編集後記 ozean-schlossリスペクト「エラリー・クイーン『ローマ帽子の謎』 ガバ推理編,推理解答・ヒント編」
「一つを除いたすべての因子を検討しつくして、なおかつ、与えられた方程式が解けぬときは、その一つの因子こそ、いかに非合理的に見えようとも、正しいものであらねばならぬ……」
エラリー・クイーン(ローマ帽子の秘密 より)
◇本記事について
本記事は、ニコニコ動画にて投稿させていただいた
「ozean-schlossリスペクト「エラリー・クイーン『ローマ帽子の謎』 推理編」」(2021/01/11投稿)
「ozean-schlossリスペクト「エラリー・クイーン『ローマ帽子の謎』 推理結果・ヒント編」」(2021/01/30投稿)
の編集後記です。
ozean-schloss様の動画「【うっかり文庫】エラリー・クイーン『ローマ帽子の謎』」(以降、元動画と呼称)、またその原作を含んだネタバレも記載します。
ご了承の上、お読みください。
◇『ローマ帽子の謎』」の犯人について
いきなりで不躾だが、犯人を述べさせていただく。
多分、これを知るのが目的で記事を覗いた人がほとんどだろう。
この作品の犯人は、
の内の⑤の人物である。
推理結果・ヒント編の動画内で申した通り、原作で犯人が判明したシーンで私はおもわずつぶやいた。
「どうして?」
私は推理動画で劇場支配人犯人説を唱えていた。そして、見事に外したのだった。では、以下より元動画での犯人の特定方法について語っていく。
ただ、強く注意を1点。
以下で述べるのは、私こと「ルイス足永」の推理である。
元動画制作者「ozean-schloss」様の想定した考えと一致しているかはわからないことを明言しておく。
(また、検索での表示のネタバレを避けるため、以下より犯人=下手人と表記します。)
◇推理の道筋
「推理結果・ヒント編」動画で示したようには下手人は以下の条件を満たす人物だ。
①計画性を持って犯行に及んだ。
②被害者の帽子というトラブルにアドリブで対応できる。
③警察が来たあとでも帽子を持っていても不自然ではない。
④被害者と自分の帽子のどちらかを隠せる。
また、元動画よりもう一つ条件を加える。
⑤逮捕後、劇場は閉鎖という結果になる。
以上の5つから、下手人は2人にしぼれる。
順番に述べる。
①「計画性を持って犯行に及んだ。」
この条件で下手人の候補から偶然劇場を訪れた人物は外れる。
多くの観客がそうだろう。これで、第一発見者や小悪党、弁護士などが外れる。彼らの中に動機を持つものもいるが、わざわざ劇場という特殊な空間を現場に選ぶ必要はないのだ。
②「被害者の帽子というトラブルにアドリブで対応できる。」
私の動画で映したように帽子はたたんで隠せ、現場より持ち出せる。誰でも可能だが、以下の目撃者の証言が下手人の候補を狭める。
下手人は「燕尾服の男」なのである。
さて、推理小説を少しでも触れた方は、ここである想像が浮かぶかもしれない。『下手人は男装した女性なのでは?』と。
しかし、この仮定は次の条件が否定する。
③「警察が来たあとでも帽子を持っていても不自然ではない。」
シルクハットをかぶるのは、当然男性である。そのため、女性は候補から全員外れる。
次は④であるが、先に⑤を念頭に入れると推理しやすくなる。
⑤『逮捕後、劇場は閉鎖という結果になる。』
メタ推理だが、示されたヒントなので利用する。
犯行後、劇場が閉鎖するとはどういうことか? 素直に考えると劇場関係者である。「劇場支配人」、「役者」、加えて「劇場の支援者」あたりが考えられるだろうか。
ただ、エラリーの証言より、「劇場支配人」は候補より外れる。
(注:原作ではもちろんより明確に候補から外れる理由が示される)
また、③までの条件で「劇場の支援者」である「財閥令嬢」も女性ゆえ候補から外れる。そのため、この時点で下手人の候補は「役者」であることが想像できる。
下手人を「役者」と想定すると④『被害者と自分の帽子のどちらかを隠せる。』という条件の解決が見えてくるのではないだろうか。
被害者の帽子は隠すことは困難である。
しかし、自分の帽子はどうであろうか。
動画内で以下が証言されている。
役者は舞台用のシルクハットを利用できる。
つまり、被害者の元を訪れ殺害した「燕尾服の男」とは、衣装を着こんだ「役者」。「自分の帽子」とは「舞台用のシルクハット」なのである。
これで、被害者の帽子の紛失の謎は解けたと言える。
役者である下手人は、犯行後、自分の帽子=舞台用シルクハットを楽屋に戻す。そして事件後、警察により荷物の検問がされている劇場から、被害者の帽子を被りあとにしたのだと。
以上で、下手人は「役者」そして「男性」という確たる考えが立てられる。そして、この場合あてはまるのは「劇団員:主演俳優」と「劇団リーダー:主演俳優」の2人だ。
◇最後の一撃?
さて、ここで推理は行き詰まる。なにせ、犯人は1人なのだ。
正直に言おう。
ここからは、若干、いや大分、視聴者にアンフェアになる。
原作を読んだ時も思ったことだ。
原作でエラリーが犯人を絞れたのは、恐喝の書類が入った帽子の発見の後。そしてこの証拠の詳しい情報は、読者に隠される。下手人の名前が思いっきり書いてあるので、結末のために意図的に隠そうする作者の意図が感じられる。
推理小説には「ノックスの十戒」や「ヴァン・ダインの二十則」という、守ることを推奨されるルールがある。その中で、両方に「事件の謎を解く手がかりは、全て明白に記述されていなくてはならない。」のルールが記されてる。本作は破りかけているのだった。
(必ずしも守るべきものではないが、読者へ推理できる、フェアであるというなら是非守ってほしいと私は思う)
では、どうやって元動画より下手人を断定するのかを以下より述べる。
(これから語るのも私の考えである。元動画制作者のozean-schloss様の考えと一致してるのかはわからないことを、重ねての強く明言しておきます)
以下のシーンを見ていただきたい。動画の冒頭の舞台シーンである。
左が「劇団リーダー:主演俳優」、右が「劇団員:主演俳優」である。
一見、ただのコメディシーンだ。だが、よく見て欲しい。右の「劇団員:主演俳優」は左の「劇団リーダー:主演俳優」に撃たれてやられている。
つまり、「劇団リーダー:主演俳優」は舞台の主役。そして、「劇団員:主演俳優」は脇役、少なくとも撃たれて舞台の劇中において退場する役だと考えられる。
(↑確かに「事件の前」と「事件後」は舞台から観客席に降りた役者はいなかった。)
以上より、舞台の最中、ずっと出番のあったと思われる「劇団リーダー:主演俳優」は候補から外れる。
よって、下手人は「劇団員:主演俳優」と決められる。
……ええ、正直かなり厳しいと思う。
ただ、原作も似たようなものなのでしょうがないだろう。
もっと、決定的なシーンがあれば、ツイッターなどで教えて欲しい。
とりあえず、以上で下手人の特定方法についての考えを閉めたい。
◇原作について少し
私は、元動画の下手人を知るために原作を読んだわけだが、実はこれが初のエラリー・クイーン作品だった。今回、読む機会ができ非常に良かった。
「ローマ帽子の謎」の内容は、元動画で軽く述べられた被害者の帽子の探索がかな~り長くあるのだが、途中のクイーン親子の会話が大変楽しい。
なにせ、必死に事件を解決しようとしている親の横で、息子エラリーは古書店の希少本の方が気がかりなのである。この掛け合いが絶品である。また、父クイーンからやや強引に行われる事件への論理についての親子会話も楽しい。この作品は、推理と調査の楽しさに重点が置かれたものだった。
ただ、これから読もうと思う方へ一言。本作品は、シャーロック・ホームズやアガサ・クリスティーの小説のような事件解決によっておこる情動的な感じは薄いので、そこだけは要注意である。
◇おわりに
本記事を持って、『ローマ帽子の謎』への考察は終わりである。
慣れないことに頭を使い非常に疲れたが楽しい日々だった。
そして、なによりうれしいことにozean-schloss様が新しいエラリー・クイーン動画を作成中とのことだ。
今度も謎かけまでなのかはわからないが、非常に楽しみである。
そして、今度は新しい推理挑戦者が出てきてくれることを祈り、本記事を閉めたい。