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《声劇台本》小さな機会と電波線

本編

小さな機械と電波線

手の代わりに耳を繋いで、散歩をするのが好きだった。
姿が見れない距離にいても、愛されていたと思う。
そんなことを考える隙もないくらい、
あの時の私には余裕がなかった。

身体の温もりに触れたというよりも、
心の温かさに包まれていた恋。
姿が見えない時間が多くても、
言葉で寄り添いあった。

ごめんねよりありがとう、
頑張れより頼ってって伝えたかった恋。
自分の中の小さなルールが増えて、
自分で抱えきれなくなった。

いつも余裕がなかったから、
ぶつかる前にお互いに諦めた恋。
次はもうダメかもを繰り返して、
その何十回目かで終わってしまった。

朝が苦手だったのに、あなたが早起きだから、
青空の下を歩くのが好きになった。
送る相手もいないのに、スマホを上に構える。
フォルダーの名前は、まだ無題で、
2つとない空模様が毎日溜まっていく。
いつかあなたが言ってた、電柱が僕らを繋ぐ橋なんだって。
私たちの愛を載せるには、細すぎたんだね。
なんて、今更ながら言ってみる。
些細な幸せを分け合いたかった恋だった。
でも、それが一番難しかった。

この線を辿れば、あなたに会える。
未来に出会う誰かとも、きっとこの電波線で繋がってる。
私は空の写真に雰囲気をのせる、この電柱が好きだ。

諦められるかなんて分からないけど、
忘れられるかなんて分からないけど、
私は強い。孤独を抱えて人は生きる。

もう繋がらない耳にイヤホンを指す。
聞こえてくる音楽に身を任せ、私はまた歩き出した。

後書き

記憶のうちでは初めて、人の恋愛を元に台本を描きました。上げ忘れてたなってふと思ってここに載っけてます。最初の表現が私的にはとてもお気に入りです。繋がって暖かくなれる時間って案外最初だけで、冷たくなったり、気づいたら切れてしまったり、人間関係って難しいですよね。
そんな繰り返しに疲れてしまった誰かに届きますように。

2022.08.07 音葉 心寧


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