ジェフ千葉への思い(5)
(前回のあらすじ)
念願の初タイトルを手にし、クラブ、選手、サポーター全てが歓喜した2005年シーズン。来季はさらなる飛躍を遂げると誰もが信じていた。
明けた2006年シーズンは、私が一生忘れることのできない年となった。
タイトル?ナビスコ杯連覇はこの上ない喜びだ。
FW巻のドイツW杯出場?ブラジル相手によく戦ったし、世界最高の舞台に立てたことは素晴らしい。
ジェフの選手が大量に日本代表入り?思い描くことすらできなかった夢だ。
どの思い出もかけがえのない、喜ばしい出来事。
それがあってなお、私はこの年に起きた最大の出来事を、20年近くの時を経ても払拭できずにいる。
「オシムが・・・」
この一言が、ジェフの未来を完全に叩き壊した。
この投稿を書いている今も、この言葉を書くだけで深呼吸を必要とした。
あらゆる罵詈雑言、とても投稿できないほどの言葉の束を書き連ね、消した。
それほど、我を忘れるほどの怒りを覚えた。
発言者の名前は、書くまでもないだろう。いや、書きたくない気持ちが先行している。
日本サッカーの頂点に立つ男が、保身のために意図的に出した一言だと、今でも信じて疑わない。先人の構想したプロリーグ立ち上げの手柄を乗っ取った人間だ、それくらいはやってのける。
そして、ジェフを取り巻く世界は残酷だった。
メディアはW杯の惨敗から目を逸らすように、この「失言」に乗っかり、報道と世論を全て塗り替えた。
忘れられない出来事がある。
失意の中、居酒屋で飲む私に飲み仲間が笑顔で話しかけてきた。
「今度の代表監督、お前が応援するチームだろ?やったじゃん!」
私はとても喜べる心境ではないことを告げ、個人では動かすことが不可能な世の流れを嘆いた。
その言葉を受けた彼の返答がこれだ。
「お国のためになるってのに、何故そんな利己的なことを言うんだ?」
この日以降、彼と会話を交わすことは無かった。
そして私はアナーキズムな思考に傾くことになり、他者との会話を一時遮断した。
お前らに何が分かる?
応援するチームをゼロから鍛え直し、プロリーグの頂点を狙えるところまできたんだぞ。
あとちょっとなんだぞ。
国のためなら何をしてもいいってのか?
国のためと言うが、オシムは自己保身に走った者共の生贄にされてんだぞ?
何が国のためだ、ふざけんじゃねぇ!
思いは渦を巻き、やり場のない怒りは自分の人格すら変えた。
たかがサッカーだろ?ご尤もだ。
されどサッカー、だったんだよ。私にとっては。
メディアの情報は極力入れないようにした。
擁護する人もいたが、あくまで少数派だった。
日本サッカー協会へデモを行ったという情報には、少しだけ気分が軽くなった。
でも、流れは止まることがなかった。
イビツァ・オシム、日本代表監督就任。
止められなかったクラブすら、一時期は恨んだ。
新生日本代表への喝采は、何の慰めにもならなかった。
代表に招集されたジェフの選手を「七光り」と揶揄する某ジャーナリストに真っ向から喧嘩を吹っかけたのは、今となってはあまり思い出したくない。
それでも、ジェフ千葉への応援を欠かすことはなかった。たぶん、一番辛いのは彼らだから。
そしてクラブも。理性的に考えれば、あの時点で選択の余地は無かったのだから、恨むのは筋が違うと思い直した。
そんな中、ナビスコ杯の優勝は格別だった。
涙は無かった。ただただ嬉しかった。
選手が、スタッフが、クラブが意地を見せた。それが何より誇らしかった。
見たかお前ら。
こんなに素晴らしいサッカーの未来を、他ならぬトップのお前らがぶち壊したんだ。
さぞかし気分がいいだろう?お前らは保身と引き換えに、一つのサッカークラブを地獄に引きずり下ろしたんだぜ。
でもな、意地は見せたぞ。
クソみたいな仕打ちを受けてなお、タイトルホルダーになれたんだ。ざまぁみろ!
こんな昏い想いを抱いてはいたけど、躍動する選手には絶対ぶつけたくはなかった。
だから、彼らにその想いは絶対にぶつけない。
そしてあいつらにも。
この想いをぶつけたら、私はあいつらと同類になってしまう。それが嫌だった。
それが私の2006年だった。
そして、来季を迎えるにあたって、一つの決断を下した。
「シーズンチケットを買おう」と。
(次回に続く)
※註釈を入れようと思ったけど、罵詈雑言が出てきそうなので今回は註釈なしです。ごめんなさい。
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