元講師が打ち明ける「歌手やシンガーソングライターを夢見る君へ」:事務所などについて
事務所とかレコード会社とか・・・何となく知ってる?
この記事では、「事務所」とか「レコード会社」という業界の言葉について取り上げたい。
この記事シリーズは、歌手やシンガーソングライターを目指している若い人とボーカルやシンガーソングライターの講師を目指す人、または現役の講師の方々に向けて書いている。
そして、各テーマは君に伝えたい順で、記事にして書いている。
ただ、これまでの記事の中にちょこちょこ「事務所」とか「レコード会社」というワードが出てきているが、それらの意味について、特に中高生以下の読者の方には、なんとなくでしか意味がわからないかなと思う。
そこで、「事務所」とか「レコード会社」というような言葉は今後も頻繁に出てくると思うので、この記事で取り上げることにしたのだ。
「事務所」とか「レコード会社」といっても本当にいろいろたくさんあるので、この記事だけでは全部を説明できるはずもないが、君が自分の曲を送る先を考えるうえでの参考になると思う。
ちなみに今日の各言葉への説明は私の知識による「ざっくり」な説明だ。私のほかの記事を読む時に内容を理解してもらうための説明なので、ごく細かい部分は間違っていたり古くなっていたりするかもしれない。気になった人はネットや本などで詳しく調べてみよう。
まずは「事務所」「レコード会社」「音楽出版社」「著作権管理団体」を知っておこう
もし君が業界の仕組みについてほぼ知識がない場合、ざっくり言うと
「事務所はマネージャーをする会社」
「レコード会社は曲を作って売る会社」
「音楽出版社は君が歌う曲の権利関係を扱う会社」
「JASRAC(ジャスラック)は君の代わりに著作物使用料を集金し、君や各会社に分配する組織」
と覚えておけばいいと思う。
事務所は、君のことをマネージメントし、「君という商品」を売る。
マネージメントの内容にはいろいろな業務が含まれる。レコーディング/ライブ/メディア出演/取材などの君のスケジュール管理、君に依頼があった仕事の取捨選択、君を使った各種商品の企画・販売などだ。場合によっては精神面や生活面でのサポートもする。
レコード会社は、君の曲を制作し、売る。
売るといっても、個人のパン屋みたいに単独の店で売るのとは違って、例えるならヤマザキパンのような大掛かりな売り方になる。
全国に向けて売るため、まずは商品開発(制作)し、工場でパンを大量生産し(プレス)、トラックに載せて全国の店に運べるようにし(流通)、店に置いてもらうように交渉し(ディストリビューション)、販売にこぎつける。そして、テレビやネットなど、さまざまな媒体でパン(君の歌)を宣伝し、少しでも高い売り上げを目指す。
最近はCDではなく配信が主流なので、流通やディストリビューションは下火になっているが、業務としてはもちろんしっかり存在している。
プレレコーディングや音楽制作をバックアップするのもレコード会社だ。
君がオーディションに合格して事務所に所属となると、事務所からはマネージャーが、レコード会社からはディレクターが担当として君を育成することになる。
オーディションに合格した後どうなるのかについては、近々別の記事で取り上げる。
音楽出版社は、君の歌の権利を扱う。
出版社といっても、音楽出版社は基本的には何かを出版するとかはしない。
君が作曲や作詞をする場合は、その作品の使用許諾を代行する。
君が作曲せずに歌うのみであっても著作隣接権という権利が発生するため、その権利についての許諾を代行する。
「許諾する=お金をもらう」だ。
それが君のアーティストとしての収入の一部になる。
それ以外にも、歌や楽曲の権利についてのさまざまな仕事をするのが音楽出版社だ。
JASRAC(ジャスラック)という名前を聞いたことがあるだろうか。
この団体は、君や出版社に代わって君の楽曲を使用した人から使用料を徴収し、君に分配する。
このような業務を行う「JASRAC」や「NexTone」のような組織を著作権管理団体という。
著作権の使用許可とは、お金ちょうだい、ということだ。
それは本来、君自身がやっても何の問題もない。
しかし、君が東京に住んでいるとして、全国に住んでいるいろんな人たちに対し使用許可のための連絡をしたり、領収書を渡して集金したりするのは無理だ。
それを代行しているのがJASRACなどの著作権管理団体ということになる。
著作権管理団体がいないと将来メジャーデビューした君にお金は入らず、君の有名曲でライブしたい人も許可がなかなかもらえなくなる。
世の中に必要な仕組みであるのは間違いない・・・
のだが。まあ今、それは置いておく。
ちなみにJASRACやNexToneは国の機関でもなんでもない。
特にJASRACは一般社団法人という種類の組織だが、君が将来、いよいよ著作権をお金に換えるというタイミングになるまでは、ざっくり会社と思っていても差し支えない(本当はいろいろ違いはある)。NexToneは株式会社だ。
君がライブで有名アーティストの曲を歌う場合、多くの有名アーティストはJASRACかNexToneと契約しているため、君が使用料を支払わなくてはいけない。
ごく稀に自分で著作権管理をしている人もいる。
その場合でも、君はその人に直接使用料を支払わなくてはいけないのだ。
ちなみにYoutubeなどの大きい動画配信サイトは、JASRACなどと契約を結んでお金を払っているため、君が有名アーティストの曲をピアノやギターの弾き語り、または自作のオリジナルアレンジカラオケで歌う分には君がお金を支払う必要はない。
でも、カラオケ屋さんのカラオケを録音したものを使って歌うとか、たまーにCDに入っているオリジナルカラオケを使うとかすると怒られる。
下手したら捕まる。
音源を作った人にカラオケに対する使用料を支払う必要があるからだ。
ナメたらこわーいのが著作権だ。
まあ著作権まわりについてはまた別の記事で取り上げるとする。
話を戻そう。
もし君がメジャーシーンでのプロの歌手やシンガーソングライターになったら、「事務所」「レコード会社」「音楽出版社」とそれぞれ契約を結ぶことになる。
私が「デビューをつかむ方法について」の記事で、一番ダマされにくいのは、ビビらずにメジャーレコード会社のオーディションに出すこと、と提案しているのは、まずはメジャーレコード会社のオーディションに合格後、そのレコード会社の系列の事務所を紹介してもらって、最終的に「事務所」「レコード会社」「音楽出版社」と契約していく流れになるからだ。
これが最も「こんなはずじゃなかった」になりにくいパターンだからだ。
ここから、事務所のさまざまなカタチを書いていく。
事務所の様々なカタチ
オールマイティか専門か
事務所は、様々な分野の芸能人が所属する事務所もあれば、モデル事務所、俳優事務所など、特定の種類の芸能人専門の事務所もある。
オールマイティ系で言えば、吉本興業は、お笑い専門と思われるかもしれないが、昔から芸人だけではなく歌手や俳優、スポーツ選手や文化人なども所属している。
ソニーミュージックアーティスツもオールマイティ系だ。最近は芸人さんもかなり有名だが、文化人、俳優、司会者など様々なタレントが所属している。
ワタナベエンターテインメントや、EXILE・三代目 J SOUL BROTHERSなどで有名なLDHなどもオールマイティ系。
これらのオールマイティ系は、複数の系列会社(事務所)によるグループ形式をとっている場合もある。
専門系で言えば、スターダストプロモーションは俳優系だったが、いまは歌手やアイドルと俳優の2本柱のような印象だ。
わかりやすい例ではセントフォースだとアナウンサー系。
青二プロだと声優・ナレーター系。
ちなみに声優系の事務所はマネージャーが声優に1対1で世話をするというのは基本的にない。声優は基本的には自分でどんどん動く感じになる。
UUUMだとユーチューバー系。
UUUMのような会社は、新しいだけに単に事務所としてだけの会社ではないようだ。
perlならモデル系事務所となる。
モデル系事務所は怪しいところと真面目なところの判別がかなり難しい。
小さくてもしっかりしている事務所もあるので、事務所の規模では判別が難しいところが厳しい。
他には、グラビアアイドル専門、セクシー女優専門、さらにはエキストラ専門の事務所や作家専門の事務所など多種多様な専門性を持つ事務所がある。
的外れな事務所や部門に応募してしまうと、まず合格しないし、合格したとしても君が望む歌手やシンガーソングライター以外の道に誘導されてしまう。
君がまず世に出られるなら何でもいいと思うなら話は別だけどね。
大きさによる違い
事務所が大きいと、いわゆる事務所パワーも大きくなるため、やはり所属する歌手やシンガーソングライターに対する支援は手厚くなる傾向はある。
ただ、もう20年前くらいから、「デビュー前のアーティストの卵にお金をかけて育成する」という度合は減ってきている。
育成しないことはないが、その予算がどんどん減っていると感じる。良いも悪いもなく、これは仕方がないのだ。
君がもし事務所に所属できても、そのあともプレレコーディングやライブなどで結果を評価してもらい、自分の力でよりよいステージに上がっていくしかない。
事務所がお金をかけて育成する代わりに、スクールを開業して、志望者からお金をもらって育成するのが主流になりつつあるようだ。
ただ、スクールに入る入らないは、メジャーデビューにとって有利でも不利でもない。
その理由は過去の記事で書いたように「出てくる人はどこにいても出てくる」ということになる。
なぜ事務所がスクールを運営するかというと、儲かるからだ。これについては、また別の記事で君に伝える。
これが韓国だと、昔からデビュー前のアーティストの卵にお金をかけて厳しく育成しているというのが主流だ。だた、デビューできるまでは日本よりもさらに厳しいし、売れた後も、事務所としては育成に掛けたお金を回収しなければいけないので縛りがどうしてもキツくなる。今は多少状況が変わっているのかな?
また、オールマイティ系の大きい事務所だと、いろんな分野の専門家が所属していて、そういう人と話す機会があったり、知り合いになったりすることがある。これが案外、君にプラスになる。視野や活動の幅が広がるのだ。
また、担当マネージャーがどのくらい自分の面倒を見てくれるかにも事務所によって大きな違いがある。
ある芸人が多い事務所のように、大量の人数を所属させ、担当のマネージャーが面倒を見ることはほぼないという中で、そこから這い上がってくる実力者のみを優遇するという仕組みもあれば、所属数は少ない、つまりなかなか所属できないが、少数精鋭でマネージメントの面倒見はいいという例もある。
それは事務所の戦略であり、いい、悪いではない。
君がほかの要素も含めてよく調べて考えて、どっちを選ぶのか、が全てなのだ。
そしてやはり、小さい事務所はどうしても支援が少なくなるし、怪しい事務所である可能性も高まる。
歌手やシンガーソングライターを目指す君としては、やはり有名な大きい事務所の所属を目指すべきだ。それが一番難しいけど、一番寄り道が少ないのだ。
年齢を重ねているなど、もう有名な事務所には合格しないだろうと思うなら、そして、本当にその事務所をいいと思うなら、思い切ってその小さい事務所のオーディションを受けてもいいと思う。でもそれは、君が自力で売れてから、サポートしてもらうつもりで挑戦することになる。
小さい事務所でも頑張っているところもあるので本当に申し訳なく思うが、君ののために助言するなら、「小さい事務所は基本的に怪しい」と思ってよい。
また、小さい事務所の場合、事務所のスタッフの人柄では判断しないほうがいい。
もちろんスタッフや社長の人柄に違和感を感じるならすぐ逃げてほしい。
危ないと思ったらすぐに撤退する、というのは、自分の体ひとつで飯を食っていくプロにとって必須の感覚だ。
逆に、スタッフがとてもいい人だったとしても、ブラックな組織には、トップがドス黒い結果、その下で働く一般のスタッフは多少の困難でもめげずに明るく真面目に働いてしまう「いい人」が多いのだ。
回り道したり、作らなくていい道を作ったりして消耗するのが君の目的ではない。
君が心底望んでいる本当のチャンスをつかむのが目的なのだから。
ちょっと話は変わるが、メジャーレコード会社の中でも特に大きい会社の場合、地方都市にもオフィスがあり、新人発掘担当が常駐している場合がある。
逆に言えば大半のメジャーレコード会社の新人開発部門は首都圏にしかないとも言えるので、君が音楽活動を十分に行っているなら、そして東京に出ても十分に活動できるなら、やはり東京に出ることは有利だと言える。
まあでも結局、どこに住んでいても、YouTubeもあるし、メールなどで自分の曲を簡単に送れる時代なので、あまり大きな違いはないけれど。
やはり、まずは君の歌がいいものであるかが最重要。
レコード会社の人がいいなと思えば、地方だって聴きに来てくれる。
系列による違い
メジャーレコード会社と同じグループにいる事務所は、君が望む歌手やシンガーソングライターをメインにマネージメントしているため、歌手志望なのにグラビアアイドルとか、芸人とか、ほかに誘導される可能性は少なくなる。
ソニー・ミュージックエンタテインメントとで言えば、レコード会社がソニー・ミュージックレーベルズ(さらに分社化しているのでソニー・ミュージックレコーズやキューンミュージックとかに分かれている)で、事務所がソニー・ミュージックアーティスツだ。
エイベックスで言えば、エイベックス・エンタテインメントがレコード会社でエイベックス・マネジメントが事務所だ。
これもネットで調べてみるとすぐにわかるだろう。
つまり「ビビらずにメジャーレコード会社のオーディションに出せ」と提案しているのは、合格すると、そのメジャーレコード会社と同系列の音楽系の事務所に紹介されて所属ということになるで、タレントに転向させられるなど、ダマされる可能性が低く、君も音楽に集中できるからなのだ。
でも、この記事を参考に、自分でよく調べて理解したうえでなら、事務所のオーディションに応募したっていいのだ。
基本的には君が所属できる事務所は1社のみ・・・気をつけて!
エンターテインメント業では、商品は「君」本人だ。
君自身が商品というのはどういうことか。
君が2つの事務所と所属契約をしたとする。
もしも、それぞれの事務所が同じ日の夜、一つは岩手県、もう一つは鹿児島県でライブをブッキングしたとしても、君が同時に2か所でライブをすることは当然できない。
仕事を取ってくる側としては、取ってきたら必ず君をそこに行かせられなければそれこそ仕事にならないのだ。そのためには君のスケジュールを独占する必要がどうしても出てくる。
そのため、事務所やレコード会社などとの所属契約は基本的に「専属契約」となる。
これの何が怖いって、どんなに怪しい事務所であろうと、君が契約できるのは1社だけなのだ。
人間を商品にする、ということはそういうことなのだ。
つまり、君がどんなに焦っていたとか、知識がなかったとかだったとしても、地方の小さな怪しい事務所に専属契約をした場合、その後、メジャーな事務所のオーディションに合格したとしても、君だけの一存ではもうどの事務所とも契約できないのだ。
契約というのは、一般人が合法的に他人を縛る唯一の方法だ。
だからくれぐれも軽はずみに契約してはいけない。
お父さんが金持ちなら、契約前に弁護士を雇ったって全然いい。
市役所などでの無料法律相談に、契約前に契約書を見せて相談したって大げさではないのだ。
有名人でも、事務所とモメて、自分の本名なのに芸能活動で使えなくなったとか、俗に言う「干される」とか、耳にしたことがあるのではないだろうか。
小さい事務所だって関係なく厳重注意だ。
契約というのはそれほど厳しいのだ。
お互いに後で自分が不利な状況でも約束を守らせるために契約なんかするのだ。
契約ということについても、いつか取り上げることができたらと思う。
業界のしくみをよく調べて理解できたらいいね
業界のしくみについては、ネットや本でも調べられる。ネットは怪しい情報もあるので気をつけてほしいが、本は・・・最近はないか。図書館でちょっと古い本だといい本があるかもしれない。
エンタメは君が商品なのだ。
だから専属契約になる。
そしてそれは、時に君の自由を奪う。
だから、この記事をきっかけとして業界のしくみについて、よく調べて理解するための行動をとってくれたらいいと思う。
もちろん、成功したアーティストの中には何にも知らずに業界に入っていきなり売れた幸せな人もいる。
でもだからと言って君は安易に運に任せていけない。
お互い、賢くなっていこうね。
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