SS:現在を生きる君、あの日のままの僕。

こんばんは。
noteにSSを公開するのは久しぶりすぎて緊張(笑)。
500文字程の掌編ですので、読了時間は3分程度かと思います。
よろしくお願いします( ´ ▽ ` )ノ

SS:現在を生きる君、あの日のままの僕。

 一枚の葉書が届いた。
『結婚しました』と書かれた葉書には、幸せそうに笑うカップルと新居の住所、そして「元気ですか?」と隅の方に丁寧な文字。

 あの日、彼女は泣いていた。
 桜が舞い散る中、ただ静かにはらはらと。
 泣かせてしまったのは僕だ。
 その涙はとても美しく、彼女は桜の花びらのように頼りなげで。
 ぎゅっと抱きしめてやりたい気持ちに駆られたけれど、それはもうしてはいけないことだとぐっと堪えた。
 そうして改めて思い知った。
 僕は、彼女が好きなのだと。

 それから幾度かの春を過ごした。
 桜を見るたび、あの日の彼女が目の前に甦る。
 いつまでも未練がましく、僕は忘れられずにいた。
 別れを告げたことは今でも正しかったと思っている。
 ただ、彼女を傷つけたことを何度も何度も悔いていて。
 僕はあの日からずっと前に進めない。
 泣いている彼女の前で立ち竦んだまま。
 
 葉書の中の彼女の笑顔は、僕が久しく見ることの出来なかった幸福感に包まれていて。
 もうあの日の彼女はいないのだと告げていた。
 僕がつけた傷跡も、きっと誰かが癒してくれたのだろう。
 僕はただ祈る。君に幸あれと。
 そして前へ進もう。君がそうしたように。

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