不思議と落ちない葉っぱからささやかに一滴が連なります。山からの湧き水です。さっき、枯れた池を見たばかりの心が潤います。
思わず手のひらで味わうと。微細な振動が指先から伝わります。液体でありながら粒子を思わせる御神水を指先からコクコク飲み干しました。
エネルギーチャージも完了しました。いざ、仙酔島に出発です。次回は島めぐりを綴りたいと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?