![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/77646076/rectangle_large_type_2_1c3d0cbbeb1e3c54820d776c329081b4.jpeg?width=1200)
〈創作短編〉ひとりとビール。
〈本編〉
どうしようも無く、汚いくせに
どうしようも無く、綺麗な映画だった。
浮気とか不倫とか反社会的だったとしても
結局愛は愛で、好きは変えられない。
ただ一生の安定と一瞬の幸せは
同じ土俵には上がれないまま終わる
ハッピーエンドはない、寂しいエンドロール
主題歌の最後のフレーズが流れ始めた
なんとなく映画の背中を見送るのが嫌で
テレビの電源を落とした
真っ暗な画面にはお世辞でも可愛いとは言えない
疲れきった女の姿が映った。
実家の自分の部屋より小さな1LDKの家
冷蔵庫にはさっきの映画の主人公ように
冷えたビールが完備されている。
重い腰を上げてキッチンに歩いていく。
何かが倒れる嫌な音がして振り返ってみたけど
なんの音なのかさえも分からない。
最後にリビングの床を見たのはいつだろう。
そんなことはどうでもいい、喉が渇いた。
プシュっと音を立てて缶が空く。
20歳になるまでお酒は飲まなかった。
もしも、を考えていつも遅れをとる私だ。
高校生の時に親友が何事も無かったように
ほろよいを持ってきた時は本当にびっくりした。
今頃どうしてるのだろう。
誰とも連絡を取らなくないのに
何のために1日10時間もスマホを見ているのか。
インスタグラムの3桁越えのフォロワーは
何故1人もDMの通知を鳴らさないのだろう。
嫌なことを考えていたら
あっという間に空になったビールを見つめて
ふと頭に浮かんだ名前があった。
下の名前だけ、苗字も顔も知らない。
でも私の1番の青春の相手だった、
ネット上のつながりでしか無かったあの人の名前。
慣れた手つきでスクロールしたLINEのトーク履歴に求めたその文字を見つけた。
きっとお酒のせいだった。
私にかける勇気なんて今まで無かったから。
さっきの映画のせいじゃない。
別に私たちと主人公たちは似てないから。
「もしもし」
少し前より嗄れた声がスピーカーから除く。
確かに安心した私がいた。
都会の波に飲まれて変わってしまった私が
いつから忘れていたか分からない
鼻がつんとする感覚を思い出した。
「もしもし?久しぶり」
精一杯背伸びをして、少し早口でこぼした。
熱くなった目頭は気のせいなんだ。
言葉のキャッチボールがぎこちなくて
ゆっくり進む時間が、無駄に長い間が、
私を不思議と溶かしていく。
「うん、寂しくでもなった?」
「馬鹿、そんなんじゃないよ」
「じゃあ、どうしたの?」
「どうしたの、って言われてもなぁ…」
時折脳裏をかすめる君が強く現れたから。
まだ君に思いをひとりよがりに寄せているから。
いつまで経っても忘れられないから。
「…映画見て、あぁ、君だって思ったから」
「ん?」
「あぁ、君だって」
「はぐらかさなくてもいいのに」
「ふっ、嘘じゃないよ。ほんとに」
不器用なひた隠し。伝わらなくていいから。
私より4年先を歩いているだけなのに、
生きている世界が違うみたいに余裕な大人。
だから今日は精一杯君を困らせたいと思う。
まだ子供な私なりの悪あがき。
「ねぇ、会わない?」
お酒の魔力はたまによく分からない勇気を与える。
君から帰ってきた言葉に私の目から涙が流れた。
〈後書き〉
最後までお読みいただきありがとうございました。作者の音葉心寧です。少し題材にした作品について最後に書かせていただきたいと思います。
ここでの映画は「明け方の若者たち」です。
見終わったあとにとても感性を揺さぶられて半場勢いで書いた作品なのですが、やっぱりいいものに触れると私も!ってなるものですね。笑
生きるのは難しい。でも、その難しさに縛られて動けなかったら結局また取り残される。そんな現代の悩みによりそうような映画でした。
いつまでも子供で、馬鹿に生きていたいな。
宜しければいいねやTwitterのフォロー等よろしくお願いします。
2022.06.02 音葉 心寧