【レビュー】辺境の老騎士

 最近アウトプットが捗りまして、先日までのスランプが嘘みたいなペースでnoteを更新している乙楽です。現実逃避では、ありません。…ごめんなさい、少し逃げたいです。
 それはさておき、今回は私が大好きな、だけどメジャーではない文芸作品を紹介したいと思います。
 タイトルは『辺境の老騎士』。

 老いた騎士は 主に暇を告げ 旅に出た
 胸に抱くは戻らない時への後悔か はたまた広い世に出た喜びか
 綾なす運命の糸は 騎士の思惑など顧みず 数奇で過酷な旅へと導く
 それはまるで 誇ることなき英雄譚
 二つの月が見守る大地を 彼は踏みしめ 進んでゆく
 行き着く先は まだ見ぬ霊峰の切っ先か 或いはそびえ立つ岩壁の向こう側か

 …とまぁ、あらすじを少々詩的に書いてみましたが、いかがでしょうか?ふむ、乙楽の解釈では分からない、ですか。でしょうね、私も分かりません。
 でもご心配なく。本編は素晴らしいほどに壮大で雄弁です。

 この作品は小説投稿サイト「小説家になろう」にて連載していたもので、既に完結しています。私は比較的初期から愛読していましたが、更新がかかる度に「『なろう』らしくない小説だなぁ」と思っていました。
 当時の「なろう」はライトノベル全盛期で、異世界、チート、可愛い女の子を過不足なく描ければ人気が出るという、ある意味では非常に分かりやすいトレンドがありました。しかし、『辺境の老騎士』は、そのトレンドに逆行するようなものだったのです。異質であった、と言っても過言ではありません。

 海外のファンタジーを輸入して翻訳したのでは、と思わせるほどの地の文の重厚さと、細部までこだわり、作り込まれた世界観。
 繊細に綴られた描写と、大胆な物語の展開。
 魅力的な登場人物と、粋に交差する人生模様。
 朝日のように温かな光と、そこかしこに垣間見える冷たい闇。
 これらの要素を全て受け止める、厳かな文体。
 明らかに場違いな空気でした。

 つまるところ、物語としての完成度の桁が違いすぎたのです。

 作者は物語を紡ぐにあたり、徹底した推敲を行っていたと、後に述懐しています。一度出来上がった物語を何度もチェックするため、毎日更新をせず、3日に一度の更新ペースを崩さずに投稿していました。ほとんどプロの作業ですね。

 これから読むだろう方々へ新鮮な驚きを楽しんでいただくためにも、私は極力ネタバレはしたくありません。ゆえに本編そのものには触れません。が、少しだけネタバレしておきましょうかね。

 この作品を読むと、本当にお腹が空きます。

 主人公が食する食べ物、飲み物の描写が秀逸で、想像上の食べ物なのに、まるで目の前にあるかのような錯覚を起こすほどイメージしやすいのです。そしてそれが、馴染み深い食べ物に思えてくるものですから、更新の度に空きっ腹を抱える羽目になりました。一つ、事例を挙げてみましょう。
 「◯◯は飲み物」。これは実際に本編に出てくる言葉で、物語の展開に絡む食べ物ですが、この時はもう我慢できず、深夜に同じものを食べてしまいました。今にしてみれば、良い思い出です。

 次に、登場人物が、主人公に相対する者も仲間になる者も、非常に魅力的に描かれています。敵対関係にあるキャラクターのはずなのに、思わず「死ぬな!」と強く思うことができるほどのレベルです。

 ここまで紹介したように、この作品は魅力に溢れています。その中から乙楽が厳選し、自信を持ってお勧めできる話のタイトルを二つ、ご紹介します。

 「仇討ち」「ゴドン・ザルコスの帰還」

 内容は申しません。ですが、私はこの二つのタイトルを読むだけで心が震えます。
 あぁ、私はこの話と出逢いたかったんだ。そう思えるほどのお話です。あなたがこの物語を読み進め、このタイトルが出てきたらお気をつけ下さい。可能であるならば、一人だけの空間で読むことをお勧めします。

 この作品が掛け値なしに面白いことは、コミカライズが大人気となっていることからも明白です。事実、私も漫画連載を読んでいますが、描写が尽く「解釈一致」です。
 原作と漫画、どちらから読んでも魅力が色褪せることはありません。むしろ増幅します。

 他にも語りたい事柄はたくさんありますが、これ以上は本編の内容に触れないと話が中途半端になりますので、一旦、ここで筆を置きます。
 この作品を読んだよ、ここが好きでした、等のお話は私も是非してみたいので、読まれた方はお気軽にXのDMなどで声をかけてみて下さい。私が大喜びします。

 『辺境の老騎士』、web版、書籍版、コミカライズと、間口は幅広いです。
 よろしければ、さわりだけでもお読み頂けたら幸いです。もちろん、無料のweb版でも大歓迎です。

 感想、お待ちしています。

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