SS:孤高の月
凍てつく空気。こぼれた息は白く。
静かな雄叫びが闇夜にひびを入れる。
振り返ると、天を仰ぐ彼の姿があった。
気高く、誇りに満ちて。
しかし、どこか寂しく、物悲しく。
闇夜に浮かぶ白い月のように私には思われた。
せめて、彼のそばにいることができるなら。
少しはその痛みも苦しみも、分かち合えるのに。
それを決して許さなかった彼の強い瞳が、輝く月のように凛としていて。
私は、ただ、その場を後にするしかなかった。
彼の頬に一筋、流れるものが見えた。
けれどそれは、月の光が彼の肌の上で踊ってみせただけだったのかもしれない。
彼の孤独を癒やしてくれるものは。
彼の心の空白を埋めてくれるものは。
この世界のどこに眠っているのだろう。
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