花が咲くのを待てばいい
先週末、渋谷BYGでのハッチハッチェルバンドのワンマンショーから1週間。
まだ何となくぼんやりとその余韻にひたっている。
わたしがあんまり好きだ、好きだとしつこく言うせいか、彼らのことを知らない人から「どんなバンドなの?」「どこが好きなの?」とよく聞かれる。
そんな時、なかなかうまく答えられない。でも、今日はちゃんと言葉にしてみようと思う。
ハッチハッチェルバンドの素敵なところ。
ま ずは、メンバーがステージに揃い、演奏が始まると、一瞬にして生まれる怪しくて、面白くて、あたたかい、独特の空気。どんなライブハウスでも野外でも、す ぐにそこは、20世紀のヨーロッパのサーカス団というか、昭和の日本の演芸会場というか、まぁ、とにかくハッチハッチェルバンドワールドとしか言えない、 彼らの色に染まってしまう。
それは、世界でたった一つの、音の出る絵本を見ているような、とくべつな景色。
残念ながら彼らは8月のステージを最後に活動休止を発表。
だからわたしは、このお気に入りの絵本を、しばらく本棚にしまっておかなくちゃいけない。
先日の渋谷では、ライブの間、そんな寂しさが頭をよぎって、何度か泣きたい気持ちになった。その夜も彼らのパフォーマンスは楽しくて、愉しくて、笑うのに忙しくて、涙なんて出る暇はなかったけれど。
そう、彼らの音楽は「楽しい」。
なんといってもこれが、ハッチハッチェルバンドの最大にして最強の魅力。
むずかしいことなんて、考えなくていい。
聴いてると気持ちが軽やかになって、つらい気分、かなしい気分も、ゆるゆると溶けていく。
ライブの後は、「色々あるけど、明日もがんばろ」って気持ちになる。
でも、それは負けてる人にがんばれって肩を押す、「人生の応援歌」っていうのともちょっと違う。
彼らの世界にはたぶん「勝ち」とか「負け」といった価値観は存在しないから。
ハッチハッチェルバンドにとって、人生は勝ち負けを争う徒競走じゃなく、つなわたり。
つなわたりだから、誰もが時には落っこちる。
たとえ落ちても、笑って、やり直せばオールオッケー。
どんな人間も、どんな人生も、まるごと肯定。
もしかして人類の最初の宗教は、こんなものじゃなかったのかしら、と思うこともある。
ステージの上で、時にサーカスの団長(with 鞭!)、時にイタリアの道化師みたいに振る舞う、ハッチハッチェルバンドのリーダーのハッチさんのつくる曲は、笑っちゃうほど楽しくて、自然に心が(身体も)踊ってしまう。
でもよく聴くと、奥の方の見えないところに、フルーツの種のように小さな痛みがそっと隠れている。
傷ついたこと、傷つけたこと、落ち込んだこと、人を恨んだこと、そんな痛みの種から生まれているから、このフルーツはあまくて、優しい。
もちろん甘い果実は、種なんて気にしないで、まるごと食べてしまえばいい。
おいしいものをみんなで仲良く分けあって、楽しくいただいて、幸せになる。
それがハッチハッチェルバンドのライブ。
辛いことがあったなら、いったん全部、地面に埋めて、花が咲くのを待てばいい。
花が咲いたら、みんなで陽気に歌えばいい。
そう教えてくれるのが、彼らの音楽。
だからこそ、明るさも、くだらなさも、バカバカしさも、いろんなものを突き抜けて空にのぼった太陽みたいに、きらきらと輝くのだと思う。
(2013年8月)