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雪月 音弥
2021年5月22日 19:39
古びたピアノ。 少しだけ音が歪んでいる、そのピアノの前で。 彼女は僕の音を、とても良い、と言った。 少し熱のこもった声、顔には満ち足りた笑顔。 音楽家の両親も、姉も、僕には見込みがないと言いたげだった。 なにより僕は、自分の音に失望していた。 父や母、姉の音は、あんなにも澄んで、天高くまで昇りそうなきらめきと、波が空間のすべてを洗い流すような熱情で溢れているのに。 僕の音は、ぎこ