【詩】哀歌
おい、火星の乾いた大地の奥底にひそむ、名もなき兵士たちよ。
埋もれたまま弔われることもなく、
たまに地表に顔を出してひゅうと笛を鳴らす。
ここが地球じゃないってことを、覚えているかい?
ここがお前さんたちの祖先の血とつながりがないってことを。
あの太鼓だ。静かに近づいては遠ざかる。あれはお前たちなのかい?
火星人の幻影だって、空とぼけた連中は噂する。おいらは知らないね。
何十年昔のおいらたちの愚行について、歴史書だって口を閉ざしている。
嘘の上塗りはもうたくさん。
誰と戦ったかすらわからず仕舞いの、ああ、名もなき兵士たちよ。
体系化された書を紐解いたって、数年すれば通説が覆されてゆくこの時代。
地球のことはもう忘れちまいな。ここが火星だってことも。
きっと誰もが誰もを忘れてしまう。
何百年なんて、あっという間に飛び過ぎてしまうさ。
その頃には、火星もいい時代が来ているだろう。