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〈声劇台本〉「全部、夏と香水のせい」

《本編》

「全部、夏と香水のせい」・男性1人用台本

終電を見送った深夜のプラットホーム。
夏に似合わない甘ったるい香水が
僕の鼻を刺して喉を疎ましくさせる。
ほんの少し背伸びをして
その香りを纏った君を抱き寄せた。
頭の働きが鈍くなって
自分の心臓の音が大きくなっていく。
彼女の不規則なリズムが伝わって
どうしようもなく生を感じて、愛を感じて、
でも後者は報われない一方通行だった。

これから君が言うことを悟って
「話さなくていいよ」と先回りをする。
結局返ってきたのは、一番聞きたくない言葉。
耳元で囁かれる「ごめんね」の4文字。
香りが目に染みて、目頭が熱くなる。
すべては慣れなくて気持ち悪いこの香水のせいだ。

夏は嫌いだ、僕には似合わないから。
僕が嫌いだ、君を幸せにできないから。
君も、嫌いだ。
だって、きっと、忘れられない香りを残してく。

やっと慣れた嗅覚に少しの安心感を覚えた頃、
彼女の体が離れていく。
さっき止めたはずの言葉を放って、
ぎこちない笑顔で背を向けて去っていく。

弱々しく伸ばした腕の間を夏の風が通り過ぎた。
深夜の駅に漂う嫌な匂いを感じてしまうのは、
きっと、全部、夏のせい。

《後書き》

最後まで読んで頂きありがとうございます。作者の音葉 心寧です。
「夏に似合わない甘ったるいの香水」
この台本の題材はなんと、リア友がテスト中に離れなかった言葉です。笑どんなエモい頭してんねんと思ったけど、私に教えてくれるあたりとても可愛くてそのまま書いたメモを推敲して台本に落とし込みました。
私は割と甘い匂いは苦手です。満員の女性専用車とか、ほんとうに気持ち悪くなってしまいます。でも香水って自信になる材料のひとつで、初めてお店に行った時「私、女の子してるな」って嬉しくなったことを覚えています。数ヶ月前ですが笑
いつか自分がするかもしれない大人の恋愛。甘かったはずの、気持ち悪い、ある男女関係のお話。この主人公の背景は読者の皆様に授けます。

2022.06.21 音葉 心寧

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